第7話 武器を求めて



カーン、カーン…なんて、槌の音が響くこともない。



「なんというか…思ったより普通だね…」

「魔法が、ある以上、大型の工具は、不要…」



予定通り、2人で第3区画へやってきた。

 元の世界へ戻るのを後回しにしたのは、単にどれくらい時間がかかるか分からなかったからである。


「そういえば、昨日言ってたよね。食べ物より武器の方が安いって。でも、武器も無から作れるわけじゃないんでしょ?」


と、隣を歩くエルカに尋ねる。


「そう。でも、明確に、違う点。触媒…武器は、金属。作っても、溶かせる。

食べ物は、土や、肥料…もとには、戻らない。」


「でも、人が死んだらしたら土に帰るから、結果戻るんじゃ?他にも、トイレとか…」


「食べ物、一つ作るのに、割りに合わない。

武器は、同じ量の、素材。

食べ物、育てるのに、必要な量。そして、再利用は、できない。続けたら、いずれマイナスが、大きくなる」


育てるのに必要な量なんてわかるモノなのだろうか。案外適当だったりしそうだが。


「へえ…この国も、大きな問題を抱えてるんだな…」


「そういう、わけじゃ…ない…」


「でも、現に値段は高いんでしょ?」


「高い。でも、困らない。たしかに、国民は、高いもの買わされる。でも、武器と比べれば、であって。

賃金、見たら、そんなことない。

それに、他国から、違法な品、運び込んでる。」


「違法な品……?」


凄く気になる。これはあれじゃないか、やっと目的のなかった国の支配とやらに、正義の大義名分が付くのでは…!


「ヒト、多い。から、ここでは、言えない。

あとで、ね」


まあ、たしかに、そんな怪しい話をここでしたら、通行人に詰問されたり、通報される恐れもあるかもしれない。


「でも、そこまで話したら同じじゃ?」


「ない。この国、噂は多い。でも、核心、つかない。

この範囲なら、よくある…」


そんなものなのか。まあ、事前に聞いたこの国の説明の時点で、相当ヤバイ国だと思ったが。


「今日、ここで、武器の整備、する。後、購入…」


「オッケー。メモに書いてある物を揃えればいいんだよね」


「そう。だから、荷物持ち。よろしく、ね…」


……筋力は上がってるはずだから、多分無様な姿は晒さずに済む筈だ……



ーーーー


そして1時間と少しが経過した頃。


「ふう。歩き疲れた…休んで、いーよ」


「はあっ、はあっ、はっ、はっ、、!」


死ぬほどキツかった。荷物を地面に下ろし、座り込んでしまう。というか、荷物置いた時ズドンとか音したけど、何キロあるんだよ…


「すごい。よく、持てるね、そんなの…」


「はあっ、まあ、ねっ、筋力は、上がったみたい……」


「でも、まだ」


そう、まだなのだ。1つ、買えていない。

それが見つかるまでは、探さねば。


メモの内容、つまりほしい物リストはこうだ。


ロープ3巻 オイル 包帯

ナイフ 弾丸 幾つかの粉末

鉄板2枚 奏介の装備(小手のような関節を守る物、レッグホルスター、所々金属で覆われたグローブ、

爪先、かかとが金属部となっているブーツだ)


ロープや鉄板は買った数。そして、足りないのは…


「装備…ろくなの、ない……」


巡ったお店は数多い。しかし、どこもかしこもいい装備と呼べるものはなかった。

 最悪、自分で手直しすればいい。当初はこう思っていた。しかし。予想外の事態となった。

……手直し以前に、元の装備がダメすぎる。

 素材もダメ、使いにくい、そもそも魔法で作られた装備は細部が粗悪で、脆い。

 納得のいくまで手直ししたら、もはや全て作り直しになってしまう。


戦士の少ない国だ、それも当然と言えば当然なのだが、さすがに買えた物ではなかった。


「どうする?もう1から作っちゃう?」


「まだ。アテは、ある…そこで、無かったら、おしまい…」


なんと、ここまで探したのにまだ当てがあるのか。

と、素直に信じられる気持ちではない。なにせ結構な重さの物を運び続けたのだ。


「そのアテって?高級なとこならそもそも買えないよ?」

「たぶん、激安」


そんなバカな。今まで見て回ったゴミ装備でもまあまあなお値段だったというのに。


「そんなところ、あるとは思えないけどなあ…」

「魔法、使えない人。その人たちの、出店。」


エルカの見据える先。そこは、今いる通りから離れた路地の先。

お世辞にも治安が良さそうとも思えない、出店が多く立ち並び、貧困層が集う、いわゆるスラム街。


「知り合い、いる。…その人に、頼む。」

「…よし。とりあえず、荷物先に宿に置いてくる。」


もう奏介の腕は限界を突破しかけていたので、距離的にも宿の方が近いからと、重たい荷物は預けることにした。

その後すぐ、エルカの知り合いの店へ向かった。



ーーーー



「着いたけど…静かだね、人の割に」


「みんな、景気悪い。だから、ここにいる」


2人は30分ほど歩き、スラム街へと辿り着いた。

 出店も多く、人も大勢いる。が、先ほどまでいた大通りなどと比べて、呼び込みなども全くなく、交わされているのは二言、三言程度の最低限の会話だった。


「それで、知り合いの人のお店っていうのは、どこらへんにあるの?」


「さあ、知らない」


「ええっ!?こっ、この中を今から探すの!?」


静かな空間を奏介の叫びが響いたが、周りに変化はない。

このスラムは、端から端まで見ると、その長さは3キロ弱。それが壁に沿うような歪な形で存在している。


「でも、すぐ見つかる。知り合い、分かりやすい」


「それはどういう…」

「いぃらあっしゃぁいっ!」

「!?」


突然後ろの方から巨大な声が聞こえ、思わず振り向く。と、そこには、すごい勢いで走ってくる女の子が……


「もしかして……あの子……?」


「まあ。残念ながら」


ギギッとキューブレーキしたその少女は、

屈託のない笑みを浮かべ、2人を見ていた。

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