3.賊の撃退。







「くっくっく、なんと無防備なことよ……!」


 ゴルゴナは王城に忍び込み、そうほくそ笑んだ。

 彼を取り囲むのは、伯爵家の雇った冒険者。主にシーフなど、暗殺や窃盗、そういったことに秀でた者たちだった。中にはギルドの格付けでSランクになった者もいる。しかし、そんな力が必要ではないと思えるほど、侵入は容易だった。


「まぁ、いいだろう。リーリア王女を人質にすれば、国王も我々の要求を呑まざるをえまい。まずはそこからだ……!」


 くつくつ笑いながら、ゴルゴナはその髭面を歪める。


「クレア王女が追放され、我が伯爵家は没落寸前だ。悪いがリーリア様には――」


 そして、そう口にした。その瞬間だった。


「な、なんだ!?」


 まもなく王女の寝室、というところで。

 彼らを数名の兵士が取り囲んだ。まるでそれはゴルゴナが今夜、何かを企んでいたということを知っていたかのように。

 それを察したゴルゴナは、周囲の冒険者に向かって声を荒らげた。


「まさか貴様ら、裏切りおったのか!?」

「そ、そんなことは……!!」


 しかし彼らは驚きに目を見開き、首を左右に振る。

 どういうことだ、と。ゴルゴナは、忌々しげに歯を食いしばった。すると、


「貴方がここにやってくるのは、俺によって仕組まれていたのですよ」

「貴様は、まさか――!?」


 そこに、一人の青年が現れた。

 崩れた顔立ちに、ニヤニヤとした表情。

 そんな彼に、ゴルゴナは見覚えがあった。


「そのまさかですよ、ゴルゴナさん?」

「タケル・ムネチカ……!」



◆◇◆



 俺が姿を見せると、ゴルゴナは強面に困惑の色を浮かべた。


「どういう、ことだ!?」

「さっきも言ったでしょう。貴方が今夜、王城に侵入してくることは俺が仕組んだのですよ。今日、急遽として決定され、しかも自ら突入を決めた――そのすべてが、ね?」

「ば、ばかな!! そんな、バカげた話があってたまるか!!」

「あるんですよ。俺の、夢想魔法なら、ね……?」


 後退りするゴルゴナ。

 そんな彼に、余裕をもって語りかける。


「諦めませんか、ゴルゴナ。いまなら多少なりとも、罪は軽くなる」

「くそ、この役立たず元勇者が! 貴様ら、かかれぇ!!」

「そう、なりますか……!」


 だが、それが逆に彼の神経を逆なでしたらしい。

 ゴルゴナは冒険者たちに指示を出し、自身もまた剣を抜いた。

 王国の兵士には何もするな、と言ってある。なぜなら、こいつらの相手は――。


「俺だけで、十分だからな……!!」


 そう、俺だけで事足りる。

 俺は確かに勇者としては力不足の部分もあった。

 だが、単純な戦闘能力なら、その辺の冒険者などに遅れは取らない。


「あらよ、っと!」


 軽快に、ステップを踏むようにして。

 俺はシーフであろう冒険者たちを、順番に気絶させていく。

 そして最後に残ったのは、震えた手で剣を持つゴルゴナだけだった。


「ば、バカな!! まさか、あの穀潰しが、こんなに強いはずが……!」

「いや、バカにしすぎでしょ。俺のこと……」

「がは……!」


 ギャーギャー騒ぐゴルゴナを、一息に昏倒させる。

 これで、終了。国王様からの依頼は、なんとも容易いものだった。


「す、すごい! 勇者タケル、万歳!!」

「え……?」


 だけど、一つ想定外だったことがある。

 それは冒険者が逃げ出さないよう監視を依頼した兵士たちが、俺の戦いを見て賞賛し始めたこと。なんでもないことをしたつもりだけど、なるほど。

 彼らが勇者としての俺の実力を目の当たりにしたのは、初めてだった。

 いままで弱いといわれ続けていたタケルが、凄い奴だった、と。



「いや、でも。手のひら返しすぎでしょ……?」



 しかし、そんな俺の気持ちは置いておいて。

 その日以来、騎士団から憧憬の眼差しを向けられるようになったのだった。


 

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