第13話 己の強さと己の脆さ 2
始まりはいつも前触れがないものだ。
そして、気がつくと既に自分はその渦中にいる。
(何が起きているのか、詳しくはわかんないけど…)
動くな。
そう、直感が告げる。
スランタル王軍と名乗る鎧の兵士達は4名。
今名乗りを上げた者の後ろに、リーダーであろう白銀の甲冑の男がいる。
全員帯剣しており、それぞれが剣術を扱えるものだというのが見て取れる。
しかし、なぜこのタイミングで?
それとも、毎日来訪しているのか。しかし、周りのこの慌てぶりから見て、それは違う気がする。
答えは敵が教えてくれた。
「探査魔法に異常があった!!それが何を意味するか、分かるか!?」
奏介にはよく分からないが、エルカやエリーたちはどうやら違うようだ。……というか。
(なんでオレを見て冷や汗をかいてんのさ!?)
う、嘘だろ?敵は探査魔法といった。それがどういうものかわからない以上結論は出せなーーーーー
「貴様らインフェリアの総数に異常があった。
ーーーーーこの中に1人、登録されていない者がいるはずだ!」
やばい。これはもうオレの事と思っていいだろう。
探査魔法とはどうやら、オレたち魔法を使わない人間(彼らはインフェリアと呼んでいるみたいだが)の数を確認する魔法のようだ。
この世界に来たのが昨日。そしてさっき見つかったと考えると、その魔法の考え得る効果はいくつかある。
例えば、範囲内の人間を識別する魔法だ。
こんなことが可能とは思いたくないが、一定エリアを結界か何かで覆い、その中の人間の総数、そして魔法が使えるかを判断する。
それなら、オレがここに来た時点でバレたのだろう。
逆に、人の視界を盗んだりする類ではないはずだ。
もうそうならば、異常があると分かったということはオレを見つけたということのはずだ。その場合、こんな風に名乗り上げずとも、目の前のオレに直接言えばいいだけなことのはずだ。
それに、数に異常、と奴は言った。
その曖昧な言い方からしても、姿を見たりしたとは考えにくい。
ならばこそ。
(どうする…!?アイツらが探してるのはオレだ…オレが見つからなければ他の人はどうなる?だが、ここでオレが悪目立ちでもしたら、この後の行動に響く…)
エルカをちらりと見やる。彼女はこちらを見て、小さく首を横に振る。
"名乗り出るな"という事だろう。
彼女はあくまで冷静だ。先のことを考えて行動している。それに、奏介とは違い、兵士たちの行動なども熟知しているはずだ。その上で動くなというのなら、
何も知らない奏介が勝手に動いても悪い方向へ傾く可能性が高い。
そう結論付けたすぐ後、状況に変化が訪れた。
「……責任者は私だ。今日は一段と仰々しいじゃないか。まさかーーーーー称号持ちの騎士を遣わすとはな。
国もそこまで人手が足りんのか?」
そんな軽口を叩く男こそが、このスラムを取り仕切る責任者なのだろう。服で覆いきれない逞しい筋肉、スキンヘッドという風貌は、奏介にとってはこれぞ異世界、という感じだ。
そこで反応したのは、先ほど名乗りを上げた兵士だった。
「貴様、インフェリアの分際でなんだその態度は!?
無礼であるぞ!」
「なんだ、毎度毎度同じことを言う奴らだなあ…
なら国の法くらい、オレたちにも開示しやがれってんだ!それとも、クソしすぎて紙がねえってか!?」
「きっ、貴様…!インフェリアの分際で我らスーペリアに…!」
と、場がヒートアップしている隙を見て、エルカに問いかける。
「なあ、インフェリアって…?」
エルカは普段より若干早口で答えた。
「魔法が、使えない人の、総称。
スーペリアはその上位。銀の、鎧の人は、称号、あるから、ハイ・スーペリア…!」
身分の差か。なんとなく分かってはいたが、まさかハイなんてものまであるとは。
「……なあ、このまま見てていいのか?あの後、どうなる?」
「……あの人が、処罰、受ける。でも、耐えて。
ここで動くと、後で、死ぬ」
と、そこでエリーが口を挟んだ。
「で、でもっ、お頭が……!」
お頭とは責任者の事だろう。エリーにとっては同じ境遇の仲間だ。見捨てることはできない筈だ。
そこではっと気づく。
(なぜ…周りは誰も動かない?)
同じ仲間であるはずの人間が、今にも酷い目に合いそうになっている。なのに、なぜ助けない?
「個人…で、処罰、受けないと…いけない」
「え…?それって、どういう…」
「法で、決まってる。個人の、処罰は、あくまで、個人…でも、集団になると、話は別…インフェリア、全体と、見なされたら…ここは、維持、できない…」
だから誰も動かないのか。
「彼は…見せしめ。はやく、見つかるように、って。
初めから、そうする、つもりだった…はず…」
そこで区切り、「でも」と。
「ソースケは、動いちゃ、ダメ。
ーーーーーたとえ、誰が、死んでも」
そうだ。神に選ばれた自分は動いていいわけがない。
身バレはしていない。このまま黙っていれば欺ける。
それに、彼とオレの命では、"価値"が違う。
謙遜する必要などない。
オレは、神に選ばれた、英雄なのだ。
だからこそーーーーー
「なあ、エルカ」
「……やめて」
「目の前の誰かを救える力を手に入れたんだ。なら、それを使うべきじゃないか?リスクがあるからって、助けれる人を見捨てて、何か成し遂げてもさ、なんていうか…後で後悔しそうだなってさ…
命の重さは変わんないよ。ーーーーー助けるべきだ」
「………ほんとに……ばか」
と、そこまで黙っていたエリーがまた口を挟む。
「お、おお…!な、なんかかっこいいよ!どこ生まれだってくらい平和ボケしてる気もするけど、なんか超かっこいいよおにーさん!」
そこまで言われると、恥ずかしいんだけど…
と、エルカもしかたなくやる気になってくれたらしい。
先ほどまでとは違い、眼光に光が宿っている。
「……もうっ。ほんとに、仕方なく、だから。
顔は、見られちゃ、だめ。エーリ、装備…」
「実はこうなる気がして、最初から取りやすいとこに置いてたんだよねっと!ほれ!」
視線の先にいる兵士たちに分からないよう、地面を滑らせ渡されたのは、先ほど手に入れた"武器"。
「それと…これも」
エルカから渡されたのは、黒いフーデッドローブ。
「聖剣の、鞘は、ここに…見られたら、持ち歩けなくなる…敵は、一人も逃しちゃ、だめ。でも、殺しても、だめ……できる?」
「了解。…あんまり自信はないけど」
気弱なことをいうオレに、聖剣を手渡しながら、エルカは励ましてくれる。
「大丈夫…ソースケは、勝てる。称号持ちも…たぶん。もし、負けそうなら……全力で、逃げて」
「お、おう…負ける相手から逃げれるのかな…」
「負けると、したら…技術。身体的な、能力は、ソースケが、圧倒…してる、から…」
エルカがここまで言うのなら、たぶんそうなのだろう。まだ短い付き合いだが、それは分かる。
「おにーさん、もし勝ったら、私がハグしてあげちゃいましょーか?」
「え、遠慮しとくよ…」
「えーっ、それは残念ですなあ?」
ニヤニヤ笑いながら、エリーが冗談を言う。
そのおかげで、かなり緊張も解けた。
「じゃあ、頑張って…死なない程度に」
「ああ。ーーーーー頑張るよ。死なない程度でね」
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