第2話 魔法の国
気が付いたら、まあお約束、美少女がいた。
……いや、可愛い。いくつくらいだろうか、
背は145くらい、金髪碧眼、一目でわかった。
……神だ。
身に纏う純白の衣、頭につけた赤い花飾り、
金の腕輪、手にした杖。
どこからみても、女神だ。
「えっと……だいじょうぶ?」
と、そこでやっと頭が回り出した。
周りの確認。なんか暗い。闇っぽい。
服は着てる。まあ裸でお話は勘弁だ。
女神様は椅子に座ってこちらを見て微笑んでいる。
てかあのメールをこの子が…?
「混乱しちゃってるところ、申し訳ないんだけど……
あなたが第一の信徒さんで、まちがいないかなっ?
もし間違えてたら……」
「あっ、いや、ボクです、合ってます!
やっぱり、あのメールは、その、貴方が…?」
女神様はにこっと可愛く微笑み、
「はいっ!はじめてお手紙書いたので、変なところとかなかった?急にワープさせちゃってごめんなさいっ!」
やたら腰の低い女神様だな…と思いつつ、メールの態度と全然違った理由に合点がいった。初めて書く手紙だから、丁寧に書こうとしたんだろう。
……その結果があのアホメールなのか……
「えっと……これからボクは、異世界に行くんですか?」
「そうだよ?」
「元の世界には……」
「あっ、だいじょうぶっ!帰る事はできるよ!
ただ、異世界のことは話さないって約束してもらわなきゃだけど……」
その程度のことで帰れるなら、まあ問題ないだろう。
だけど、だ。
急に転移決定したけど、まだお約束のイベントが起きてないじゃないか。
問題は、異世界転移あるある、"チート能力があるか"どうか、だ!
それに関して、切り出したのは女神様だった。
「これからあなたに向かってもらうのは、
「スランタル」と呼ばれる、まほうの国だよっ!
あっ、もちろんお金とか必要なものはあげますよっ」
「おおっ!」
必要なものは貰える上、行くのは魔法の世界……!?
これが夢にまでみた異世界転移……!なんて素晴らしいっ!
「じゃあっ、使いたい武器の種類を選んでねっ」
女神様がそういい小さい手をえいっと振ると、ボクの目の前にホロウィンドウ的なのが出てきた。
そこには、剣、槍、弓といったファンタジーでよく見るものから、拳銃、ランチャー、手裏剣といったものまで選り取り見取りというやつだった。
剣のカテゴリを押してみると、そこから短剣や長剣、両刃、片刃、武器の素材まで多岐に分かれていた。
ゲームなどでも使いにくい武器を避け、扱いやすいし性能もいいから、と常に剣ばかり選んでいるボクは、ここでもやっぱり剣に興味を持ってしまう。
「おっ…」
その中でも、目を引かれた名前があった。
「聖剣……アポカリプス……」
「おおっ!すごくいいのに目をつけたねっ!
君にぴったりだと思うよっ!それにする?」
名前だけで決めちゃうのはさすがにどうなんだとも思ったが、無邪気な女神様が後押ししてくれたのもあり、決意は固まった。
「はい、これにします!」
「うんうん、それじゃあかるーく説明するねっ!
その剣には特殊な能力が備わってるの。万物を照らす光、[明けの明星]。その力を使えば……」
ボクはごくりと唾を飲む。
「暗い道を照らしたり、悲しんでる人を元気にしたりできるよっ」
「えっ」
「ふぇ?」
「え、あの、他に、悪を払うとか、敵を焼き尽くすーとか、そういう力は……」
女神様はきょとんとしたあと、
「そんな危ない力、聖なる剣についてたら怖いよ……?」と、少し小さい声で言った後、
「そんな力がなくっても、アポカリプスは神器だから、危ない人に襲われてもだいじょうぶだと思うけど……」
と言ってくれた。まあ、たしかにおまけで能力がついてきた時点で儲け物、ありがたく頂戴しよう。
「じゃあ、現物をよびだすねっ、えいっ」
今度は手のひらを胸の前に突き出した。
するとそこに光がパッと集まり、すぐにそれは形となって現れた。
「すごい……」
そんな呟きが溢れるほど、それは神々しかった。
純白の刀身に青いラインが2本、鍔は派手な装飾があるわけでもなく、金色に縁取られていた。
柄も白に青いライン。一見すればシンプル、だが、
それ故に伝わってくる力強さ。
女神はそれを手に取り、
「この剣はね、人の気持ちをうつしだすのっ」
そう言い、刀身を斜めにしたら、純白の表面がまるで鏡のようになった。青いラインは少し光って見える。
「 太陽に当てた時間だけしかつかえないけど、
これを使えば嘘ついてるひとや、なにか隠してるのがわかるの!」
自慢するように、胸を張って答える女神様。
かわいい。ただ、その能力をさっき教えて欲しかったです。あるやん、チート能力あるやん。
「他にもあなたへのプレゼントがあるのっ」
なんだろう。お金とかかな?
