第6話 修羅場

私の企みはいたって単純…だと思う。


まず、この二人を絶対に結婚させると言う確約を取る。

これ大事。

そうすれば私は、アンドレア王太子殿下と結婚しなくて済むのだ。

つまりは、この先一生、アンドレア様の嫌がらせを受けず、その行動や気分に振り回わされず。

心穏やかに過ごせるのだから。

結婚?

そんなもの、当分考えたくもないわ。


しかし、私もこの国の国民の一人。

アンドレア様が国王に立った時、この国の行く末を考えると少々罪悪感が残る。

此処はやはり私が我慢をし、アンドレア様と結婚をして、何とか宥めすかしながら手綱を取るべきかとも思った。


………ダメだわ、絶対耐えられそうもない。

私にも幸せを夢見る権利があったっていいじゃない。


だから私は、自分への確約がもらえてから、

アンドレア様をその座から引きずり下ろし、

代わりにスティール様を王太子殿下の座に据えたらどうかと考えた。

彼なら年は若いが、アンドレア様よりよっぽど国王に相応しい。


そして私はまた考えた。

考えて、考えて、考えた結果、この場でその考えを実行に移すことにしたのだ。


だからお願いスティール様、変な事言いだして、私の計画を台無しにしないで。



「ジュリエッタ嬢ほど、これからの我が国の王妃に相応しい女性を私は見た事がありません。

何よりも我が国の事を思い、思慮深く、つつましい。

かといって、決して消極的でもなく、やらなければいけない事は行動に移す。」


「ちょ、スティール王子殿下、私の事などどうでもいいのです。

今はこのお二人の幸せを……。」


「ほら、このようにして自己犠牲をもいとわないその姿。

何と美しいのでしょう。

私は幼い頃から、兄上とジュリエッタ嬢の事を見て参りました。

兄上の嫌がらせにも耐え、それでもこの国の為、良い王妃になるよう努力を重ね、

ずっと兄上の行いに耐えてきたのに、

最後には自ら身を引き、他国へと行かなければならなくなるこの仕打ち。

これでは余りにもジュリエッタ嬢がお気の毒です。」


いや、私は自分が幸せになる為にこれをやっているんです。

頼みますからスティール様は、くちばしを突っ込まないで下さい。

お願いします。


「何と…。

アンドレアがジュリエッタ嬢を虐げていたと申すか。

しかしアンドレアの話を聞けば、ジュリエッタ嬢とはうまく行っていると、

そう申していたぞ。

時にはジュリエッタ嬢の素晴らしさを、まるで惚気る様にも言っていた。

信じられぬ……。」


「信じられぬと言われても、それでは今のこの状況をいかがされます。

兄上はミレニア男爵令嬢をパーティーのパートナーとして伴い。

婚約者であるジュリエッタ嬢は、一人壁の花となっています。

おまけに兄上とミレニア男爵令嬢の、結婚宣言の証人は多数いる始末。

これでも父上は、二人がうまく行っていたと思われますか。」


スティール様の言葉に、詰まる国王陛下。


いけない、このままでは話が有らぬ方向に行きそうだ。

まずは最初の目的に話を戻さねば。


「国王陛下、私の事など、どうでもいいのです。

私とアンドレア王太子殿下は、

お分かりのように、何の思いも通っておりません。

しかし、ミレニア男爵令嬢様とは深く愛し合っているご様子。

お願いいたします、どうぞお二人の結婚を認めてあげて下さいませ。

その為でしたら私…、そうだわ、国王陛下の仰るままクリュシナに参ります。

お願いします。そうさせて下さい。」


アンドレア様の妻になるぐらいなら、クリュシナの高級保養所で、

優雅に過ごした方が、今と比べようが無い程素晴らしい筈ですわ。


「それほどまでにジュリエッタ嬢は愚息の事を思っていてくれるのか。

ならば今一度、アンドレアの事を考え直してくれぬか。」


…………嫌です。


「そのような顔をせず。

な、ミレニア嬢の事はこちらで何とかするから、どうかもう一度。」


……絶対嫌です。


「そんな!王様酷いです!

私とアンドレア様は愛し合っているのに、それを引き裂くんですか!

酷過ぎます~~~~~。」


またも大声で泣き崩れるミレニア嬢。

その横で、慌てふためくアンドレア様。

さすがに泣いている女性を放置は出来ないのか、

抱き起し涙を拭いたり介抱している。


そうそう、泣いている少女には、優しくしてあげてね。

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