第68話 閑話 周辺の人々

【ルイ―ザ】


私はスカーレット様付のメイドをしておりましたルイ―ザと申します。

ある日、スカーレット様からその任を解かれました。

どうしてでしょう。

私は何かミスをしたんでしょうか。

理由は違いました。

スカーレット様が大切なお友達を匿う事になったと仰います。

その方が、どうにも頼りないと、目を放さない方がいいと仰るのです。

だからと、私に白羽の矢が立ったようです。

これはこれで名誉な事なんでしょうが、

私は出来ればスカーレット様のお傍に居たかったです。

しかし、実際お会いした人は、

確かに守ってあげなければいけない人だと、思わせてしまう様な方でした。

内情も程々聞かせていただいておりますが、それなりに不憫な方ですね。

それに多少、天然な所もお有りの様です。

これはもう、ジュリエッタ様にお仕えすると言うより、

守らなくてはいけない庇護対象でしょう。

任せて下さい。

私はこの方を、あらゆる脅威からお守りしますとも。



【エトワール伯爵】


もう少しゆっくりしたかったが、早々にジュリエッタの所を辞してきた。

わしには新たにやることが出来たからだ。

屋敷に帰ってすぐ、ジュリエッタの隠れ家の、隣の店を買い取った。

読み通り、客も少なく寂れていた店は、思いのほか安く買えた。

そこに突貫工事で家を建てさせた。

形などどうでもいい。

その場所に相応しいもの。

そうだな、しいて言えばジュリエッタや、追跡者を欺けるよう、

夫婦者が住むのに相応しいような家がいいだろう。

そしてわしは、二人の人物を選び出した。


「エイブラム・ロジャーズ、ケイティ・マクラホン

二人に頼みがある。」


「「はっ、何なりと。」」


「実はわしの孫が、今危険な目に遭っている。

二人にはわしの孫をガードしてもらいたい。」


「「御意。」」


「して、今、孫のいる隠れ家の隣に家を作らせている。

二人は夫婦として潜入してくれ。」


「は?」


「夫婦でございますか?」


「あぁ、怪しまれないでいいだろう。」


「はぁ………。」


どうも乗り気ではないようだが、

家の作りも家具も、それらしいように手配をしてある。


「あの…、実際に夫婦者で御前に仕えております者もございます。

その者の方が、宜しいのではないかと思いますが。」


ケイティがそう言う。


「それも考えたが、

やはり年の近い者の方が、ジュリエッタが馴染みやすいだろう。

それに戦闘力はお前達の方が上だしな。」


エイブラム達が言っている夫婦は、既に40歳を超えた。

まあ、老夫婦と言う設定で近づけるだろうが、

やはり実戦となると若い者の方が良い。


「お前達の気が進まないのであれば、他の者をあたらねばならない。

返事は早くしてほしいが。」


「あ…、しょ、承知しました。」


「そうか、ジュリエッタをよろしく頼む。エイブラム。

して、ケイティはどうだ?やはり無理か?」


「いえ、私もやらせていただきたいと思います。」


「そうか、二人とも面倒を掛けるが、よろしく頼む。」


まあ、この二人なら申し分ない働きをしてくれる筈だし、

何より断る事が無いと踏んでいた。

さて、そろそろ家も出来る頃だろう。

早々に旅立ってもらおうか。




【エイブラムとケイティ】


「本当にいいのかケイティ。」


「何を今更。」


「だがな、役は新婚夫婦だぞ。

お前は大丈夫か?」


それこそ今更だ。

もう了承してしまった事だし、

今から断ったりしたら信用問題にかかわる。

私達特殊部隊は、それなりに役を演じ、

それなりにふるまう事だって必要とされてきた。


「いつも通り割り切りますよ。

でも、先輩の方こそ大丈夫なんですか?

新しい彼女に勘違いされませんか。

ゴタゴタはごめんですからね。

ちゃんと説明しておいて下さいね。」


2週間ほど前に、嫌と言うほどのろけ話を聞かされたばかりだ。


「お前って、人の傷を抉るのが、天才的にうまいな。」


「はぁ?何の事ですか。」


先輩にそんな事を言われる覚えはない。

でも、そんな事を言い出すとは、もしかすると……。


「先輩、彼女に振られたんですか?」


「だ~~~っ、そうもはっきり指摘するか。

ああそうだよ。振られたよ。

スッパリとね。」


「一体何をやらかしたんですか。

あんなにラブラブを見せつけといて。」


そう10日ほど前、突然先輩は彼女を伴い、私の前に現れた。

一体どういうつもりだったんだろう。

彼女はおざなりの挨拶をしただけで、

先輩の腕を取り、引っ張るように帰って行った。


そんな二人だったのに、分かれた?


