第24話 ゲームの勝者
時刻は深夜。場所は屋敷。
蝋燭の光を浴びて、互いの武器が輝く。
敵は自分と比べ戦闘慣れしている。
たとえ力や速さで上回っていたとしても、油断はできない。
「さあ、幕引きといたしましょう。永遠の、幕引きを」
ーーーーー決着を。
先に動いたのは、奏介だった。
地面を蹴りつけ、一気に加速する。
手にする聖剣を構え、突撃。
「お客様から動かれるのは、初めてでしたねッ!」
彼女も手にする鉄扇を構え、駆ける。
次の瞬間、激突する。
「ッ……!」
「…なかなかッ、力強いことで…!」
力では奏介の方が若干上だ。だが、彼女の巧みな技術により、力は分散され、動けない。
「なら、これでどうでしょうッ!」
再び、腕のボウガンをこちらへ向ける。
この状態では当たるのは避けられない。ならばどうするか。
「…その矢を、あるべき姿へッ!」
それを言うのと、矢が発射されるのはほぼ同時。
そして、奏介に当たったのは、ただの粉。木屑か何かだろうか。
「魔法物質の類いは効かないのですかね…これまた厄介ですが……悪くないッ」
聖剣を押さえつけていた重みが無くなる。彼女が鉄扇をどけたのだ。
そして、彼女は廻転する。
「舞い狂えッ!」
ヒールの爪先を支点とし、鉄扇を水平に構え、ひたすらに回る。
その猛攻は、聖剣で防げるものではない。
甲高い音を立て、聖剣の側面に何度も叩きつけられる鉄扇の暴風。
(これは…食らい続けるのはキツい…!一旦、後ろへ…)
「行かせるとでもお思いで!?」
さらに激しさを増し、こちらへ迫ってくる。
地面のタイルはヒールによる高速廻転により線ができ、その威力を物語っている。
(どうする!?このまま後退してちゃ勝ち目はない…!魔剣の力を使わずに切り抜けるには…!?)
考えろ。どんな絶望的な状況でも、活路はあるはずだ。それを見出し、勝利へ変えろ。
「さあさあさあさあ!終わりですか!?これで!?そんな訳ないでしょう!出し惜しみせず、力の全てをお見せくださいッ!」
早くしないと、そろそろ手が限界だ。
激しい振動により、剣を持つ手がブレる。
(このままだと、剣を落とす…!)
「さあさあさあさあ振り絞って見なさいッ、それともここら辺が限度でございますか!?」
彼女が捲し立てる。しかし、未来は変わらない。
(もう、もたない…!!)
そして、彼が剣を落とす。ーーーその刹那。
「ーーーーーうっ……!?」
ーーー呻いたのは、奏介ではなかった。
「えっ…」
驚き、何が起きたのか咄嗟に理解はできなかった。
だが、今が好機。
ーーー今しかない。
(一番重いのをッ、食らわしてやるッ!!)
踏み込み、タイルを砕き割る。
蹴りつけ、全てを抜き去る。
そして、繰り出されるのは。
「食らえッ……!!」
ーーー神器による一撃。
躊躇なく、深く斬り込む。
彼女はそれを防ぐ術を持たなかった。
「……まさか、本当にやられてしまう…とは…」
彼女はもう1人、彼女の敗因を作った少女を視界に収め、呟く。
「まさかーーーアナタが人を攻撃するとは、思いませんでした」
視線の先には、腕を突き出し、震える少女。
(……彼を、好いたのでしょうね。きっと)
意識が途絶える寸前、そんなことを彼女は考えていた。
メルフィーユ邸本館、時刻は2時48分、
聖剣使いとメイドによる不揃いな舞踏はお開きとなった。
ーーーーー
「エルカぁ〜!き、急に危ないことして、心配しちゃったよ〜!!」
と、エルカに抱きつくエリー。
「あっ、暑い…エーリ、じゃま…!」
当の本人はこの様子だ。
ーーーあの時エルカは、咄嗟に自身の左手をメイド長に向かって飛ばした。
それが意味を成すのかは分からなかったが、体が先に動いた。
(こ…怖かった、です……!)
エリーをほんの少し、抱きしめ返す。エリーは喚いて気付かないが。
「…エルカ、ほんとに助かった。ありがとう。アレがなかったら多分……」
と、言いかける奏介の口に指を添え、言葉を遮る。
驚く奏介に、エルカは真っ直ぐな瞳で、
「…仲間、だから…助け合い…ね?」
…と、奏介が忘れていた、分かっていなかった当然のことを口にする。
(そっか…オレは、自分1人でなんとかしようとしか、考えてなかったんだな…)
そんな、当たり前に気付かせてくれたエルカに、心の中で、そっと感謝を告げた。
「ーーー勝利の余韻に浸るのは勝者の特権ではありますが、こちらも時間を押している故、そろそろ口を挟ませていただいても?」
「…!?、なっ、なんで…!?」
ーーー奏介は、目を疑う。が、その人物は言葉を続ける。
「私の魔法の一つ、とでも言いましょうか。分身のようなものですよ、お客様」
ーーー目の前に立つのは、つい先ほど胴体を斬り払った筈のメイド長、その人だった。
彼女はさらに、言葉を続ける。
「……惜しくも今回の遊戯はお客様の勝ちですので。こちらへ」
「え…っと、遊戯…?今から、どこへ?」
奏介は当然の疑問をぶつける。
そして、メイド長も当然のように返す。
「ですから、今晩はお泊まりください、と申しているのです。それくらい理解して欲しいところなのですが」
いや何故そうなったんだ。
そう心の中で思ってはしまったが、エルカとエリーは存外休む気満々に見える。
それに何より…
(今日は、疲れた……)
睡眠欲に負けた奏介達は、案内された東館の一室で、深い眠りに就いた。
ーーーーー
暗い廊下を、メイド長である彼女は1人歩く。
(エルカが、私に攻撃をした…)
彼女なりに、何か変化があったのだろうか。
(既に、彼女は私の知る、エルカ・M・エンジュではない、のでしょうね)
そんな事を思い、ふっと口元を緩める。
そして、もしかしたら、と。
(エルカが変われたのなら、お嬢も…)
などと考え、すぐに考え直す。
それはあくまでお嬢の勝手。メイド如きが口を出していいものではない。
(エルカが遊戯に勝利した、と聞いたら、お嬢はどんな反応をされるのでしょうか…)
まるで、母親のようにそんな事を考えながら。
彼女は、自室へ戻り、就寝の準備をする。
「…また、一つ減ってしまいましたか」
彼女の手にあるのは、美しく輝く、黄玉。
総数は、5つ。
「まさか死ぬことになるとは、思いませんでしたね…自重しなければ…」
そう呟きすぐ、彼女は眠りに就いた。
明日も、メイドとしての職務を全うするために。
ーーー現在時刻、3時05分。
こうして、メルフィーユ邸での泥棒劇は終結した。
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