第22話 高貴な悪意はいかがですか? 2


「あったぁーっ!やっぱり場所変わってなかったねっ、動かすよっ!」


「はあっ…エーリ、はやいっ…」


昇降版を見つけた2人は、それに乗り地下へ向かう。


やがてガタンと音がすると、昇降版は動きを止めた。

そして目の前に広がるのは、木製の箱の山。


「え……こ、この中から、探すの……?」

「……それしか、ない…もん…」


右も、左も、見渡す限り、箱。


エリーとエルカの先の見えない戦いも、始まった。



ーーーーーメルフィーユ邸本館2階にて。


「ーーーーーーー散りなさい」


そう言うと、彼女は駆け出す。


(トランサスほどの速さじゃない…!これなら充分戦える!)


「ーーーーー動きが遅いと、感じましたね?」

「えっ…」


考えていたことを一言で当てられ、戸惑う。そして彼女はその硬直を見逃しはしない。

だが、まだ距離がある。鉄扇では到底届かない筈…


その時、不意に彼女は腕をこちらへ向けた。

そして、蝋燭の光を反射し、袖の中で輝くのはーーー


咄嗟に剣を振るう。


ガキン、と音を立て、何かが地面に転がる。


「運が良かったですね。矢が鉄製でなければ、お客様は右眼を失っていた」


袖から覗くのは、ボウガン。

鉄扇の攻撃に見せかけ、袖からの暗器での攻撃。

こんな不意打ちが続くとなると、勝ち目がない!


「それでは、今度こそこちらで」


バッと広げられたのは、全て鉄製の、鉄扇。

本来全て鉄でできた、いわゆる手慣らし鉄扇は開閉ができない。

「こちらはお嬢から賜った完全特注品オーダーメイドになります。一枚一枚の薄い鉄板を魔力により貼り付け、更に摩擦を無くすことにより、開閉を可能としているのです。滅多にお目にかかれない逸品ですよ」


奏介は鉄扇について詳しいことは何も知らないので、あまり良くはわからなかったが、その武器の凶悪性は理解できる。


(あれは鈍器として使う武器なのか…?でも、にしてはやたら刃が…)


「お客様の考える通りで御座いましょう。こちらは斬ることにも特化した武器にございますので、刃をやや薄くしております。…まあ、刀などと比べれば重くするために太くしてあるので、斬る、ではないのかも知れません」


そう言い、扇を構え、こちらを補足する。


「"叩き斬る"、とでも申しましょうか」


再び突撃してくる。今回は先程よりやや速い。

油断させるためにあのスピードで移動していたのだろう。

(武器の性質は分かった!斬ることに関しては聖剣こっちの方が上だっ!)


こちらの流れを作るため、奏介は聖剣を叩きつける。

武器が魔法でできたものならそのまま破壊すればいい。敵とはいえ武器破壊は少し罪悪感も感じるが…


しかし、聖剣による一撃は、彼女の華麗なステップにより、いとも容易く躱された。


「な、嘘だろ……っ!?」


「お客様、そこまで自身のお力を過信してしまうとは、お見苦しゅう御座いますね」


そういい、横に着地してきた彼女はそのまま、

「しっ!」

ビシッと、鋭い薙ぐような一撃を放ってくる。

「くっ!」

咄嗟に剣をこちらも薙ぐ。

甲高い音を立て掠め合う互いの武器はそのまま止まらずなお加速し、互いに迫る。

(ふむ…こちらが先手を取っておりますのに、全て防御されますね。これは傷つきました)

(力強い攻撃ではある…けどっ、これなら凌ぎ切れるっ……!)


そのまま交わされ続ける剣と扇の乱舞。

それを止めたのは、東館の見張りの乱入だった。


「すいやせん、メイド長!出遅れやしたっ…」


今まで奏介を攻撃していた彼女が、ふっと奏介から離れ、男を睨む。

「……手を出さず、お待ちなさい。私は今、愉しんでいるのです」


圧倒的な気迫。しかし、男は…

「い、いやしかし、お嬢からもし…

「いいから黙っていろと言っているッ!!」


放たれる、圧倒的な"鬼魄"。

男はすぐには動けず、ただ、首を縦に振るのみだった。


「ーーーー申し訳ありません、お客様。邪魔が入ってしまいましたので、仕切り直させていただきます」


そして取り出されるのは、もう一つの鉄扇。


(あの鉄扇が……2つも!?)


1つならまだ対処は可能だった。しかし、2つとなると話は別だ。


「単純に2倍だなどと、愚考はなさらないで下さいね。ーーーーーせいぜい足掻いて下さいませ?」


駆けるスピードは先程と同じ。しかし。


(纏うオーラが全く違うっ…!)


頭で理解した。先程とは別人だと。

あくまで"聖剣"で防ぎ切るのは困難。

しかし、"魔剣"に頼るわけにはいかない。


(まだ、戦える…やってみなきゃ、わからないだろっ!)


「ーーーさあ、存分に刈り取られて下さいませっ!」




死闘の第二ラウンドが幕を開ける中、地下では…


「あー、もうっ!これも違うっ、それもちがーーう!」

「エーリっ、うる…さいっ……………!?」


「どしたのエルカっ、見つかったのエルカぁ!?」


急に沈黙したエルカを気にかけ言葉をかける。

そして、その答えはーーーーー


「……あったっ…!見つけたっ……!」


「うぉおおやったねぇえ!さっさと持ってっちゃわないとっ!」


「…うんっ……!」


数百にも及ぶ木の箱をかき分け続けた努力が実を結び、"それ"の発見に至った。


「……持ってかないと…っ、ソースケに…!」


現在時刻2時27分。未だ30分にも満たない泥棒劇は続く。

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