第6話 朝と、予定と、お風呂と



朝が、やってきた。


マトモに異世界で起きた初めの朝だ。

うーん、と伸びをし、まだ眠っているエルカを横目で見た。

(エルカは、どうして腕がないんだろ…強さもよくわかんないし、昔話、いずれ聞きたいな…)



でも、なんだかそれは、2人の間に亀裂を生みそうで。

 今の関係は、気に入っていた。まだあって少しだけど、仲間意識はとっくにできてる。気が早いと思われるかもしれないし、恥ずかしくて言わないが、やはり異世界で初めて出会った人間で、これからの仲間なのだから当然だろう。


だから、今は。


今は、聞かないでおこう。そう思った。



ーーとりあえず、風呂に入ることにした。




ーーーーー


……エルカは朝に弱かったりする。

どんな人間にも、弱いモノはあるのだ。


「んっ…今、何時です……?」


むくっと体を持ち上げ、ふと、隣を見る。

ソースケがいない。

まあ、おおかた自分の世界に一度戻ったのだろう。


なら自分はその間、準備でもしよう。



(とりあえず、おふろ、はいろ…)


と、脱衣所の入り口に近づいて……

ーーばっと壁際に隠れた。


(ストップです待つです止まるですなんでですどしてですか!?!?)


すこーし、だけ。後ろ姿を捉えてしまった。


ソースケの、何も着ていない"上半身"を。


たかだか上半身だ。上裸の人間くらい、異世界にはいそうな物だが、エルカはあいにく見たことはない。


なので、上半身を見ただけで、恥ずかしくて、赤面して、隠れてしまう。

……人間、弱いモノって、あるのである。


(こ、こんな事、驚くに、決まってるです!とりあえず、移動しなきゃ…)


と、移動しようとした矢先……

「あ、エルカ。おはよ。シャワー先浴びちゃってごめんね」

「わぁあーーーー!!」

「ええっ!?」


奏介にはなにがなんだかわからないだろう。

あくまで上半身のみ、裸。

地球上、今時それで叫ぶヒトがいるだろうか?

少なくとも、奏介には思い当たる先はいなかった。


「お、驚かせてごめんっ!」

「い、いいのです!違うのです!と、とりあえず、

服を着て、目の前から消えるです!」

「め、目の前から消えるって、そんな何かしちゃった!?」



と、奏介は朝から一悶着を繰り広げ、ここで恐らく半分のエネルギーは使ったと見ていいだろう。

 その後、無事エルカもシャワーを浴びることができた。それに伴い負った精神的疲労は、奏介よりもかなり大きかったが。




その後、軽い朝食を済ませ、今日の予定について話すことにした。


「今度こそ、区画3、工業区、いく…」


まだ少し顔から赤みが抜け切っていないエルカが、

そう切り出した。

 当初、予算の都合で行けないという、しょうもない神の悪戯によって行えなかったこと。

当初の目的どおり、ではあるのだが。


「いいの?お金もそんなに稼げたわけじゃないんでしよ?」

「問題、ない。この国、食糧の方が、武器より、

だいぶ、高い…」


驚きの一言だ。普通はそういう物なのだろうか?

 奏介のいた世界では食料など格安で買える。これも平和ボケなのかもしれない。思わず聞き返してしまうのも仕方ないだろう。


「そうなの?普通、武器の方が高そうだけど……」

「そう。武器、魔法で、出せる、けど。食糧、どうしても、土地、いるから…」

「領土は拡大できないから、だよね? 魔法で食糧をポンポン出すっていうのは、できないモノなの?」


魔法でモノを作り出す、というのはみんな考えることだろう。元は同じ元素なのだから、炎なんかが出せたりするのなら、食料なども出せるはずだろう。


「モノを出すの、触媒、いる。別に、土とか、水、使って、食糧は、出せる。でも、触媒は、消える、から。その度、資源は、減らせない…」


なるほど。思ったより魔法にも制限はあるのか。


(やっぱりこの世界の魔法、不便だな……)


魔法があるからといって、農業はなくならない。

 やはり、魔法よりも機械の研究をする方が文明も進むのだろう、日本とスランタルの差を見るからに明らかだ。


やっぱり昨日考えた農具チートが…などと考えていると、エルカがこんなことを言ってきた。


「ところで、ソースケ。」


「あ、ごめん、どしたの?」


「元の世界、まだ、一度も、戻ってないけど。」


「あ」


そういえば、ずっとそのまま戻っていない。

 家族にどう説明すればいいのかも分からないが、一度戻る必要はあるだろう。


エルカの一言により、午前の用事は第3区へ、

午後は日本への帰宅が決定した。

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