第20話 let's泥棒大作戦
4日目の朝を迎えた。
何日目、などに意味はないが、とにかく時は待ってくれない。そして今日は、エルカ発案泥棒作戦の決行日なのだ。
「……なあ、普通に頼んだら譲ってもらえないもんなのかな?お金はモンスター倒せば貯まるし…」
なんとなく、盗みという行為に対して気が引けているのだろう、オレは泥棒発案者に問う。
「……やめといた方が、いい…それに、お金で、買えるようなものじゃ、ない…」
プライスレスの価値があるっていうのか。昨日はガラクタ扱いしていたが。
「だからですねー、モノとしてはまぁーったく使えないガラクタなんですけどね、技術がすごいんですよ」
エリーが続ける。
「ちまたじゃ失われた技術がーだの、異世界から持ち込まれたんだー、だのと。まあ、とにかくすごいんですよ」
大雑把な説明ではあるが、かえって分かり易かったかも知れない。
異世界と聞くと自分のいた世界を考えるが、まあ他にも世界はあるのだろう。異世界が存在したんだ、なら数が1つから2つに増えても気にならない。
「…今から、偵察に、行く」
たしかに、敵?の姿や、保管してある所の確認はしておいた方がいいだろう。作戦も立てれるだろうし、心の準備もしやすいかもだ。
そして、現在時刻10:20分頃となった。
オレたちがいるのは第一区画、大通りから少し行ったところだ。
「……まあこんなことだろうとは思ったよ、うん」
目の前にあるのは、まさに"豪邸"。
というか、ここら辺なんかやたらと豪奢な屋敷ばかりだ。
「メルちゃんってば、ほんとにお金持ちだね〜」
「…ほんとに、ね…」
「え、メルちゃんって、2人とも住んでる人知ってるの?」
エリーとエルカが自然に名前をこぼした。
「いやそりゃーおにーさん、お金持ちでなも知れ渡ってますし、そもそも名前も知らない相手の持ち物なんて知りませんよっ。ガラクタ収集家ですから、わりと私らとは顔見知りだったり?」
エリーが当然のことを当然のように言うが。
「顔見知りの家からモノ盗るってどうなんだよ…万一バレたら…」
「メルちゃんは大丈夫っしょ、お金持ちは心が広いんですよー?」
ならお前は狭いんだな、と言う言葉を飲み込み、まあお気楽エリーの事情はもう考えなくていいや、と自分の中で決定した。
そしてしばらくは、家の周辺をぐるりと回ったり、
ドアの位置や窓の位置をチェックしていた。
そしてまたもや戻ってきた。
今度はスラムの店ではなく、初日からエルカが借りていた第5区画部屋だ。
なんだかとても久々な気持ちになりながら入る。
エリーは「おおっ、ここが愛の巣ってやつですなあ!」などと言ってエルカに叩かれている。……エルカの手で叩かれるのはすごく痛そうなんだが。
「…結局、分かったことは、少ない…」
ーーーーー屋敷について分かったこと。
屋敷の形はコの字型。凹んでいる部分が正面の、よくある作り。
まず、正面玄関以外にドアは見当たらなかった。
窓はかなりの数存在。天窓も本館と呼ぶべき部分に6つ、そして左右の突き出た部分に4つずつ、計14枚だ。
「うーん……そもそもどこに狙ってるモノがあるかわからない以上、どこから入っても一緒じゃないかな?」
「…いや、エーリが、知ってる…」
「ほいっ、知ってるよ〜」
なんでやねん。
「なんでと言われましても、友達の家に遊びに行くなんて、普通のことじゃないですかね?」
友達と呼べるほど深い付き合いだったのか。
「仕事以外で行ったら門前払いですけどねっ!」
何が友達だ。仕事付き合いじゃねーか。
「ん?てことはエリーは、屋敷の内部を知ってるのか」
オレが遅まきながら気付く。
「いや、そりゃそうでしょが。大改装とかしてなければ」
なんか悔しい。ちくしょう。
