第16話 日記を探していただけだったのだけれど

入院記を書くために、

閉鎖病棟に居た頃に書いたはずの日記を探していただけだったのだけれど

私の目の前に現れたのは、恐ろしい分量の沢山のメモ書き


そこに書かれていたのは、毎日の食事の詳細

歌いたい音楽

テレビで流れていた くだらない番組の情報


こんな些末の一つ一つを拾い上げなくては と

狂気の中で私は 思っていたらしい

探している日記らしきノートは見つからない

もしかしたら医師や看護師に取り上げられていたのか

そんなことすら記憶にない悲しみ


私は途方に暮れながら、その大量のメモ書きを分別する


日記の材料になりそうなもの

どう考えてもならなそうなもの


私が馬鹿のように貯めたほとんどのメモ書きは塵芥ちりあくたとなる


……実は、まだ分別が終わっていない


未だに自分は解らない


「まとも」と「狂気」の境目がわからない。

正確に言うと「まとも」な状態から「錯乱状態」に足を踏み入れるときのスイッチングの瞬間が、自分自身では判断がつかないのだ。


母が悲し気に言う


「真世は 出来ちゃう子だから怖いの」


私はもう 狂いたくない

私はもう 誰も不幸にしたくない

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