第5話 脅迫

グレゴリー帝国。

我が国に隣接する強大な国。

今はその国と我が国は、表面上は友好関係を結んでいるけれど、

多分あちらは、隙あらば我が国を取り込もうと、手ぐすねを引いているだろう。

おまけにそこは、私のお母様の母国でもある。


お父様と、やはり大恋愛の末結婚したお母様は、何もかも捨てお父様に嫁いだ。

でも私は知っているの。

グレゴリー帝国の伯爵であるおじい様は、未だにお母様を諦めていない事を。

だって時々私に、内緒でお手紙を下さいますもの。


いざとなれば、おじいさまに助けを求める事も出来たけど、

でも私はそんな事はしない。

自分の尻拭いは自分でやる。

ただ、グレゴリー帝国の名だけは借りるつもりよ。


「国王陛下、私は心の底から、お二人に幸せになっていただきたいのです。

その為には、私がこの国に留まればきっとお二人は心を痛めたまま……。

それでは私の気が済みません。

ですので、私はまずグレゴリー帝国のおじい様、

エトワール公爵家にお世話になり、

その後ゆっくり自分の身の振り方を考えるつもりでございます。」


「グレゴリー帝国のエトワール伯爵!?

それはいかん!

いや、そ、そうでは無く、この国にも良いところは沢山あるぞ。

そうだ!ミューズ湖の畔のクリュシナなどどうだ?

そこでしばらく静養を兼ね、ゆっくりとするが良い。」


クリュシナ、そこは確か、王室の持つ特別に素晴らしいとされる保養所でしたわね。

でも、グレゴリー帝国と真逆の方向。

何を考えているかは見え見えですわ。


「ジュリエッタ。

もしあなたがグレゴリー帝国に行くなら、私も一緒に参りましょう。」


お母様…。


「ジュリエッタと、セリーナが行くなら、当然私も行こう。」


お父様。

お二方共、私を助ける為に……、でも大丈夫ですわ。


「お父様、お母様、ありがとうございます。

でも、私一人でも大丈夫ですわ。

グレゴリー帝国のお祖父様はとてもやさしい方と伺いました。」


「それは分かっています。

それにグレゴリーのお祖父様は、

あなたにはこっそりお手紙を下さっていたでしょう?」


あら、バレていましたの?


「まだ、会った事の無い孫とは言え、あなたの事は大そう気に掛けているはず。

もしあなたがあちらに行くとなれば、それは喜んで迎えてくれますよ。

きっとあなたの為に、何でもしてくれるわ。

でもその場合、私たちがこちらに居ては、グレゴリーのお祖父様にとって、きっと都合が悪い筈。

ここは私達も一緒に行くべきなのです。」


お母様、そこまで大事にしなくても………。

ほら、傍で国王陛下が真っ青な顔をなさって、汗をだらだらと……。

少し見苦しいですわ。

私はそっと、手元に有ったハンカチを差し出した。


「これは…。

そなたは何と、気立てが良く、優しいのだ。」


国王陛下、これは常識の範囲内です。

ただあなたの状態が、見るに堪えなかったのでお貸しした迄。

あっ、いえ、それは返していただかなくて結構です。

出来ればお捨て下さい。


「まったくです。このように素晴らしいジュリエッタ嬢を、

何故兄上はこうも虐め倒すのか、不思議でなりません。」


そこに口を出したのは、スティール様。

ややこしくなるから、黙っていてほしいのですが……。

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