第5話 初陣と、初勝利と
「危険レベル、5段階中、2段目。
危険度C、[ナラシンハ]。…気をつけて」
「ナラシンハ」。
エルカがそう呼んだ生命体は、既にこちらを捉えたようだ。距離にしてまだ100メートルはある。
まだ、少しの余裕があるはずだ。その間にできるだけ情報をもらおう。
「危険度Cって、どのくらい?
下から2番目なら、たいしたことなかったりする?」
エルカは前を見据えたまま、
「危険度のレベル分け、ルールが、ある。
最低層D、戦士、一対一で、勝つ。
2段目C、1人では厳しい。2人、3人で、隙作る。
3段目B、最低、5人必要。大型多い…
4段目A、災害級。師団、出向くこと、ある。
そのトップ…S。災厄級、そう、呼ばれる。
軍、壊滅したこと、ある。」
この世界にはほんとに恐ろしいモンスターがいたもんだ……だが、Cなら、アポカリプスがどの程度の性能かによっては、オレでも狩れるのかもしれない。
「Cくらい、狩れなきゃ困る…王族、Aでも、1人で倒す場合、あるから…」
つまり、ナラシンハとやらも倒せなかったら、未来はないと。
「そういう、こと…あえて、なにも…言わない、から。がんばって…」
喋っているうちに、ナラシンハとの距離は50メートルを切っている。オレも剣を抜かなければ。
柄を握り、一気に引き抜く。重くて抜剣できなかったりしたらダサすぎて自殺もんだな…などと考えていたが、杞憂だったようだ。
シャキーン、とまではいかないもの、美しい金属の擦れる音を出しながら、剣は抜けた。
「これがオレの剣かあ…やっぱ何度見てもかっこいい…」
残念ながら、今は夜(目が覚めた時点で夕方だった)
なので、太陽に当てて使う力、というのは行使できないようだが、まあそれは後のお楽しみにしよう。
「よっし、いつでもオッケーだ!」
「ソースケ、ソースケ」
「ん、どうしたの?」
「構え、それなに…」
「えっ、こんな感じじゃないの?」
オレは、両手に剣を持って正面に出す、ゲームとかで良くある構え。なのだが……
「こう構えたほうが、いい」
と、オレの腕をぐねぐねっと変えた。
そして出来上がったら姿勢は、体全体を前に倒し、
剣を両手で持ち、体の右横で構える姿勢だ。
「え、でもこれって左からこられたらどうするの?」
「それ、すぐ作れる構え。敵見てから、ソースケなら作れる。」
「そ、そうなの…?まあ、とりあえず、あいつを倒してみるよ」
ナラシンハは既に30メートル切った。
と、そこで、ナラシンハは急にこちらを睨みつけ…
走り出した。
「なっ、はやっ……!?」
とんでもないダッシュ。急にするあたり心臓に悪い。その脚力は、30メートルなど無に等しかった。
「ガァァア!」
一瞬で距離を詰められる。目の前には、凶悪な牙の並んだ口が奏介の首を捉える。
ーーだが、聖剣の性能は、そんなバケモノは取るに足らないようだ。
ーーーザン、と。
ナラシンハの胴体はーー
「えっ…」
エルカの口から漏れるのは、驚きの一言。
ーーオレが突き出した突きにより、縦に分断されていた。
「…へ……?」
自分でしたことなのに、理解できないことが多すぎる。
なんで突きで綺麗に分断されたんだとか、反射神経死ぬほど上がってるとか、そんなことで頭が混乱していた。
「……突きって、半分に切るモノだっけ……?」
「それ、聖剣。悪しきを善から、分断するの、自明の理。恐らく、どの世界も…」
少なくともウチの世界は違いましたがおかしいのどっちなんですかね。
聖剣ってどこの世界にもあるモノなんですかね。
「でも、おめでと。これで、半月は、だいじょぶ。
ご飯、食べれる。」
と、エルカはナラシンハの体につく結晶石をもぎもぎしながら言ってきた。
装備代のつもりが食事代へとチェンジされたのはまあこの際放っておこう。
「これで半月……やっぱり強くなったんだなあ……」
「…自惚れないで。これから、戦うの、コイツの、何倍も強い…」
「それもそうだよね……なんかボク、不安になってきたよ……」
「オレ。そんなこと、ないでしょ?
初めて、勝ったんだから、高揚感、あるはず。
今日は、帰ろっか。」
しまった、また口から「ボク」が。慣れないものだな…
「そうしよう、初めてのことだし、剣の手入れもしたいし……」
手入れの仕方なんて知らないけど、などと考えつつ言ったと同時に、気付いた。剣には、まったく返り血の類が付いていない。
はて、これは一体どうしたことだと考えるが、よくわからない。
エルカはそれを見て、
「分断、したのに、聖剣に、血がついたら、
おかしいでしょ?」
「あ、そっか。分断されたのか。」
聖なる剣と、悪い血だから分かれたのか。
どうやらこの剣は、物を斬る、というより聖剣が無理矢理剣の通り道を無理矢理こじ開けているような……斬る対象には全く触れていないようだ。
初戦は、全く手応えが無く終わった。
ハッキリ言って、浮かれていた。チートのような剣を手に入れ、主人公気分だった。
…だからこそ、次の強大な敵が現れたら、慢心してしまう。
ーーーー
エルカは、奏介の様子を見て、考える。
たしかに、強い。だがそれと同時に、圧倒的に技量不足。
(わたしが、ついてなきゃ…それが…)
エルカは思い出す。今自分がここにいる理由を。
(わたしの、誓約、なのだから…)
星空の下、荒れた地にて初勝利を収めた出来立てのコンビは、これからの経験を通して、大きくその有り様を変える。
しかし、それは、誰にも、人間には予測できなかった。……"人間"には。
「ところで、ソースケ。おなか、すいた。
早く換金して、ごはん、食べよ」
「ああ。換金はギルドでするの?」
「入ってない、から、門前払いか…スカウトされる。
でも、商人ギルド、入るの、まだダメ…」
「てことは、換金所があるのか。……ここのご飯、期待していいのかな……」
「……?、ヒトが食べるもの、って、そんなに
変化、するのかな…」
「いや、あるあるというか、グロテスクなゲテモノ料理が出てきたら嫌だなーって……」
「だいじょぶ、わたしに、任せて…」
と、謎の安心感を出してくれるエルカ。
その後2人で宿に着いた後、エルカが出したとても美味しそうな料理は。
ーー全くの無味だった。
美味しいと言いながら全て食べた点は評価して欲しい。
…というか、異世界なのにパンとか米とかは同じって…あれか、現代チートでもして農具を作れってこと…そもそも農具なんて良く知りませんでした。
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