第8話 スラムの女の子


「いらっしゃいませっ!お探しのものは家具!?

  武具!?それとも防具っ!?

  なんでも取り扱ってますよ!!

  さあさあ見てった見てった見てったら!!」


目の前で騒ぎ立てる、女の子。

身長は160センチはあるか。エルカが無表情なら、

この子は明るく無邪気。

髪は金髪で、ポニーテールにしている。

目の色は紅。八重歯が似合っている。

そこだけ切り取れば、十分可愛い良い子だ。

だが、服装がその姿を悲しく際立たせている。

着ているのは黒く煤けた青いオーバーオール。

下には黒い服を着ている。

ブーツは側面に穴が空いており、スラムに住む人間だということを静かに物語っている。


「エーリ、落ち着いて。」


「ええっと、エーリ、って名前なのかな?

ボクは…」


「オレ、でしょ。この子、エリー。

 エリー・シュラ。で、この人、ソースケ…」


なるほど。エリー。愛称がエーリなのか。

…わざわざ愛称いるのかな?


「なぁるほどっ!ソースケ様ですね!

……もしかしてぇ、エルカのアレ…?」


などと、顔を近づけて言ってくる。

ボクは「ち、違うから!」と顔を赤らめるのに対し、

エルカは「違う」の一言のみ。少し傷ついた。


まず、エルカが切り出した。


「防具を作って欲しい。」


エリーが問いかける。


「ふむん。詳しく聞こう!」


「ソースケの、両肘、両膝のプロテクター、

それからグローブ、ブーツ。」


「ふーむ、なるほどっ、予算は??」


「…これくらい」


財布をぱかっと開けた。


ここでエリーが一息。


「なめてんのかっ!」


さすがに驚いた。

「やっぱり、お金足りないよね…ごめ…」

「いやこんなに受け取れませんよっ!」


奏介が言い終わる前に重ねられた。

そんなに中身は多く無かったはずだ。それなのに、ここまで言われるとは。


「おにーさん、新入りでしょう?

ここは魔法が使えない、いわば落ちこぼれのゴミクズが集まるところなんです。そんなところにこんな大金持ってうろついちゃ、場合によってはグサっと

やられちゃいます!」


そう言われて、改めて周りを見る。

声が聞こえたのか、こっちを窺う人間は少なからずいる。そこでやっと、少しの危機感を持てた。


「構わない。こんなの、ソースケなら、すぐ。

だから、良いの、お願い。」


「ふーん、そういうなら、ぜんぶ貰っちゃうけど。

ま、いいよ。さっそくサイズ測定しなきゃだし、

まあ奥入ってよ〜!あ、おにーさんはダメね!」


「え?なんで?」


「私たちは女の子なの!聞かれたくない話の一つもあるってのっ!」


「お、おうっ」


そう言われたら黙るしかあるまい。

エルカは「???」って感じだけど、まあ…いいや。



バタン、と。出店の裏の小屋の扉を閉めたエリーに、

エルカは向き直って言った。


「…なに、聞かれたくない、話って。」


「ん?いーや、近況報告、っていうのかな?

男なんて連れちゃって、どしたの?

お付き合いしてるの?友達とかは」

「す、ストップ。してない。知らない。落ち着いて!」


と、言うとやけに急に静かになり、こちらをまじまじと見てくる。


「な、なに?なにか、変?」


「うん。」


「なにが?」


「……どうして、おにーさんに…」


「やめてっ」


「……信頼、してないです?」


「そういう、訳じゃ…」


エリーは少し考える様子になり、少しした後、こちらを見つめ、言った。


「今、何してるのかはよく知らないですけど…

大事なことなら、2人とも仲良くしないと、

長続きできないよ?」


「…うん、分かってる。でも…」


「……まあ、仕方もないです。みんな複雑、だもんね。でも、それでも!…危ないことは、しないでね?」


エルカは少し俯き、「うん、分かってる」とだけ言い、小屋を出ていった。

エリーは1人、上を見ながら、考えていた。

(まーた、なのかな。ほんっとに、忘れた頃にやってくるね)


遠い過去を思い出し、そして今起きている出来事を知るため。


再び、エルカと協力できることに、少しだけ、

喜んでいた。


「さて、何を作るんだっけ?」

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