悪役令嬢は、王太子殿下とヒロインの裏をかき、婚約破棄を言い渡す。－伯爵令嬢ジュリエッタの苦難―

第1話 婚約破棄へのプロローグ

「アンドレア王太子殿下、本日ここにおきまして、あなたとの婚約を破棄させていただきます。」

私は我が国の第一王子である、アンドレア様に向かい、そう宣言した。

「なっ！一体何を言っているんだ！」

何って、今の私の言葉を聞いてなかったんですか？

あなたと私の婚約を破棄すると言ったのですよ。

私ジュリエッタとアンドレア様は、幼少の頃からこの婚約を余儀なくされた。

理由はいたって簡単。

わが父にも王位継承権があったからだ。

それを脅威に思った王室は、私とこの王太子殿下を結婚させ、

この国に波風を立てず、且つ我が家が継承権を行使しないようにと、一方的にこの婚約を望んだのだ。

両親は何とか断ろうとしたらしいが、王室からの申し出であり、上級貴族からの圧力も有って、断れなかったと言う。

「だが、お前が大きくなって、この婚約が苦痛で有ったなら必ず私たちに相談するんだよ。

絶対に何とかしてあげるから。」

両親は、私が幼い頃から、まるで呪文のようにそう言っていた。

でも、私にだって、考える頭は有る。

自分の立場に責任を感じる頃には、この結婚は国にとっては必要な事だと理解し、義務として受け取ることが出来た。

王子様と結婚する。

その言葉にドキドキした時も有ったけど、

それは王太子殿下が私に嫌がらせをする迄の話だった。

それでも私は、淑女であれとの教育を素直に受けた身だ。

婚約が成立した以上は、王太子妃となる立場。

その為の教育も我慢して受けた。

この結婚がなされた場合、それが身に付いていない事で、

後々恥をかくのは自分だ。

だから小さい頃から、不平も言わず、顔にも出さず、王太子妃たるものの教育を受け続けたのだ。

かなりきつかったけれど、努力したなりの見返りは必ず有る筈だ。

だが、限度にもほどがある。

アンドレア様は、多分私との結婚に反感を持ったのだろう。

いつも私に冷たく当たり、そのうち嫌がらせをするようになった。

そのくせ、陰では熱い目で見ていたのを私は知っている。

何て大人気の無い。

ところがその内それだけでは済まなくなった。

複数の女性と遊び回るようになったのだ。

それでも特定の女性を、傍に置かなかったので、

私は何とか我慢することが出来た。

だがある時から、たまたま舞踏会で知り合った男爵令嬢のミレニアと、

まるで私に見せつけるかのように親密になっていったのだ。

アンドレア様にとっては、私に対するただの嫌がらせだったのかもしれない。

しかし、相手のミレニアは、まるで自分がシンデレラになったかの様子だった。

それはそうだろう。

しがない男爵令嬢に、いきなり王太子妃への夢が降ってわいたんだ。

もう、今の彼女にはアンドレア王太子殿下の事しか考えられないのだろう。

「ごめんなさい、ジュリエッタさん。

でもアンドレア王子様は、私を愛してしまったの。

どうか私達をそんなに責めないで下さい。

そしてお願いだから、何も言わずに身を引いてちょうだい。」

馬鹿ですか。

おまけに王子様ですか。

ちゃんと王太子殿下と仰い。

ミレニアは伯爵令嬢でもある私に、人の目のある所で声を掛け、堂々と裏庭に呼び出し、

まあ予想はしていたけれど、いきなり直球でそんな事を言う。

彼女の周りには、10人ほどの少女が、

皆同じように目を潤ませ、私を見つめていた。

多分、同じ男爵令嬢や、大地主の娘、大手の商家の娘達だろう。

夢見る一団と言う表現がぴったりだ。

大方、ミレニアと、王太子殿下のラブロマンスに萌え、

まるでコバエの様にミレニアの周りに群れているのでしょう？

私は呆れかえって深いため息をついた。

「あなたは、爵位と言うものをご存じなの？

私は伯爵令嬢、そしてあなたは男爵の娘。

これがどういう意味を持つのか、教えてくれる人はいなかったの？」

「そ、それは知っているわ。

確かに今の私は、あなたより格下よ。

でも、アンドレア王子様と結婚すれば、私は王子様の妻になるの。

あなたは私に逆らう事を許されない立場になるのよ。」

いかにも勝ち誇ったような顔で私を薄ら笑う。

そうね、何事も無く、無事にあなた達が、結婚すればの話だけれど。