第19話 魔法使いへの道


そうだ。オレがするべき事は、初めからなに一つ変わってなどいない。


《この世界を支配する》


初めから目的は同じだ。

ただ、今までは、真っ当な理由もなく考えていた。

そこに違和感を感じていた。

ーーーーーだが、今は違う。


(オレはエルカを助ける)


覚悟が違う。


(この神器ちからを使って、この世界を支配する!)


1人では、無理かもしれない。

トランサスとの戦いのように、無様に手も足も出ないかもしれない。

だが、オレには相棒がいる。

先を見据えて行動する、最高のパートナーがいる。


だが、まだ足りない。


(動くんだ。待つだけじゃ、もうダメなんだ。オレたちは、国を落とす!)



つい先日まで、単なる一般人だった青年が、本当の意味でこの世界に降り立った瞬間。



ーーーーーいずれ神話となる、"聖剣使いの伝説"の、長きにわたる戦いの物語が、紡がれる。




ーーーーーーーーーー


その後、スラムの小屋でエルカを待った。

日はすでに傾き始めている。夕方ごろまでに、と言っていたので、彼女もそろそろ来る頃ではないだろうか。


そして、案の定エルカはやってきた。


「ソースケ、ただいま…」

「お、にーちゃん、たっだいまぁ〜!」


……おっと、エリーもセットで付いてきたみたいだ。


「お帰り、2人とも。……すごい荷物だけど、大丈夫?」


彼女達は、2人揃って大きなリュックを背負い、両手には様々な植物や素材を手にして立っていた。


「ーーーーーこれから、魔法……教える」



おかしい。

足りないのだ。

「えっと……なにが?」

オレは尋ねる。

「内臓が」

「いや揃ってるはずだけど」

「……おかしい。ソースケが、変なのか。世界が、違うから、なのか…」


エルカに内臓の有無を聞かれるという特殊な状況。

これには深い訳があるのだ。


「これじゃ、魔法…使えない……」


エルカの話によると、この世界の人間は魔法が使える使えないを問わず、ゲームで言うところの魔力的なエネルギーを作る機関が体内にあるそうだ。

もちろん、純日本人のオレにはあるはずもなく。

ついでにその内臓は体内に抗体を作り、魔力的エネルギー(長いので魔力と呼ぶ)の流れから身体を守る役割もある。

そして抗体は外部からの魔法干渉を防ぐ役割も担っている。


「ソースケの、場合…聖剣の、力で、干渉は、受けない…けど」


魔力もない。


どうしたものか、と悩む暇すら与えず、ここまで黙っていたエリーが声を上げた。


「あ、そういえばさ、メルちゃんが人工機関持ってたよね」


エルカは少し驚いた顔でエリーを見る。


「エーリ……でかした」

「へっへ〜」

「えっと、何がでかしたんだ…?」


エルカはこちらを見て、言い放つ。


「次の、行動……決まった。内臓、手に入れる」


んな物騒な……



ーーーーーーーその夜。


「人工魔力増幅機関、それを、手に入れるの…」


エルカは真剣な顔でオレに説明してくる。


「それがあったらね〜、なんと!おにーさんも魔力を操れるようになるのだっ!」


エリーは真剣さのかけらもない顔で説明してくる。


ーーー人工魔力増幅機関とは、一種のマジックアイテムと呼ぶべきものだ。

身に付けることで魔力を循環させ、その過程で抗体を生み出す装置。

しかし、この装備には大きな欠陥があった。


「自分の、抗体、ある人は……つける必要、ないし、つけれない」


抗体は、この世界の人間なら誰しもが持つ組織だ。

異なる抗体が自身の体に入ると、それは互いに拒絶反応を起こす。ーーーーー他人の魔法を、寄せつけないように。


「だから、これって実はガラクタアイテムだったりするんだよね!ただ……」


誰が何のために使ったのかも不明の役立たず《ガラクタ》を、高値で買い取った変わり者がいた。


「…その人は、区画1…大通りの、近くに…住んでる…」


エルカとエリーによる説明で理解ができた。

しかし。

「オレに、それは使えるの?……聖剣の力で、自分にかかる魔法とかは打ち消すから……」


エルカは分からないようだったが、エリーのほうは違うようだ。


「使えるんじゃないかなあ?君に一切干渉せず、効果を付加してる……えっと、魔法だとさ、体内のエネルギー使ったり、状態を変えるわけで…これの場合、

君の体内にあるものを一切変えずに、抗体を鎧みたいに装備するような……」


なんとなく、言いたいことはわかった。

聖剣の能力はあるべき姿へ戻すこと。

少なくとも何も変化させていないのなら、戻されるような効果ではない。纏うのがいけないのなら、鎧やそれこそ服もアウトだろう。何もこれは実体の有無を問わないのだから。

それに、自分のために手段を考えてくれたのなら、試すのは当然の礼儀だ。


「じゃあ、それを持ってる人から買い取るか……まさかとは思うけど……」


思わず不安げにエルカに問う。いやまあ、金が無い身ならたしかにこれしか方法は無いがーーーーー


「…そう、その、まさか…」


エルカはあくまで真剣に、言ってのけたのだった。


「泥棒……するの。……3人で」


「へっ?あ、あのう……そのメンバー、もしかしなくても、私入ってない?え?あれえ?」


「ん、ハブったら…可哀想…」


「気遣いありがとうっ!そして私は無力な一般市民だよっ!?」



こうして、オレとエルカ、そしてなぜか参戦させられてしまったエリーの3人チームが、今夜、動き出す。


「…ん、ちょっと待って。眠い…明日でも、いい?」


「いややる気出させてそれ!?……別にいいけどさ…」


思わずオレは突っ込んだ。エリーは絶賛顔面蒼白。

恐らく話も聞こえてない。

途端に不安になってきたが、このミッションを無事クリアできれば、いよいよ自分にも"魔法"と呼ばれる力が手に入る。

(俄然、やる気も出るってもんだよな)


ーーーーーこうして、3日目はいつもと比べ平穏に終わった。"彼ら"にとっては。

エルカが口にした"泥棒"が、魔法の存在する世界で何事もなく無事に成功する訳が、無かったのだ。



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