「それもあるんだけどー」
心を読まれてた。さっきまでのもまさか…
「あげるのはね、少しのお金と、この聖剣、そして、仲間だよっ」
「仲間、ですか?」
女神は再びニッコリ微笑み、
「うんっ!かってに選んじゃったけど、気に入ってくれるとうれしいな!」
なんだろう、エルフとかドワーフとかいるんだろうか。でも異世界に放り出されて知らない人と冒険するよりかは某転生話みたいに貴方を仲間にしたいです…
「それはだーめっ」
心を読まれるとやりづらい…
「その子にも神の啓示を与えただけだけど、あなたがこれから行くスランタルのひとだから、きっとやくにたってくれるよっ!」
神の啓示がどんなものとか内容がよく分からないけど、たしかに、その世界の常識を知るのは大事だ。
ほんとうにありがたい。
「えっへへー」
「それで、ボクはいつからそこへ?」
「できれば、もう現地入りしてもらいたいんだけど、その前に、やくそくしたこと、おぼえてる?」
おっと、忘れていた。そうだ、2つの誓約。
「あなたはここでのお話、それ自体は神の啓示として残るの。でも、私のことはなにも覚えてない。
そうなるの。そしてもう一つ」
もう一つは恐らく、書かれていた順番としては一つ目、世界を統治する、というやつだろう。
「そうそれっ!かならず、その世界を統治してね?」
「あの、それはなぜなんですか?国が何かピンチだったり、王が乱心…とか?」
当然気になる。もし行った先が内戦真っ只中の世紀末状態だったら笑えない。おそらく漏らす。
女神様は困り顔になり、
「現地を見てないからなんともいえないんだけど、
それが第一使徒の資格だから…たぶん、そうせざるをえないように、世界が動くの」
よく理解できないけど、運命の強制力みたいなものだろうか?……あれ、それ以前に神様現地見てないの?
「うん、悩んでもしかたないっ!行ってみればわかるよ!」
「えっちょ、待ってください!元の世界へはどうやって戻れば!?」
女神は両手を振り上げながら、
「もどれーって祈ったら戻れるよっ!でも、気をつけてねっ、お祈りしたら、その世界から存在が消えちゃうわけだから、さとられちゃだめだよっ」
そして手を振りかざすと…
「うっ、うわぁぁああ!?」
なんか色々と説明して欲しい事をすっ飛ばされた気がする。これはパワハラじゃないだろうか。
ボクは女神様の手から発せられた光の本流に飲まれ、本日2度目のブラックアウトを果たした。
ーーーーー
またまた目が覚めると、目の前にいたのは美少女だった。こういうことに恵まれると、ほんとにラノベ主人公みたいな気分になる……
どうやらベッドに寝かされているらしい。今いる部屋は壁や床が木で作られており、たしかにどことなく異世界の建物っぽい。
「……ん、待ってた。起きるの遅い」
声にあまり抑揚のないこの女の子。
赤髪でショートの癖っ毛に金色の眼、赤い服にジーンズみたいなズボン、恐らく皮のブーツと手袋、何より目を引くのが……
「そんなに、これ…珍しい…?」
そう、腕に筒がいっぱいついている。なんといえばいいか、手袋の中から肘から先の腕を覆うように、親指一本分くらいの太さの筒が出ているのだ。
「これが…私の、道具。…その神器ほど、強くは…ない」
彼女の視線の先、背中を意識したら、たしかに聖剣を背負っていた。いつの間に。それとついでに黒いケープのようなものも羽織っていた。
と、ベッドで寝ているボクをかがんで見ていた彼女はおもむろに立ち上がり、
「…私は…エルカ。エルカ・M・エンジュ。
…エルカ、って…よんで…」
「分かった、エルカ。ボクは紺濃。
「コンノ…コンノ・ソースケ。合ってる?」
首を傾げて聞いてきた。発音も正しく、文句を言う点はない。
「合ってはいるけど、なんというか、異世界の名前だから違和感とかそういうのは……」
「別に…違う世界の、ヒトなの…知ってる。
ソースケの…名前、分かれば…それでいい」
ふむ、割と異世界人ってよくあるのだろうか。普通こんなにすんなり受け入れられるものなのか……?
