第4話 エルカの腕
そうこうしているうちに、外壁までやってきた。
簡単に言ったが、相当の距離があった。それでもあまり疲れていないあたり、やはり身体は強化されているみたいだ。……エルカに関してはよく分からないが。
「えっと、門から出たらダメじゃないの?」
「ダメ。だから、壁、越える」
「いや、とは言ってもさ…」
オレ(道中何度も「ボク」と言いかけては怒られ、やっと染み付いた)は壁を見上げながら言う。
「これ、20メートルはあるんじゃない?」
「正確には、21.3…アズルっていう、建築家が、
昔1人で作った…らしい…」
「こんなの1人でって…あ、そっか。魔法か!」
「そう。彼は、石材、操った。それに、
奔流も、凄まじかった、らしい…」
さすが魔法というべきか。ここまできたら、無敵に思えてくる。まあ、そんな国に喧嘩を売るのだが。
……急にビビってきたけど、剣貰ったのに今更後には引けない……
「それで、これ、どう越えるの?20…何メートルもあるんでしょ?」
「21.3。これ、使う」
そういうと、エルカは腕を上に向けた。
と、腕のパイプの一本が輝きだし、ドンッという音とともに、手袋が上へヒューーン……と飛んでいき……ガシッ!と外壁のてっぺんにつかまった。
「……へ?、ええっ!?その腕何かあるんだろうなとは思ってたけど、って、その手……」
「別に。気にしなくていい。昔、無くした…」
エルカの腕は、手首から先が……無かった。
恐らく、手袋の中は機械仕掛けだったのだろう。
あくまで手袋は、それを隠すため。
「つかまって。登る」
腕のことは気になるが、エルカが言わない以上詮索するような真似はしないべきだろう。
「あ、ああ。これ、ビュンって戻るの?」
少しのもどかしさを抑えつつ尋ねる。
「そう、ビュン、てもどる…」
その言葉の通り、すごい勢いで戻った。
奏介とエルカの体はすぐに壁につかまっている手袋のところへ引き上がる。腕とか、負担大丈夫だろうか?
「なあ、これ丸見えじゃないか?大丈夫なの?」
「大丈夫。心配ない」
「なんでなんだ?壁越えるなんて、思いつきそうなもんだけど…」
「そこまでして、わざわざ危険な外、普通行かない。それに、この壁…認識妨害魔法、ある。壁は、大きすぎるから、隠しきれない。でも、壁と接触してて、小さい私たち、気づかない…」
認識妨害魔法は、外敵からこの国の存在を分かりにくくするためらしい。
なんか注意して見たらオレたちも見えるような気もするが、まあいい。ピンポイントで見られる確率なんて、考慮に入れるまでもないだろう、多分。
降りる工程も同様に腕を使った。
外は、見渡す限りの草原…を想像していたが、わりと酷かった。
「そういえば、言ってたな。元は荒れた土地だった、って。」
「魔法、使えば、すぐに緑になる…でも、壁、動かせない。だから、領地、広げない」
外に緑が広がっても、防壁がない以上そこに建物を置くのは危険でしかないのだろう。一面に広がる荒地を見ながら、他の手段の可能性を考える。
「魔法で動かせたりしないものなの?なんかこう、
壁が伸びたり!」
「できなくはない。けど、そのレベルの人、たくさん集めて、壁、全部伸ばすの、非、現実的…」
「うーん……じゃあ、結晶石を使うのは?伸ばす魔法を刻んで……」
「伸ばす、意外にも、厚くしたり、するし、そもそも、そんなに刻むの、非、現実的…」
ダメだ、上手くいきそうにない。
「うむむ……案外魔法ってそこまで万能じゃないもんだな……」
「なんでも、実際、そんなもの。というか、ソースケの場合、夢、見過ぎ…」
仕方もあるまい、アニメでしか魔法なんて見たことないし、アニメのキャラは魔法でなんでもこなしてしまうし……
まあ所詮現実はこんなもんだと思い直し、前を見据える。と、そこには…
「もしかしてあれって…害獣?」
「そう。……これから、ソースケが狩る相手、でもある」
地球の動物の特徴で、例えるならば。
ライオンに、サイのツノが付いていて。
さらに尻尾をワニレベルのサイズ、しかも何倍も尖らせたようなモノが付いていた。
「危険レベル、5段階中、2段目。
危険度C、[ナラシンハ]。…気をつけて」
気をつけて、っていきなり言われても……
戦闘経験ゼロですよ?
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