第66話 ご主人はスーパー職人

その後、何回かネズミが現れたようだけど、

その度にローナが追い払ってくれたみたい。

みたいと言うのは、実際私が確認していないからだ。

でも、そのたびにルイ―ザの機嫌も悪くなる。

だからネズミは確実にウロウロしているんだろう。


「ローナ、またネズミ?」


「はい、今回のは、前回とは違うネズミのようです。」


困ったものだ。


「やはり、裏通りだからネズミも多いのかしら、

いっその事、専門の業者を呼んで退治してもらいましょうか。」


一気に一掃してもらえば、ローナの気も安らかになるだろう。


「それは無理かと…。

ネズミなど後から後から湧いてきます。

時間をかけて退治していきましょう。

餌がいないと分かれば、自然に来なくなりますよ。」


そうね、それまで私の隠し財産のお菓子も、

しっかりしまい込んでおかなくちゃ。


なお、ローナが窓枠や扉を傷つけると、

次の日には旦那様のブレットさんが修理に来てくれる。


「妻がとんだ無作法をしまして、申し訳ございません。」


「いえいえいえ、こちらこそ本当にお世話になっております。」


私にとって、ローナは無くてはならない存在となっていた。


ブレットさんは慣れた手つきで修理を始め、ものの見事に傷を消してしまう。


「凄いですね。ここに傷が有ったなんて信じられないくらい。」


「はは、好きなんですよ、こういう仕事が。

もし他に修理したいところや、必要な物が有ったら遠慮なく言って下さい。

私に出来る事でしたら、お手伝いしますよ。」


願っても無い話だけど、何か有ったかしら?


「マーガレット様、扉のヒンジがガタついていました。

それと、生徒の荷物の収納も必要かと思います。

もしよろしければ、

この際ブレットさんにお願いなさったらいかがでしょうか。」


そうだわ、ヒンジは気が付かなかったけれど、

生徒の荷物を入れる棚は必要だと私も思っていた。


「でも、そんなロッカーのような物まで作れるかしら。」


私の考えていたのは、バックやコートなども片付けられる、鍵付きの収納だ。

それをできれば人数分、つまり30以上は必要となる。


「構造やサイズを言ってくれれば、後は数をこなすだけ。

意外と簡単だと思いますよ。」


「ブレットさんは、大工さんなんですか?」


「いえ、……そうですね、大工まがいの仕事にも付いていた事が有ります。

今は、ただの馬車職人ですけど。」


そうなんだ、でも仕事の合間にしてもらう事になるなら、

ブレットさんは休み無しで疲れてしまう。


「今はちょうど暇な時期ですから、

仕事は親方に任せても大丈夫なんです。」


そう言ってすぐにでも取り掛かる気満々だ。

もしかしたら、副収入になると思っているかもしれない。

取り合えずお任せしましょう。


それから作ってもらいたい物の形や大きさを伝え、材料費などを先に支払った。

すぐにブレットさんは設計図を起こし、私に確認に来る。

材料を買い入れたと報告は有ったけれど、どうやらそれは自宅に積んであり、

加工も空いている時間にしているみたい。

それから広く改築したホールの隅に、少しづつ材料を持ち込み組み立てていく。

もちろん授業の無い時間に。

そして数日後には、私の思い描いていた以上の物が出来上がっていた。


「凄い!

使い勝手も良さそうですし、とても立派で頑丈ですのね。

鍵も埋め込み式なですか。」


私はてっきり、南京錠を掛けるだけと思っていたんだもの。

には3段の棚が有り、扉側にはコートなど長いものが掛けれるようになっている。

扉の表には飾り用のモールが取り付けられ、洒落た作りになっているし、

色も教室に合わせて、オーク調に塗ってある。


「いやぁ、喜んでいただいて嬉しいです。」


「こんなに素晴らしい物を作っていただいて感謝に耐えません。

それで、え~と、いかほどお支払いすればよろしいかと…。」


これって安い出来合いの物を買っても、1つ10,000ゼラはするよね。

いくら材料費は払ってあると言っても、

この技術を見たら、それ以上の金額を支払うのは必至。


「そうですねぇ、材料費はいただいてありますから、日当だけ頂けたらと…。」


「日当…ですか?

失礼ですが、相場が分からないのですが、今のお仕事のお給料は…。」


「ええ、今の仕事の日当はかなり頂いていまして、12,000ゼラぐらいでしょうか。」


日当が12,000ゼラ、材料費を渡してからほぼ5日。

と言う事は、60,000ゼラですか?

ロッカーを30作って60,000ゼラ?


「とんでも有りませんわ。

こんなに素晴らしい物を作っていただいたのに、60,000ゼラなんて。」


「いえ、追加の材料費が有りまして、

出来れば65,000ゼラいただけたらと思います。」


眩暈がしそうだ。

なぜあなたの親方は、

こんなに素晴らしい技術を持つあなたを12,000ゼラで扱使う。

馬車屋だから仕方がないのか?


「分かりました。

今用意して参りますからお待ち下さい。」


そう言って奥に引っ込んで、支払うべきお金を用意する。

そして再び出て来た私の手には、しっかりと封のされた1枚の封筒。


「どうぞお納め下さい。」


そう言って差し出した。

ブレットさんは、どうもと言いながらそれをあっさりと受け取ったけど。

瞬間怪訝な顔をしていた。

多分自分の思っていた封筒の厚みと違ったからだろう。


夫婦二人で帰って行ったので、私はすぐに、しっかりと戸締りをした。

絶対にブレットさんは、お金を返しに来ると思うから。

それからルイ―ザと、久々に夜の街に食事に出る。

帰りは少し遅くなります。

ブレットさんに捕まらない様に。

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