第30話 遠征3日目にして惑わず



「ふぁ〜あ…」



久しぶりに長く眠れた。


(なんか、昨日のエルカ変だったな…)


本日は遠征3日目、秘密裏に行われた

『第一回奏介攻略会議』の翌日である。


昨日やたらと早く寝かされた奏介は、周りを確認する。

エルカもエリーも寝ているが、サヴェーネだけは起きていた。ホントにすごいスタミナだ…

昨日、なぜか急に3人で見張りをすると言って追い出されたが、奏介にはありがたかった。


(というか、できることならこれが続いてくれ…)


日本にいた頃はちゃんとした生活リズムを保っていたが、異世界に来てから夜中に壁の外へ行ったり屋敷に泥棒に入ったり見張りをしたり…


ろくなことをしてないな、オレ。



「奏介様、朝からそんな面白い顔をされて、どうかなさいましたか?」


朝から人の顔を面白い呼ばわりされるとは思っていなかったよ。何かあったとしたらそれくらいだよ。


「いや、おはようサヴェーネさん。もう3日目だけど、どれくらい進んだかな?」


「そうですね…想定よりは順調に進んでいますので、早ければ明日の夕方には火山手前の村へ入れるでしょうか」


「村に寄るのか、知らなかった」


「奏介様は馬車を預けもせずそのまま火山の中を駆け回るおつもりでしたか、では寄らないということにしましょうか」


いや、そこまで言わなくても…


「冗談ですので」


でしょうね。冗談じゃなかったらビビるわ。


と、そんな会話をしていたら、エルカが起きた。驚いたことに、エリーはエルカより朝に弱いのか。


(そういえば、メルの屋敷でも一番起きるの遅かったような…)


「……んっ、おはよ…」

「おはよう御座います、エルカ様。朝食までまだ時間がございますので、もう少しお待ち下さい」


今の時刻は6時頃。まだまだ早い時間のようにも思えるが、ゆっくりはしていられない。


「おはよう、エルカ。昨日はどんな話ししてたんだ?」

「!?、べ、別にっ、面白くない…こと、です…!?」


ピンポイントでそんなことを質問してしまう奏介に戸惑うエルカ。心臓バクバクである。


(なんか…変に、意識…してしまうです…)


昨日は何故か盛り上がってしまい(主にエリーが)、

勢いに任せていろいろ言ってしまった気がする。恥ずかしくて思い出したくないので忘れよう、うん。


「そっ、ソースケは、その…疲れ、とれた…?」

「え?、ああ、おかげさまで全快って感じかな」

「そ、そう…なら、良かった…」


話を逸らし、終わらせる。しかしまだ頬から赤みは抜けない。


そしてお互いふと、こう思う。


(もう少し、話したいな…)

(もう少しだけ、お話、したいです…)



……そして、そんな様子を寝たふりをして覗き見るのは……


(…なんでくっつかないのか謎な領域だね、うん)


エルカの自称恋愛アドバイザーこと、エリーであった。



その後、朝食を取り早めに移動を開始した彼らは、昨日と変わらず手持ち無沙汰となっていた。


「あぅ〜〜、おにーさん、暇〜…」

「知ってるよ、というかこっちもおんなじ」


馬車の風景も森か草原。火山はまだ見えない。

と、そこでエリーは悪魔的な発想をしてしまう。


(あれ?おにーさんにも恋バナ振ったら、エルカのことどう思ってるのか聞けるんじゃ…)


ちらりと横目でエルカを確認。

三角座りで頭をこっくりこっくり揺らしている。

……大丈夫そうだ。


エリーは声を潜めて尋ねる。


「…ねえねえおにーさん、恋バナしましょーよ?」

「こっ、恋バナ…?」


奏介も声を潜めて返してくる。何故人は声を潜めて返したら自然と声を潜めて返してくれるのだろう、などという疑問が頭をよぎったが無視。


「どうした、急に?好きな人でもできた?」


こいつエルカとおんなじ頭の作りしてんなー、などと思いつつ、エリーは脳をフル回転させる。


(さて、どうやって聞き出しますか…おにーさんは多分、エルカみたいにすぐ認めてくれなさそうですし…)


一瞬迷い、そしてこう言った。


「おにーさん、私のムネよく見てくるじゃないですか」

「うん、見てねーから」


おおっと、即答だ。これはどうなんだ、配慮に欠けるのではないか?


「ちょ。そこはもう少し反応しましょーよ。相手は年頃の乙女ですぜ?」

「乙女がそんな質問するか。歳も知らないし」


あ、そういえば。名前くらいしか個人情報話してない気がする。


「よく名前くらいしか知らない人の家に泊まりましたよね、危ないじゃないですか」

「あのときは疲れてたし、それを言うならお前こそ名前くらいしか教えてない男を家に泊めるなよ」


スラムでの出来事のすぐ後の事を思い出しながら話す。


「強情ですねー」

「こっちのセリフだし、なんだよ急に?」

「じゃあ質問を変えますね」

「そうしてくれ」

「私のこと好きですか?」

「はあ?」


はあ?、って。この流れだと、文末が「!?」になるシーンではないか。


「…で、どうなんです。答えは見えてますが、私のこと好き?」

「好き」

「ほーらやっぱり好き…ってええ!?」

「って言ったらどうなる、って言おうとしたんだけど」


完全に手玉に取られてしまった。ちくせう。

今の声でエルカが起きていないか確認する。

三角座りのまま膝に顔を埋めている。なかなか可愛い。


(このままじゃ聞き出せないですね…いっそのこと、爆砕覚悟でストレートに聞きますか)



「じゃ、エルカは好きですか?」

「!?、……さ、さあ?」



……今までの苦労を返して欲しい。いややっぱ返さなくていいからグーで一撃入れさせて欲しい。


「ふーん、おにーさんは小さいおムネの方がお好みなんですか〜、へ〜え?」

「なっ、ちがっ、好きとはまだ言ってないだろっ」

「そうだね〜、"まだ"言ってませんよ〜?」


やっぱりエルカとおんなじ思考回路だとしか思えない。エルカと違い誤魔化そうとする所がやはり男の子という感じだが。


「おにーさん、エルカのことよく見てますもんね〜?どこらへんがタイプなんです?大丈夫だよ、私口は硬いんで!」

「まったく信用できないしだから好きじゃな……」

「……な?」

「…ッ、いいだろそんなのどうでも!」


奏介はそっぽを向いてしまうが。


(…ふむ。"好きじゃない"、と言い切らなかったのは褒めるべきだよね)


ここで好きじゃない、なんて言い切ったら殴ってたところだ。

そして、こっそり聞いていたサヴェーネも、満足げな顔をしている。


(この恋……応援してやらねばっ!)


エリーは揺れる馬車の中、お節介な決意をした。




そして、膝に顔を埋め、寝た"ふり"をして聞いていた少女は。


(…やば、顔、あげれない…です…)



一人悶々とするのだった。



……3日目の見張りの時間に行われた『第二回奏介攻略会議』で、この話で盛り上がったのは言うまでもないだろう。

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