第29話 遠征2日目、恋に志す



「エルカぁー、暇ぁー!」


「…たしかに……」



遠征2日目、エルカとエリーはさっそく手持ち無沙汰となっていた。

ちなみに奏介は寝ている。昨日の見張りでだいぶ疲れたようだ。


「ねえ、エルカー、暇だしさ、なんかおしゃべりしよー」


エリーがそんな提案をしてくる。いつも話していると思うのだが。


「なに、を…?」


エルカがそう聞き返すと、エリーはにひっと人の悪い笑みを浮かべる。


「そりゃー女の子同士でする話といえば…恋バナでしょ?」

「!?」


エリーがそんなことを言い出すとは思わなかった。

好きな人でもできたのだろうかと他人事のように考えるエルカに、さっそく爆弾がぶち込まれた。


「エルカってぶっちゃけ、おにーさんのこと好き?」

「ふぇ!?」


おにーさん、とエリーが呼ぶのは1人、奏介しかいない。


(な、な、なんで……!?)



エルカは顔を赤らめ、俯き気味で言う。


「な、なんで…知ってる、です…?」

「いやー、そこで否定しないあたり純粋だねー…

いつからと言われましても、いつからでしょう?」


最初からそんな感じだったよーと、軽く言うエリー。


「それでさっ、いつから好きだったの、どこらへんが好きなのっ、告白はしないのっ!?」

「お、覚えてない…っ、わかんないっ、しない…!」


ぐいぐい詰め寄ってくるエリーと、恥ずかしがるエルカ。当の本人は奥で寝たままだ。


「なんで告らないのー?絶対両想いだって!」

「…そ、そんなわけっ、ないもん…!」

「おにーさん、よくエルカのこと見てるよぉ〜?後はエルカ次第なんじゃないのかな〜?」

「…わたし、次第…?」


エルカは戸惑う。恋愛などしたことはないし、そんな事考える機会もなかった。


「エルカが付き合いたいっ!って思うなら告白すべきだよっ!あっちは盾無しの無防備だよっ!」

「そ、ソースケに…悪い、もん…」

「かあぁ〜〜っ、悪いわけないじゃんかー!男なら可愛い子と死ぬほど付き合いたいもんなんだって!」

「か、かわいくなんて…ない、し…」

「私の前でよくもそんな事言ったな鏡を見てみろエルカぁぁぁぁ!!」


そう言い手鏡をグイグイ押し付けるエリー。

エルカの方はというと、隠していた想いを言い当てられた上こんなにハイテンションで迫られ、混乱の極みといった感じだ。


「絶対告った方がいいと思うんだけどなー、サヴェーネはどう思うー?」

「…えっ、ちょ、エリー…」


エリーはこのままでは拉致が開かないと、サヴェーネに問いかける。するとサヴェーネは、少し複雑そうな顔をして聞いてきた。


「……申し訳ありません、私は既に交際されているものかと……」

「ほらぁ!これが正常なんだよエルカっ!みんなエルカとおにーさん付き合ってるって思ってるよ!」


……既に結婚していると思っていた、などとサヴェーネは今さら言えない。


この国は日本と比べ、結婚というモノに寛容だ。

理由は簡単、優秀な個体が生まれる可能性があるから。

より上位の魔法を求め続ける彼らにとっては、子孫は多ければ多いほどいい。

人口増加による食糧不足だけが問題だが、これも優秀な魔法使いさえ育てば他国への侵略により解決する。領土でも食糧自体でも好きなだけ奪える。


それだけ、この世界における"魔法使い"は、強いのだ。


エルカはまだ迷う。当然だろう、どの世界でも告白など簡単にできるモノではない。


「うーん、どうしても踏ん切りつかない…?」


エリーが訪ねてくるのに、エルカはうん…、としか返せない。


と、そこでサヴェーネが余計な提案をしてしまう。


「それでは、私達が"機会"を設けましょうか?」


と。つまり、告白チャンスを作るから、そこで告れ、と言いたいのだろう。


「サヴェーネ、ナイスアイデアっ!そうだよね、せっかくの旅なんだから、ロマンチックな思い出欲しいよねーっ!」


エリーがはしゃぎだすが、エルカはあまり気乗りしていなさそうだ。


「で、でも…依頼が…」

「依頼が終わってからも5日ほどございますので、問題ございませんよ」

「で、でも…ソースケに、迷惑が…」

「エルカにおにーさんが迷惑とか言うわけないじゃん!言ったら殴る」


エルカの必死の抵抗も、サヴェーネとエリーの連携プレーにより徒労になってしまった。


……これはもう、腹を括るしかないだろう。


「よーっし、じゃ決定っ!」

「旅中で結ばれるなど、ロマンチックではありませんか。殿方に不足は感じますが」


エルカのため(?)に、エリーとサヴェーネもやる気だ。ここまできたらエルカもやる気を出さなければ悪いだろう。


(ど、どうせするのなら…全力で…!)



本人が眠りこけている中、彼女たちは綿密に計画を立てていった……



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