第12話 己の強さと己の脆さ 1


目を開けるとそこは、見知った宿だった。

エルカが借りていた部屋だ。

そう、さっきまで神と…というところで、神の姿が出ない事を思い出した。


「あ、ソースケ。おかえり」


と、奥のドアからエルカがトコトコと歩いてきた。


「ただいま。…時間って、どのくらい経った?」


「?、えと…」


エルカは自分の腕の円盤を見た。どうやら時計も装備しているらしい。…少し便利そう…


「2時間くらい」


「2時間たったんだ…てことは、あっちの世界だけ止まってるのかな…」


「なんの、話?」


...エルカに適当に事情を話したところ。


「ふーん」

「いやふーんって。もうちょいコメントくれた方がこっちとしては嬉しいんだけど…」


「分からない、ものは、分からない。だから、言わない」


たしかに、ここでそんなことは議論しても意味はない。


「それに、装備はもう、できたはず…とりに、行く」


「あれ?半日はかかるんじゃなかった?」

あの時、エリーは半日ほど待ってくれと言っていた。

あの後ご飯を食べて、その後2時間自宅へ戻り、30分ほど話して、長くても4時間経っていない。


「4時間、経てば、エーリなら、作れる。

それに…」

「それに?」


「早く行かなきゃ…まずい…」



その後、やけに急ぐエルカと共に、エリーの店へ来ると…


「あれれ!?おにーさんたち、ちょっと早すぎやしませんかっ!?まだできてませんよ??」


…言わんこっちゃない。珍しく早とちりしたなと思い、エルカを見やる。が…


「…もう、できてるでしょ」

「いやー、なんの話だか、ちと分かんないかなーって…」


エリーが焦ってる…のか…?エルカのあの態度…よく分からなくなってきたぞ?


「じゃあ、実物。見せて?」

「い、今は動かせなくって…」

「じゃあ、いい」

「ほ、ほんと!?じゃああと少し待っ…」

「自分で、行く、から」

「ごめんなさいいぃぃぃぃ!ペイントしてましたあぁぁぁ!」


「ほんとに、もう…」


泣いてすがるエリーを見て、エルカは一言だけ、呟いた。


「あー…確かにこれは、止めなきゃ危なかったかもね…」


奏介が実物を見て一言目にそう言ってしまえるほど、それはヤバかった。

「いやー、つい、勢いに乗っちゃって?」

「どう勢いに乗ったら、プロテクターがカラフルなハート柄で彩られるんだよ…」


…プロテクターは、様々な色のハート模様が付いており、縁は雲のような丸々した模様が付き、装備したら見えない裏側には、可愛いクマさんがいた。


「てか、エリーってこんなに女の子らしい絵、描くんだ…」

「エーリ、純情…」

「そこまで言われると照れちゃうぜー!」


本人はあまり気にしていないようだった…


指抜きグローブ、ブーツはなかなかにいい出来だった。殴る部分や掌の一部に金属が用いられ、ブーツも底と爪先に金属が付いている。ゴムのようなものがおそらくこの世界にはないのだろう、滑り止めの代わりに、かかとのあたりに棘が2本生えていた。

これを地面に刺して止まるのだろう。

自分の装備品を見て楽しんでいる横では、

「えー、落としちゃうのー!?」

「あたりまえ」

「で、でも、色の注文とか無かったしぃ…」

「とりあえず、黒で、いいから」

「せ、せめて、裏側のクマちゃんだけはさ!?ねっ!?いいでしょ!?」

「……もうっ」


これ、いつ完成するんだろ…?



大体、1時間ほど経って、やっと完成したらしい。


「なんかさ、形変わってない?」

「気のせいじゃなーい?」

「……ソースケ、気のせい」


…明らかに形が変わったと思うんだけど。

もともと、胸の部分のみを覆うプロテクターだったのだが、その右下と左下、両腋の下の部分から脇腹にかけて、範囲が広がっている。


「さ、つけて」

エルカが催促してくるので、とりあえず、付けてみよる。


「ふっふっふ、この私が作った武器だからねっ!

ぴったりに決まってるんだよねえ!」

「じゃあ…もし、1ミリでも、ズレてたら…お金、出さないから」

「ちょっ!?んな殺生なあ!?」


もういっそのこと無視した方がいいと学んだオレは1人静かにプロテクターを装備した。


「おお…」

エリーが声を漏らす。たしかに、ピッタリだ。

重さもちょうどいい。動きやすいし、この世界でのオレのステータスなら、長時間つけても苦にならないだろう。


「いい装備、ありがとう。気に入ったよ」

「おお!?ほんとですか!?じゃ、おにーさん、お得意様第一号!?」

と、喜び目を輝かせるエリー。

「ソースケ、調子に、乗るから、ほめないこと…」


その後プロテクターを取り、荷物入れにしまった。

やっと、装備品が揃った。これで敵と戦うときも、恐怖心は和らぐだろう。

これで一件落着だ。


ーーーーーそう思っていた。




「おい、お前ら!兵士が来た!しまえしまえ!」


「ッ……!ソースケっ!」

「な、なんだよ!?」

「なんだよじゃないんだよぉ!剣とかしまって隠して早く!」

2人に急に急かされ、全くついていけない。

そして、剣を店のカウンターの下に隠したすぐ後、彼らは現れた。



「動くな!!我々は、スランタル王軍である!貴様らインフェリアの監視に来た!責任者はおらんのか!」

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