「とにかくっ!部屋は本館地下ですよっ。簡単には入れませんがねっ」
「なんだよ、罠でも仕掛けられてるのか?」
「そうですよっ」
冗談のつもりで言ったのだが、本当にそんなものがあるのか。魔法が使える以上、どんな罠があるかわからない。難易度がすごく上がった気分だ。
「罠の種類なら、分かりますよっ。メルちゃんは有名なのばっかり買い漁ってますからね〜」
話を聞くと、どうやら罠は警報がなるモノ、束縛されるモノ、動く鎧(モンスターにしか聞こえないがあくまで鎧だ)などがあるらしい。
「それ全て突破して、目当ての品を盗る、ねえ…失敗したら顔が割れるだけじゃ済まないだろ?」
と、オレは嘆息する。しかし、エルカは、
「…そんなこと、ない。…彼女は、遊び好き…」
と、その女性を見透かしたような事を言った。
どうやら、そのメルちゃんとか呼ばれた女性は、エルカとエリーの2人にとって、あまり評判が良くないらしい。……エルカも知ってるなら、知らないのはオレだけなのか…
なんだか自分だけ知らない状態という事に少し悲しくなりはしたが、2人がこれだけ言うのなら大丈夫だ。
計画は簡単。天窓から東館、西館のどちらかに侵入。
二階へ降りた後本館へ。本館三階は寝室があるため、あえて避けた。
目的の地下倉庫は、一階からはいけない。
二階の使用人室の前の部屋、そこにある自動昇降版からいけるそうだ。帰り道もそこだけ。
そして、昇降版を使うには、屋敷の主(恐らくメルちゃん)と、屋敷に仕える戦闘使用人が持つカギが必要。
「…そこ、で…聖剣、使う」
魔法でできた物を破壊する聖剣は、案外使い勝手が良い。この世界において、魔法で作られていないモノは少ない。つまり。
「錠か、扉か…破壊、して」
そのどちらかはまあ魔法で作られているだろう、という判断だ。それも無理な場合は…
「力ずく、で、鍵を…とって」
壁や天井を壊そうとしたら、範囲を特定できないため、その屋敷の全ての壁が壊れてしまう事になりかねない。そのため、鍵で開けるしかない。
「ねーねー、でもさ、扉むりやり壊しちゃダメなのー?」
たしかにそうだ。この世界はRPGでもなんでもないのだから、別に何をしようが勝手だ。鍵がなくとも扉が木製ならぶち抜けば終わり。しかし。
「…メルフィーユの、性格上…だめ、でしょ」
やっとフルネームが聞けた。だが、それより気になるのが…
「性格って。聖剣で扉壊されるのは良くても、むりやり壊されるのがダメってどんな性格なんだよ?」
当然の疑問だ。そもそも物盗りを容認するようなやつの時点でアレだが。
「…それが、条件、だろうから。会ってみれば、分かる」
会ってるエリーは分かってるのか分かってないのかどっちなんだ。
とりあえず、一通りの事は話した。屋敷の詳細など分かるはずもないので、時と場合に合わせて動け、とだけ言われた。
そもそも部屋の配置などは、最後にエリーがその屋敷に入った日、4ヶ月前。
この世界は魔法で家や部屋を作るため、しようと思えば屋敷内の改装などすぐに終わる。そこも運なのだ。
幸い、昇降版は複雑な座標固定(聞いていてもよく分からないが)が必要なようで、恐らく変えられる心配はないそうだ。
だから、後は個々の動き次第となる。
(しっかし、盗みね…まさか異世界に来てこんなことをする日が来るとは……)
これから始まる、泥棒大作戦。しかし、自分は1人ではない。周りには、仲間がーーーーー
「ねーねー、お腹すいたんですけどー!奢って奢ってー!!」
「…ソースケ、おなか、すいた」
お腹を空かせて待っていたので、なぜか分からないがご飯を奢り、作戦決行の時を待った。
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