第139話「領地会議から数日後、早くも南部への街道工事が始まった。」
領地会議から数日後、早くも南部への街道工事が始まった。
元々サンドラ達の方である程度の手配が済んでいたこと、クアリアの人々もかなり手慣れてきていること、ハリアが次々と荷物を運んだことなどで一気に状況が整ったおかげだ。
「では、このゴーレム達は聖竜領から。二番隊、三番隊用のゴーレムはそれぞれ決まった距離で停止するようになっている。魔力は十分込めておくから、到着次第どんどん使ってくれ」
俺はクアリアから来た職人の頭領に作ったゴーレムについて説明する。街道工事はいつも通り、最初に穴を掘る。今回は聖竜領からだけでなく、複数地点から同時に作業を行う予定だ。
とはいえ、聖竜領側以外はまずは野営地の設営を終えてから作業となるので、工事の開始にずれはでる。そこは、体力と魔力に優れた俺の力の見せ所だ。
「はい。……できれば、本格的に寒くなる前に穴を掘りを終えたいですねぇ」
「ああ、季節ばかりはどうしようもないからな……」
冬本番になった聖竜領はかなり寒い。地面が凍りつき、石のようになってしまう。街道工事は穴を掘ればその上に石を敷き詰めていく作業なので、とにかく最初の穴掘りが肝心だと目されていた。
「聖竜様と賢者様なら何とかなるんじゃないんですかい?」
「さすがに季節は俺には無理だな。聖竜様ならわからないが、多分、それをするとこの地域に良くない影響が出る」
「なかなか難しいんですねぇ……」
「思ったより便利にはいかないものだよ」
「ま、俺たちゃ十分便利に使わせてもらってますけどね」
頭領が楽しそうに笑いながら言った。この寒い時期の工事を依頼したというのに、彼をはじめとしたクアリアの人々は快く仕事を受けてくれた。これまでの実績と、サンドラが必要十分な報酬を払っているからだ。
彼らにとって聖竜領は新しい技術と十分な報酬をくれるお得意様なのである。
「ゴーレム使いだらけの職人組合など、クアリアにしかないからな。今後も頼りにさせてもらうよ」
「ゴーレム造りの上手い魔法士なんて聖竜領にしかいませんから、今後も賢者様とロイ先生とは仲良くさせていただきます」
そう言って互いに笑い合う。すでに何度も現場を経験しているので、気心がしれている。頭領は良い人だ、腕前以上に人の扱いが上手い。
「アルマス様。ゴーレムと荷車の準備が出来ました」
領地内で魔法陣などを用意していたロイ先生がやって来て言った。
「ありがとう。悪いがロイ先生、こちら側は頼むよ。予定通り、今日は帰ってくる」
「はい。お気を付けて」
「無理しちゃいけませんぜ、賢者様」
ロイ先生と頭領、二人に見送られて俺は準備が済んだゴーレム置き場へと向かった。
○○○
ロイ先生が用意したのは、聖竜領と南部の間の野営地用の資材と工事用のゴーレムだ。荷車に何人かの作業員を乗せ、護衛兼監督兼ゴーレム使い役として俺が同行する。
予定された場所で資材と人をおろし野営地の設営。ゴーレムの設置。それを数日繰り返す。
そう書くとなかなか仰々しい行軍のようだが、実際の光景は長閑なものだ。
なにせ、魔物もいないし、土地の起伏の無い道を行くだけ。
季節も冬とはいえまだ始まったばかり、天気は晴れで体を動かすには心地よいくらいだ。
俺と作業員は予定通り街道が出来る予定の場所の側に、野営用の天幕を張っていく。
「思った以上に立派なものだな。中古だというのに」
「うまくすればこのまま冬越しできちゃいそうですね。ウイルド領、いい物をくれたみたいです」
ウイルド領から中古で買い付けたという天幕は立派なものだった。広くて厚みがあって多少の寒さには耐えてくれそうだ。物品の管理がしっかりしているあたり、領主のヤイランは必ずしも無能では無いことも窺えた。
「まったくだ。サンドラが上手く交渉したんだろう」
「あのお若い領主様、やり手ですもんね」
「まあな……」
多分、俺の名前を出したんだろうなというのは言わないでおく。サンドラがやり手なのは事実だ。
「天幕を建てたら順番に暖房の魔法をかけておくよ。他に不便そうなことがあったら言ってくれ。聖竜領に戻り次第手配する」
「噂の暖房の魔法をかけてくれるんですか? なおさら一冬越しちゃいたくなりますね」
「噂になっているのか?」
「ええ、前に冬に聖竜領に取引にいった奴が、『賢者様の魔法で屋敷の中が一日中暖かくて過ごしやすい』って街の皆に自慢してましてねぇ」
知らぬ間に色々と評判が広まるものだ。今回は良い方向のようだが、そうでないと厄介なことになる。情報とはそういうものだ。今後は少し気を付けるようにしよう。
「無理をいって冬に聖竜領の果てで工事をして貰うんだ。このくらいのサービスはするさ。この辺りの工事が始まれば、聖竜領の料理人が作った料理が空輸されてくるはずだ」
今回は遠隔用の新しい魔法陣も設置しておく予定だ。ゴーレムの起動の他、水や暖房など各種魔法の発動に役立つだろう。
「やる気が出てきますねぇ。志願して良かったです」
「頑張りすぎて怪我をしないようにな」
張り切って動き出した若者に苦笑しながら俺は言う。近くで聞いていたらしい別の作業員も動きが軽くなったようだ。士気が高いのはいいことである。
「よし、天幕を張り終えたら作業用のゴーレムを置いてから休憩。それから次だ。今日はもう一カ所やってから帰ろう」
そう声をかけると、作業をしている人々から威勢の良い返事が返ってきた。
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