第156話「俺の発言に、二人は呆れ顔でそう返してきた。」

 聖竜領の領主の館の丘を下り、畑を抜けた先にある草原。

 そこには水竜の眷属ハリアが空中輸送をするための発着場がある。


「はーい。こっちこっちー」


 春になってから発着場は賑やかだ。本日の当番であるスティーナの指示に従って、本来の姿になって巨大な荷箱をぶらさげたハリアがゆっくりと下りてくる。


「よーし。そのままそのままー。ゆっくりー。よしっ」


 スティーナの声に合わせるようにハリアは荷箱をそっと着地させた。緩衝材が入っているとはいえ、中身は高級品が大半だ。それを見事な手際と言える。


「さて、蓋をあけて中身をみるとしようかね。アルマス様、手伝ってもらっていいかな?」


「もちろんだ。俺もなにが来るかは結構楽しみなんだ」


 荷箱は小さめの倉庫くらいあり、蓋は重い。俺は荷運びのためのその場にいた数名の男性と共に蓋を開けた。


「お、書類みつけた。えーと、今回来たのは新しい建物用の家具、生活用の魔法具、それと汚水浄化の魔法具だね。というか、最後のが大半だこりゃ」


「見た感じ、昨年領内に設置したものよりも新しい物に見えるな」


 昨年、領内に簡易的な下水路を作り、浄化の魔法具を設置した。結構おおがかりな(改行されてます)

装置で小さな小屋の中で稼働している。今回ハリアが運んできたのはそれよりも小さく、洗練された形をしていた。


「あー、多分これ。南部用だね。ほら、皇帝陛下の別荘とかがそのうちできるからそれのためにいいやつ送ってきたんだ」


「そうか。前もって準備をしておくようにということだな」


 それで新型を送ってくるとはさすがは皇帝といえる。


「あとはサンドラ様用の連絡用の魔法具。これ、魔法伯からになってるね。なんだか色々あるから、屋敷から荷馬車を呼んでもらおうかな」


 どうやら、サンドラの父ヘレウスもなにかしら手回しをしているらしい。優秀な彼のことだ、大なり小なり、娘の力になってくれることだろう。


「ふー。毎日いそがしいね」


 皆で荷物を検分していると、小さくなったハリアが近くに寄ってきた。春になってから彼の仕事量も増している。


「大丈夫か? 疲れてるなら無理しなくてもいいんだぞ」


「へいきだよ! 元気だから! それにお給料も沢山だし!」


「そうなのか?」


「あー、ハリアの給料、かなり良いらしいよ。なんせ、世界で一つの輸送機関だし、顧客が皇帝陛下とかだから。もし、ドワーフ王国と行き来するようになれば、アルマス様よりも収入増えるんじゃない?」


「なんだと……」


 いつの間にかそんなことになっていたとは。というか、そんなに稼いでどうする気なんだろう。


「ハリア、お金持ちだよ。それで美味しいものたべるよ!」


 どうやら食欲優先らしい。


「これは俺も負けていられないな。冷凍冷蔵の魔法をかける案件を本格始動するか……」


 実は保管用の魔法を有料でかける件は魔法伯から待ったがかけられている。技能として希少すぎるから下手に料金を設定しない方が良いとのことだ。

 しかし、アイノの帰還が近い上に、ハリアに収入で追い越されかけているとなれば、そうも言っていられない。

 近いうちに、話を進めるように連絡用の魔法具を飛ばそう。


「アルマス様、ハリアのにもつに魔法をかけるのはどう?」


「それもいいな。ちょっと検討してみよう」


 水竜の眷属は優秀なので良い提案をしてくれる。実にありがたい。


「そうだ。近いうちにクアリアに行く用件があるんだ。荷箱に乗せてもらってもいいか?」


 俺はたまにハリアの荷箱に同乗してクアリアまで行くことがある。空を行くのは気分が良いし、早い。落下しても無事である俺だけの特権だ。


「だめだよ。みんなから苦情がきてるから」


 あっさり断られた。


「……苦情……だと?」


「アルマス様だけずるいって」


 そういうことか。一瞬、スティーナの方を見たら顔を逸らした。


「いやほら、アルマス様だけずるいじゃん。あんな楽しそうなの」


 あくまで俺の方を見ないで本音まで語ってくれた。


「みんな同じこと言うからだめだよ。真似すると危ない」


「む、それもそうだが……」


 たしかに、俺以外は落ちると危ない。前にこっそり同乗したマイアに説教したし、落ちても何とかするという皇帝をいさめるのに苦労もした。

 ここはいっそ「ハリアの荷箱には同乗できない」というルールを作った方がいいのかもしれない。


「まあ、アルマス様は足速いんだし走ればいいんじゃない? それにもうすぐレール馬車もできるしね」


「あたらしい馬車、ハリアものりたい!」


 スティーナの言葉にハリアが乗ってきた。このまま話がサンドラまで通って押し切られそうだ。

 その前に手を打っておこう。


「わかった。俺も大人だ。そういうことなら同乗はしないようにしよう。……ただし、緊急時を除いてだ」


「しっかり逃げ場を作ってきたねぇ……」


「おとなのやりかただね」


 俺の発言に、二人は呆れ顔でそう返してきた。


 その後、他の者達と協力して、しっかり荷運びをした。屋敷でサンドラにこの件を伝えたら、ちょっと呆れられながらも承認された。

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