「何が有ったんです?

何だったら、愚痴ぐらい聞きますよ。」


「いや、いいよ。

お前には関係ない事だ。」





そう言ったが、お前には大いに関係あるんだ。


彼女との数度目のデートの時、彼女にいきなり言われた。


「よっぽど可愛い人なのかしら。」


「藪から棒に、一体何の事だい。」


彼女は顔をゆがめ、まるで泣き笑いするような顔で俺に言った。


「あなた気が付いてなかったの?

私と二人きりでいる時でも、

必ず後輩の話をするのよ?

それも特定の。」


「そうか?

全然気にしていなかったが、

そんな事していたかな?」


「ケイティ・マクラホン。

私が覚えてしまうほど、何度もその名が出て来たの。」


ケイティ?

まあ彼女は俺の後輩だし、一緒に任務にあたる事も多いしな。

何かの拍子で名前が出てしまうのだろう。


「ねぇ、合わせてよ。」


「バカ言え、何で彼女に会う必要が有るんだ。」


「私があなたの彼女だから。」


それがケイティと会う理由になるんだろうか?


「分かった、ケイティに確認してみるよ。

彼女の都合のいい日でいいか?」


「今!今日会いたいの!」


「なに勝手な事を言ってるんだ。

だいたい会いたいと言っているのはコニーだろ。

だったら相手の都合に合わせるのは、こちらじゃないのか?」


「………バカ!」


バカ?俺が無いをしたんだ。


「とにかく行くわよ。

何処にいるの!?」


「え、ああ。

休みだから今日は宿舎じゃないかな…。」


今日出かけるとは聞いてなかったからな。

するとコニーは俺の手を掴み、宿舎の方にずんずんと歩いて行く。

一体どういうつもりだろう。


それから宿舎に着き、ケイティを呼び出した。

一体何の用事だろうと思っていたが、

彼女を1分ほど眺めただけで、

コニーは踵を返し、再び俺を引きずるように帰っていく。


近くの公園で彼女はいきなり立ち止まり、俺を真直ぐ見つめた。


「ねぇ、私の事…好き?」


「?……あぁ、すきだよ。」


好きじゃなきゃ付き合う筈ないだろう。

そう俺は思っていたが。


「分かったわ。私たち別れましょう。」


一体何を言っているんだ?

俺はコニーの事を好きだと言ったのに、

それを聞いた上で別れるだと?

それなら俺は何と言えばよかったんだ。

さっぱり分からない。

だいたいにして、付き合ってくれと言ったのはコニーだろ。

何、我が儘な事を言っているんだ。

やっぱり女と言う生き物は面倒だ。

ケイティならこんな面倒な事は言わないだろうな。


「理由を聞いてもいいか?」


「今更?

いいわ、それはね、あなたがあの子の事を好きだからよ。」


「俺がケイティの事を好きだと?

初耳だな。」


そうだな……。嫌いと言う存在じゃぁ無い。

まあ好きな部類に入るとは思うが、好きの種類が違う。

そう思うが…。


「あなた、自分の事が分かっていないのよ。

今度から鏡を持って歩くといいわ。」


「何の事だ。」


「あなたね、眼が違うのよ。

私を見る時と彼女を見る時の眼が。」


そうなのか?いや、やはり同僚を見る目と

彼女を見る目は違っていて当たり前だろう。


「あなたのあの子に注ぐ眼差しは、私に向ける目と全然違うの。

あの子を見るあなたの目はとても穏やかで、だけどとても熱いの。」


「行っている意味が全然分からないのだが。」


「それを自覚していないだけ、私は救われるわ。

とにかく、もう二度と会いたくない。

さよなら。」


そう言いたいだけ言って、彼女は去って行った。


「何なんだよ一体。

訳が分からない。」


とにかく俺は振られたらしい。

理由は?

俺が彼女よりケイティを好きだからと言っていたが、俺にはそのつもりは無い。

……………本当か?

確かにコニーといるよりはケイティといる方が楽しいな。

話も合うし、気兼ねをしなくてもいいからな。

だがそれは恋愛とは違うだろう。

愛していると言うのとは違う。

……………本当にそうか?

コニーを好きだと思って付き合っていた。

彼女だと思っていた。

そしてケイティはそれ以上の存在だ。


何てこった。

盲点だったな。

どうやら俺はケイティの事を好きなようだ。

そちらの方の意味で。




「元気出して下さいよ先輩。

彼女なんて、またすぐできますって。

まあ、この任務が終わった後でしょうが。」


「そうかなぁ。

任務が終わるまでダメかな。」


「そう都合よくいかないでしょう。」


「そうかなぁ。」


だが、都合よく、お前とは暫く同じ屋根の下で暮らすんだ。

かなりのラッキーだろう。

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