第67話 ジュリエッタは見た!

それから間もなくのある朝、

たまたま階段の上からのぞくと、お隣さんのご主人が出勤の様子。


「それじゃあ言って来るよ。」


「ええ、行ってらっしゃい。

あの…早く帰って来てね。」


「あぁ、そうする。

今日は仕事は休みなんだろ?」


「はい。

だから私も家事をするぐらい。

心配しなくても大丈夫よ。」


「あぁ、でも無理はするなよ。」


それから二人はチュッとキスをし、軽く手を振ってご主人はご出勤。

奥様は姿が見えなくなるまで手を振っていた。


「仲がよろしい事で。

はー、羨ましい。」


そして私も中に戻った。



そしてその日の昼頃、

私とルイ―ザが買い物に出かけた時、

表通りに有るお茶所で、ブレットさんを見かけた。

あまり目立たない席で、じっと家の方向を見ている。

お昼なら自分の家に帰ればいいのに。

その方がローナだって喜ぶはずよ。

そう思ったけど、人にはいろいろ都合が有る。

私が言うのも大きなお世話だろう。

だから私はルイ―ザにも言わず、その場を通り過ぎた。


しかし、次の日もその店でブレットさんを見た。

それもお昼時ではない、普通だったら仕事をしている時間だ。

おかしいなと思いつつ、その日も通り過ぎました。


でも、気になりだすと気になってしまうのが乙女心。 

外に出ると、ついその場所を見てしまう。

すると、かなりの確率でブレットさんがそこにいるんです。

時間だってバラバラのはずなのに、

いつもその席にいらっしゃるんです。


「ねぇ、ルイ―ザ、

ベイリーさんって、何か有ったのかしら。」


「いえ、ローナさんからは何も聞いておりませんが。」


そうよね、私も聞いてない。

もしかすると……。

いえ、きっとローナさんもあの事は知らないんじゃないかな。


「実はねルイ―ザ、私見ちゃったの。

隣のベイリーさんのご主人がね…………。」


それから私は見た事や、感じた事をルイ―ザに話した。


「ね、おかしいわよネ。

私が見る度にあそこにいるって事は、

ご主人お仕事に行ってないんじゃないかしら。

もしかしたらリストラされたとか…。

で、ローナさんに話しずらいから内緒にしていて、

それでもローナさんの事が心配だからあそこから家を見ているのよ。」


そうだ、そうに違いない。


「ジュリエッタ様、それが事実であろうと、勘違いであろうと、

家庭にはそれぞれ事情と言うものが有ります。

ここは黙って、見守る方がよろしいかと。」


「それはそうかもしれないけれど、

でも何か大変な事が起きていたらどうするの。」


「もし、どうにもなら無くなったなら、

その時はきっと本人から助けを求めて来るはずです。

ですからその時まで、そっとしておいてあげましょう。」


それはそうかもしれないけれど、

でも、私で助けになれるなら、何とかしてあげたい。

出来るのであれば、力を貸してあげたい。

でもそれは、余計なお節介かしら。



でもその件は、私の杞憂に終わった。

その日の午後、

スカーレットがブレットさんの手を引き、教室の事務所に現れたのだ。


「ここのところベイリーさんがこの近辺をウロウロしていて、

おかしいなぁと思ったから捕まえて話を聞いてみたのよ。

そしたら仕事を首になったっていうじゃない。

彼って器用そうだし、色々な事が出来そうじゃない?

だから私の所で雇う事にしたのよ。」


「ス、スカーレット!?」


ズケズケとそんな事を言って、ここにはローナだっているのに。


「いえ、私も多分そうではないかと思っていたんです。

でも、私には何もできないし、主人に任せるしかなくて…。

本当にダメな妻ですね。」


「それだけ愛されているって事よ。」


スカーレットはそう言って豪快に笑い飛ばした。


「取り合えず仕事は、私がこちらにいる間の秘書をしてもらう事になるけど、

私もいつもこちらにいる訳じゃ無いから、そんなに忙しく無いと思うの。

だから暇な時は、マーガレットの手伝いに使ってやって。」


「えっ、雇うって、ひ、秘書?

ベイリーさんって大工さんよね。

そんないきなり秘書をしろって言っても、大変じゃない?

スカーレット、人には適材適所と言って…。」


「あ、その事でしたら、

私は4年ほど、秘書としての経験がありますから大丈夫です。

それに、隠れずに妻の安全を確認できるなら、

これほど適した職場は有りません。」


ラブラブですね……。

こうもあっさりと解決するとは、あれほど悩んだ私の苦労をどうしてくれよう。


「でも、良かったですね。

これからは隠れずに奥さんの傍に居られるし、

あの茶所のご主人もさぞや安心できるでしょう。」


そうよ、1日中、1つの席を独占されれば、店だってきっと大損害だわ。

これ位の嫌味、言ってもいいわよね。

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