第26話 クエスト受諾


「お嬢、お待たせしました」


「ホントにアンタってばブレずにそう呼ぶわよねー…ま、いいわ…」


そういいパラパラと書類を捲り、内容を確認する。


「よし、いいわ。それじゃ、出てって頂戴」


「畏まりました、失礼します」


そういいメルフィーユの部屋から出ていくサヴェーネ。そして残ったのは…


「……アンタ、そんな身構えなくていいのよ?別に無理難題ふっかけようって訳じゃないわよ」


奏介は1人、どんな無理難題が来るのかと身構えていた。まさしく彼女が言った通りに。


木製の机を挟んで、向かい合って座っている。

部屋は広く、天蓋付きのベッドや、シャンデリアなどまである、まさしくお姫様の部屋という感じだ。


彼女は眼鏡を取り出し、ペンで書類に印をつけながら話しかける。


「アンタさ、エルカの昔話って、聞いたことある?」


不意に彼女は、そんな事を聞いてくる。


「いや…ないよ」


神からほんの少し聞いた気もするが、わざわざここで言う必要もない。何も知らないという事にしよう。


「ふーん、てっきりアンタには言ってるんじゃないかと思ったんだけど、そっか。いつからあの子と組んでんの?」


「えっと…4日前?」


「えっ!?たったの4日!?」


彼女は驚き目を見開く。そういえば、まだ4日目なのだ。


「へぇ…驚いたわ。よく4日であの子があそこまで…」


何かぶつぶつと呟くメルフィーユ。


「えっと、本題に戻してもいいかな?依頼の…」


「へ?、ああ、そうだったわね。うーん、何も聞いてないのね…じゃ、まあとりあえずは…っと」


書類をまたパラパラ捲り、その中からめぼしい1枚を選ぶ。軽く目を通し、よし、と呟く。


「アンタ、害獣駆除、したことある?」


害獣、久々に聞く感じがする。


「ああ、"ナラシンハ"ってヤツだけ」


異世界へ来て早々お金に困った際、エルカが提案したモノだ。…そういえば、神にお金の件で文句を言ってなかった。


「ナラシンハぁ?アイツってCじゃない」


当てにならないわねー、と嘆息する。

やはり、あの程度の害獣は取るに足らないのだろう。実際魔剣の力無しでも、一撃で仕留めることができた。


「ま、害獣退治の実績なんかなくても、称号持ちを退治したんだから良いわよね」


「そういえば軽く流してたけど、メルフィーユは…」


「長いから、メルってよんで頂戴。堅苦しいの、好きじゃないのよ」


「分かった。メルは、騎士とか倒したって聞いて、なんとも思わないの?一応軍の幹部補佐って聞いたけど…」


「あー、そういうの興味ないわ。というかね、アンタ勘違いしてるかもしれないから言っとくわ」


そう言うと彼女は、ごく自然に言い放った。



「私、インフェリアよ。エルカたちと同じ」


さも当然のようにそう言う彼女。しかし、違和感を覚える。


「でも、これまで見てきたインフェリアはみんな…」


と、途中まで言ったところでメルが答える。


「貧乏だった、とかでしょ。それこそ生まれと才能の違いね。私、稼ぐのは得意よ。初めはインフェリアだって理由で大変だったけど、今は違うわ」


そういい、部屋にある窓の外、大通りよりも遠くの第3区の方へ目を向ける。


「私はね、先天性臓器不全なの。生まれた時から魔力を扱えない、遺伝とは関係ないインフェリア。…だから、みんなとは違うの。」


少し悲しそうな目をして、微笑む。

その横顔は、とても美しかった。


「まっ、そんなしょーもない話、どうでもいいのよ。

今からアンタに依頼する事に比べればね」


そういい正面に向き直り、一枚の紙を見せつけてくる。


「依頼書よ、目を通しなさい」


言われるがままに紙を受け取り、目を通す。


ーーーーーーーーーー

依頼書


災害指定害獣の駆除及び、素材の入手

危険度:A

概要:スランタルより北北東に位置するトライア火山より、災害級害獣[フィニクス]の出現を確認。至急討伐求む。なお、付近にはC級害獣[ウルカヌス]が生息するため注意

規則:最低4人以上の編成で臨む事。死亡時の遺体回収は行わない。

報酬:選択可能素材から7つ。


ーーーーー


「災害級…フィニクス…」


「そっ。アンタ達に倒してもらいたいのはこれ。報酬の件だけど、アンタ達は素材そのまま貰っても意味ないでしょうから、装備として加工して渡すわ。どう?」


確かに、魔力の奔流の宿った装備は強いと教えられたし、願ってもない条件だが…


「メル、原則4人って、1人足りないんだけど…」


奏介、エルカ、エリーとして、3人。実際戦えるのは奏介くらい。


「これはあくまで非正規依頼だから遵守する必要はないんだけど…そうね、じゃあサヴェーネを連れていくといいわ」


と、本人の承諾も無しに同行を許可するメル。


「い、いいのかな?」


「主人が言うんだから絶対よ。それに、彼女は役に立つもの」


たしかに、サヴェーネさんが仲間になってくれれば依頼の成功率は飛躍的に上がるだろう。


「まあ、これは小手調べみたいなモノだから、難しく考えなくていいわ。とにかく、フィニクスの素材となる部位、ツノと、牙と、鱗をいくつか拾ってきなさい。それで合格よ」


「合格って、何に?」


「あら、言ってなかった?」


メルは間を置いて言った。


「もっと難しい依頼を頼むに値するかどうか、よ」


「それ、もしかして最初に言ってた…」


「ええ、エルカにも関する事よ。エリーにも関係はあるけれど、思い入れの深さならエルカね」


エルカに関連する依頼。

それを受けるために、この依頼をクリアする必要がある。

こんな分かりやすい手段で彼女を救う一歩が踏み出せるのなら、容易いモノだ。


「分かったよ、メル。……いつに出発すればいい?」



こうして、次の目的地が決定した。

スランタルの北北東に位置する国有地、トライア火山。そこにいる災害級害獣を倒す。


「…いい目つきね。やだやだ、暑いったらありゃしないわ」


うっ。なんだろう、死ぬほど照れくさい。


この後奏介は、エルカ、エリー、サヴェーネの3人にこの依頼の説明をし、準備に取り掛かった。

善は急げ、だ。


ーーーーー出発は、明後日の夜明け。


奏介にとって、初の長距離遠征だ。予測のできない事に溢れているだろう。

だが、彼は超えるしかない。


護ると、誓ったのだから。



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