第3話 断罪

私はよく声が通るよう、タイミングを選んだ。

そう、国王陛下がスピーチをすべく舞台に上がるその直前を。

他の方々は、陛下が壇上に上がる為、いつもの様に静かに頭を垂れていた。


案の定、此処に居るほとんどの方に私の声は届いただろう。

人々は私達に注目し、陛下は石のように固まり、こちらを凝視している。


「なっ、何をいきなり…、そんな事今言わずとも。

お前、何を取り乱して、

いや、皆、こちらを見ているじゃないか。

俺はそんな事、一体何を考えているんだ。」


取り乱しているのはあなたでしょ?

私は全然取り乱していないわ。

だって、これは全て、計画の一環だもの。

まあ、多少の演技はしますけど。


「アンドレア王太子殿下。

あなた様はそちらのミレニア男爵令嬢様と結婚されるとのこと。

それでは、わたくしはお邪魔のはず。

私は、これまで長年に渡り、あなたの仕打ちにも耐え、

あなたの妻に相応しくなるよう、辛い教育を受けて参りました。

それも全て、国の為、王家の為、惹いてはいずれ国王となる、あなた様に

恥をかかせてはいけないと思う一心でございました。」


「それほど私の事を思っているなら、

なぜこのような場所でそのような事を言う!」


「先ほども申しましたが、

先日そちらのミレニア男爵令嬢様に、彼女とご結婚ならるとお聞きしました。」


「何を戯言を…。ミレニアが身分も弁えず、そんな事を言う訳ないだろう。

大体にして、俺はミレニアにそのような事を話した事も無ければ、

結婚などするつもりなど無い!

一体そのような事誰が言ったのだ!」


「ですから、そちらのミレニア男爵令嬢様が。

あぁ、そう言えば、その時ミレニア男爵令嬢様のお友達もいらっしゃいましたね。10人ほど。」


証人には事欠きません事よ。


会場は次第に、ざわざわと密やかな声が上がってくる。

それに気が付いたのか、アンドレア王子も焦りを隠せないようだ。


「と、とにかくその話は、後日場所を設け、改めて話そうではないか。」


そうでしょうとも。こんな所でこれ以上恥を掻きたくは無いですよね。

でも、私は此処の方が都合がいいのよ。

こんなに多くの証人が出来るのだから。


「でも、私が一刻も早く身を引いた方が、

そちらにミレニア男爵令嬢様が、安心なさるでしょう。」


私が、しつこいぐらいにミレニアに男爵令嬢様と呼称を付けるのは、彼女の立場を認識させる為。


「先ほどから聞いていれば、なぜお前は伯爵令嬢で有りながら、ミレニアに”様”を付けるのだ。」


「それは…、私が、爵位の事をお教えしましたところ。

ミレニア男爵令嬢様に言われたのです。

私はいずれ、アンドレア王太子殿下と結婚する身だと。

その時には、あなたは自分の格下になると。

確かにあなた様達が結婚されれば、私はただの臣下となり、

そちらのミレニア男爵令嬢様に膝を折る身となります。

それならば、今から敬意を払うのは当然でございます。」


「何を…、ミレニア!そなたはそんな事をジュリエッタに行ったのか!?

それに、私はそなたに一言も結婚するなどと言った覚えはない!」


「そんな……。アンドレア様は確かに私に愛していると仰ったでは有りませんか。

婚約者であるジュリエッタ様にはそのような言葉、一度も言った事が無いと。

それを今更……、酷いです!」


すると場所も弁えず、ワンワンと泣き出したミレニア。

このような場所で、みっともない。


「そのような事はどうでもいいのです。

とにかく私はあなた方お二人の為に身を引くことに致しました。

でも、私も人形では有りません。

感情と言うものが有るのです。

長年貴方様に虐げられたにもかかわらず、王家に入るべく受けた教育も無駄になり、

今までこの国の為に尽くすという希望も、全て失ってしまいました。

その上これからは、婚約破棄をされた女、

王太子妃に成り損なった女というレッテルを張られ、

生きて行かなければなりません。」


「ならば、このまま婚約を続け、いずれ私の妻になればいいだろう!」


「これから先も、結婚した後も、続けてあなたの仕打ちに耐えろと仰るのですか。

それに、周りをご覧ください。

多くの地位ある方々が、この茶番をご覧になってしまいました。

もし結婚をしたとしても、私はこの先、浮気をされた馬鹿な王太子妃と、

陰で笑われ続けるのは惨めでございます。」


「そんな事はさせない!」


「するなと命令されるお積もりですか?

たとえ表面上はされなくとも、人の心に戸は立てれないのですよ。

心の底で、笑われ続けるのです。」


「くっ……。」


「ですから私は、母の母国でもあるグレゴリー帝国へ行き、

誰も知らない所で、ひっそりと暮らして行こうと思います。」


「何だと!!」


その私の言葉を聞いた国王陛下は、顔色を変え、こちらに駆け寄ってきました。

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