第16話 悲しみからの覚醒


どれだけ長い間眠っていたのだろう?


少し、頭痛がする。水が飲みたい。


ふと、横を見ると、エルカが寝ていた。

昨日、泣きじゃくった事を思い出すと、なんて声をかけていいのかも分からないから、正直少し助かった。


結局、スラムにあるエリーの部屋に泊めてもらったようだ。昨日、そのまま寝てしまい、エリーには迷惑をかけてしまった。

顔を洗い、鏡に写る自分の顔を見つめる。

眼は、いつも通り。痛みもなかった。


(神から与えられた呪い…オレは、なんにも考えてこなかった。代償があっても、おかしくなかったのに)


そして、そのせいでエルカに迷惑をかけた。

もう、こんな無様な姿は見せたくない。

エルカにだけは、絶対に。


ーーーーーその為にも。


「オレは、この力を…使いこなす」


全ては守るため。大事なものを、そして自分自身を、世界から守るため。


紺濃奏介は、誓った。




ーーーーーーーーーー



しばらくして、エルカが起きてきた。


「ソースケ…おはよ、です…」


まだ少し寝ぼけ気味のようだ。朝は弱いのかな?


「おはよう、エルカ。……その、昨日はごめん」


と、オレが言うと、昨日の事を思い出そうとしているのだろうか、斜め上を見て、「昨日…きのう…」と、1人で呟き出した。


やがて思い出したように、あー、と言い、一言。


「ソースケが…泣きじゃくった、あれです…?」


「いやそんなストレートに言わないでよ…なんか死ぬほど恥ずいよ…っ!」


と、オレが言うと、エルカはやっと完全に覚醒したようで、「冗談、だから」と一言言って、ご飯にしよう、と提案してきた。


……ここ2日間でのメシマズ率は三回の食事中(1日目の夜と、昨日の朝と昼だ)一回。


そしてそれは、エルカの手料理…


(つまりここでのミッションは、エルカに手料理をさせない事……!)


「じゃあ、ごはん、作るから…ソースケは、まってて…?」



三十分後。


(どうにもエルカの頼みは断れない…)


机に並んだ不味くはないが美味しいわけではなく、そしてとてつもない量の料理達との戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。


「いっぱい…作ったから…」


微笑みながらこんな事言われて断れるわけもない。

それに……


(エルカが、楽しそうだし…)


昨日まで、エルカはいつも無表情だった。

昨日の朝はなぜかテンションが高かった気もするが…


昨日の出来事で、絆が深まったとしたら。


あんな出来事でも、無駄ではなかったんだと、そう思えた。



そしてその後、無事に完食した奏介は、食べ過ぎでしばらく動けなかった。



ーーーーーーーーーー


「この後、どうするの?」


エルカに問う。昨日あんなことがあったばかりだ。

今日は、その件の後始末など、ないのだろうか。


「とりあえず、休んでて」


「いいけど、エルカは?」


「昨日、ソースケの、実戦、見た。だから、必要なもの、揃える」


「じゃあ、なおさら荷物持ちとか…」


「ソースケ」


ここまで押されるとは思っていなかったので、少し戸惑ってしまう。


「……オレは、もう大丈夫だよ。もう元気だよ」


「それでも。……今日は、休むの。いい?」


そこまで言われたら休むしかない。エルカには逆らえない。


「分かった。…じゃあ、一度日本に戻ろうかな?」


「あ、ソースケ、夕方、までには…帰ってきて」


「え?分かったけど、どうして?」


装備の試着とかかな?なんて思ってると、帰ってきた答えは、よほど想像の範疇を超えていた。



「一緒に、いるの。……約束、したでしょ…?」



これで、苦労続きだった二日間とは打って変わり、

なんだかとても久しぶりに感じるオフを満喫することとなった。



だが、奏介にはすべき事がある。


(神に、この力のことを問いただす…!)


顔も思い出せない天上の存在に、小さな反旗を翻す。それこそが、日本へ戻る目的だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る