第2話 だから私は破棄をする

「それがあなたの言い分なのね。

で、アンドレア王太子殿下は何と仰っているの?」


「えっ、そっ、それは…。

と、当然あなたの事は憐れんでいたわ。

アンドレア様はとても優しい方ですから、あなたには可哀そうな事をしたって。

でも、彼はもうあなたと結婚する気は無いのよ。

だってアンドレア様は、私の事を愛しているんですもの。」


「そう。」


多分それはあなたの思い込みとでまかせ。

だって、一応私は彼の事を子供の頃から知っているのよ。

いくら性格が悪くても一国の王太子殿下だ。

それなりの分別は持っているだろう。(多分)

その彼が、軽々とあなたに結婚を求める筈がない。

けれど、もしどうしてもあなたとの結婚を、本当に望んでいるならば、

私の説得を、あなた一人に任せる訳が無い。

でも、そう知っている私は、これを利用させてもらう事にした。

いつまで経ってもガキの様な嫌がらせを受けてまで、

一生添い遂げたいと思うものか。


「よく分かりました。あなた方の考えが。」


「良かったわ。

ではあなたは…。」


「ええ、私は身を引かせていただきます。

あなたは、王太子殿下といつまでもお幸せに。」


そう、お伽噺のように、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

になる事を祈っているわ。

心の底から。


それからミレニア一行は、まるで悪い王女に勝ったヒロインのように

勝ち誇ったような笑顔を浮かべ、はしゃぎながらその場を去って行った。


「ご覧になった?スティール様。」


「あぁ、しっかりと。

でも兄貴も馬鹿だよな。

君に嫌がらせをするにしても、浮気相手はちゃんと選ぶべきだったよな。」


「いいのよ。私には関係ないから。」


「ふーん、潔いんだね。」


ふふふ、そう言う訳では無いわ。

呆れ果てているだけよ。


彼はこの国の第二王子殿下で有るスティール様。

私より3歳年下だ。


来年からは国政に携わる予定だけど、今はまだ自由の身。

その為か、しょっちゅう城を抜け出して市井をぶらついたり、

ふらっと私の前に現れたりする。


こんな事をしていないで、勉強をしなくていいの?

そう言う私に、


「机の上での勉強より、こうして街に出たり、人の生活を見て回る方が、よっぽど勉強になる。」


そう言って笑う。

同じ兄弟なのに、私への嫌がらせを生きがいとしているようなアンドレア様と、こうも違うものか。


「アンドレア様より、あなたの方が、国政を牛耳った方がよっぽどいいと思うわ。」


これは私の本心。


「これも世襲制だから、仕方が無い事さ。」


諦め顔でスティール様が言った。


「ねえスティール様、お願いしたいことが有るの。いい?」


「ジュリエッタの望みなら喜んで。

何でも言って。」


極上の笑顔でスティール様は、私の願い事も聞かずに了承した。




そして今日、城で開催されるパーティーで、私はアンドレア王太子殿下に、婚約破棄を言い渡したのだ。




案の定、アンドレア様は私のパートナーになる気はさらさらなかったのだろう。

ミレニアを伴い、堂々と会場の扉を潜った。

あと数分で、国王陛下の挨拶が有り、パーティーが始まる。

最後の慈悲に、私はアンドレア様に話しかけた。


「私の婚約者であるあなたが、なぜパーティーで、ミレニア男爵令嬢を伴っていらっしゃるの?」


ここで、もしあなたが詫びるのならば、この後の事は考え直そうかとも思った。

しかし、アンドレア様はそんな態度は微塵も無く、私を見下したような顔で言う。


「招待状には、君のパートナーの事など何も書いていなかった筈だ。

私にパートナーになってほしければ、ちゃんとそれなりに頼めばよかったのだ。

それともお前の口は、お願いも出来ないのか。

パートナーの指定が無かった以上、

私がミレニアを伴っても何ら問題は無いだろう?」


馬鹿だ。


常識を知っていれば、婚約者がいた場合、それをパートナーとするのは常識。

アンドレア様はそれをあえて無視した。

きっと私をパーティーの壁の花にし、他の人の笑いものにしたかったのだろう。

そこまで私に嫌がらせをしたいのか。


「それがあなたの答えですか。

よく分かりました。

アンドレア王太子殿下、本日ここにおきまして、あなたとの婚約を破棄させていただきます。」


そう、これが事の顛末。

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