第10話 余談・日本にて

異世界を渡り歩く。

なるほどこれだけ聞くと、まるで異世界からの旅人かなにかのように聞こえ、耳障りは良い。

しかし、現実の世界観移動は、そんなロマンチックなものでもなければ、夢のあるようなことでもなかった。


「……、あ、戻ってた」


奏介は、あちらの世界でご飯を食べた後、

元の世界に帰りたいと念じた。

ただそれだけの事で、一瞬で帰ってきた。

…元の世界にいつでも戻れるって、どうなんだろう。

まあ、帰れるならそれに越したことはない。


と、ベッドに置かれた時計を見る。


(異世界に行ったのは夜に風呂に入った時だ。

それから丸一日以上経っているはず…)


そう思いつつ、時計を見ると、

「なっ、進んでない!?」


思わず叫んでしまった。だが、よくよく考えると、それは割とあるあるな展開だ。それに、時間が進んでいないのを確認できたおかげで、先ほどまでの出来事が、どうやら夢でないことが確認できた。

……あれ?


「神様と話した時のことは思い出せるのに、声とか姿が出てこない…これが誓約かあ…」


なんて、物思いにふけっていると。


「おにいちゃんっ!!ながーーいっ!」

「!?」


唐突に、脱衣所の方から声が聞こえた。


「わ、悪い、奏音!今出るから!」

「どーせ、スマホ見てたんじゃないのー?

ほんとにもう!早くしてよねー!」


そして、風呂から上がり服を着た後。


「おにいちゃん、1時間くらいお風呂入ってたよ?

湯冷めしてたでしょ?もうっ!」


腰に手を当て、片手で僕を指差すのは、オレの妹、

紺濃 奏音(かのん)だ。

当然日本人なので黒目黒髪、血が繋がっていない裏設定などない。中学2年生で、運動はあまり得意ではないが、勉強がすこぶる得意なため、みんなから頼られることは多いらしい。

長い黒髪を揺らしながら階段を上る彼女に、オレは何を話せばいいのか、分からなくなっていた。


「あ、おにいちゃんっ、ゲームしよっか!」

と、妹が振り返りつつ、きいてきた。

…話す機会が丁度できたし、妹の頼みだ。断る気はない。だが、あまり気乗りしない…


「はーいっ、わたしの勝ちねっ!」

「嘘だろ…これで何連敗だよ…」


ゲームをする、といっても、妹の場合、カードゲームの事になる。

初めはババ抜きのような簡単なものから始め、その後、ポーカーのようなものから、七並べや大富豪といった2人では少々面白みに欠けるようなゲームをし、

その後、オレが起死回生のために、某少年マンガ由来のオフィシャルカードゲームで遊ぶ。

…のだが、勝てないっ!


「嘘だろ…お、オレは環境デッキ使ってるのに…」

「……え?おにいちゃん、いまなんて?」


ぐ。口を滑らせたか。環境デッキ使って負けたなんて恥ずかしいこと知られたら…

「…オレ、っていったよね?」


「あ。そういえば」


そうだ。エルカに言われて変えて、もう慣れたのか?

さっきまでボクって言ってしまってたのに。


「どしたの!?急にそんな変わっちゃって!

なにか悪いもの食べた!?」

「食べてない食べてない!いきなり急接近するな!」

「じゃ、なにがあったのー?」

「うーむ、話せば長いというか…いや、まて」


そもそも、異世界に関することを話さないという約束のもと、日本に帰ってこられたわけだ。

そして、どうやって異世界に触れずそれを説明するんだ。というか、時間が進まないのなら、家族や周りに説明すること、ないような…

死んだ場合の別れの挨拶?…さ、さすがに必要ないと信じよう…なら、何も言うことなくね?


「ねーねーおーしーえーてー?」


顔を覗き込んでくる奏音を傍に、結論を出す。


「うん。…ごめん、特に何もなかったよ」

「へー、なかったんだー…ってなるかっ!嘘だ嘘だ嘘だぁー!教えろ教えろー!!」


両手ぽこぽこ攻撃が作動してしまった。これは選択をミスった。まあ、なんとなくわかってたけど…

「わ、分かった、実はな、そう、好きな人ができたんだよ!」

「好きなひとぉ〜?」


妹のジト目攻撃が繰り出された。地味にきつい。

この嘘で乗り切らねば。


「そ、そうだよ、納得してくれた?」


「ぜーんぜん?」


ですよねー。


と、奏音は急に表情を緩ませた。

「でもまっ、おにいちゃんが何か頑張ってるんなら、応援するよっ、妹としてね。…隠し事をされたのはまあムカつくけど、いずれ、ちゃーんと聞かせてもらうからね!」


「あ、ああ、いずれ…ね?」


「言っとくけど、わたしはなかなかに執念深いからねっ、一度聞くと言ったら、たとえ世界が滅んでも聞くからねっ!」


そこまでの覚悟とは…てか世界が滅んでもって。

それがフラグになって、エンデが滅んだらどうしてくれる。…日本は滅ばないよな…?


「ま、もう寝るよー。うはっ、12時前だ!夜更かしは美容の天敵だからねっ、奏音ちゃんは可愛くあるため、今日も眠りにつくのですっ」


と、立ち上がって時計を見つつ、奏音はそう言った。


「…うん、早く寝ろよ。明日も学校なんだろ?」

「なんだろって。おにいちゃんもでしょーが。

ボケるにははやいぞっ。じゃ、おやすみっ!」


と、ウィンクをした後、ドアから出て行った。


(この後、エンデに戻って、武器を揃えて、その後はどうするんだろう?城を攻めるにはまだまだ手札が足りない気がする。というかそもそも…)


自分はなんのために国を落とすのだろう?


なんとなく、ラノベ展開みたいで楽しそうだから。

そんな軽い理由で、していい事なのだろうか?


(…いや、深く考えるのはよそう)


エルカは、あの国が大変な状態だと言っていた。

それを、立て直すだけ。

特別何かを壊したりするわけでもないし、何よりそれは…


「神から賜った…使命だから」


姿も思い出せない神を思いつつ、奏介は…



異世界に帰る前に、一眠りする事にした。



「おにいちゃんっ!朝だよ遅いよ遅れるよー!?」

「うわあっ!?」


…案の定寝過ぎたオレは、この後、学校に行かず、異世界へ飛んだ。

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