まあ、よくはわかんないけど言語も通じてるから、
意思疎通する条件は整っている。
「さっそく、この世界について…知ってもらう」
そういい、エルカはボクの手を引き立ち上がらせ、
木製のテーブルに広げてある地図を指さした。
四角い地図の中心には、巨大な国の形が描かれている。五角形。一言で言うならそんな形だ。
そのさらに中心のやや後ろに三角形、城のようなものが書き込まれている。
「この世界の国は…3つ、だけ。その国のうち一つ…この「スランタル」。魔法技術の…最先端にして、最大の軍事国家。もともとは…他の2つの国、この国から北西に位置する、「リヴァージ」と…南東に位置する、「スロプメス」からの…移民が逃げた先の荒れ地を、開拓した。
魔法も、物資…手に、入らなかったから、起死回生の為、研究が重ねられた…本当なら、滅んでいてもおかしくなかった。
…ふう。疲れた」
一気に喋りすぎたみたいだ。つまり、要約すると。
国が3つあって、そのうち今いるスランタルが魔法の力で俺TUEEEEしていると。
一昔前までは使えなかったのに、物資が欲しいから研究したら魔法使えましたーとか、それこそチートだろう。よくそんな都合よく魔法が発現したものだ。
「都合良く、とはいかなかった」
エルカはどこか暗い調子で、
「魔法…体系は、何世紀も前に…仕上がっていた。それを、昇華させた。でも…進めるのには、すごい時間がかかる。そして、食糧もなにも足りない、この国には…」
そんな猶予は、残されていなかったのだ。
「そこで…思いつくのは、危険な、方法だった…
生贄、使って、進展させようとした人も…いる。
そもそも、魔法は、明確に説明できるモノじゃ、ない。カラダに宿る本流…引き出し、操る。
そして、一度使い方が染み付いたら、基本は…祖先まで薄れることなく、魔法を行使できる。…ふぅ」
そして、魔法発現に最も適した行為が、様々な刺激を与えること。従って、強い魔法を得るためには…
「強い刺激…拷問、とか」
と、そこで区切り、
「ただ、強い魔法を手に入れたヒトは、もちろん黙ってなかった。
反抗対策も、してた。でも、それが機能しないほど、目醒めた本流は強く、大きかった」
「そいつらはそのあと……?」
「この国の王に、なった。だから、この国の統治、保たれている。この国の威厳、存亡は、魔法に懸かっている。魔法が、強ければ、発言権も…強い。
逆に、弱ければ、ヒトとしての威厳も、危ぶまれる。
だから、鍛える。そうして、強いヒトを選別する。
そこで選ばれたヒトは、王族へ入る。…はふぅ」
そうして、強い遺伝子と共に魔法が受け継がれ、時代を追うごとに強くなっていく。
「ただ、問題が起きた」
「問題って?」
エルカは間髪入れずに答えた。
「魔法が、進展しなくなった。」
そのままエルカは続ける。
「魔法が進展しないということは、強く…ならない。
それが続くと、他国に追いつかれる危険性…ある」
「でも、他の国より今は十分強いんじゃ?」
「強い。でも、見立てでは、7年。
7年で、他国に追いつかれるか、国民の、中の…反乱分子、蜂起する。その見立てが出されたのが、もう、4年前。
この国が、壊れるのは…もう、近いの。それに、魔法の進化…不規則。反乱分子が覚醒、強力な魔法を手に入れる可能性、ある。…はぁ…」
「なるほど…じゃあ、反乱分子を倒せば一旦治るんじゃ?」
エルカはふるふると首を振り、
「反乱分子、倒せたとして…他国は倒せない。
どのみち…ソースケの存在が公になるし、
ソースケが倒すべきは、王。神様と約束、した」
そうだ、神様との約束、統治。
それには、反乱分子ではなく、政府を打倒し、国を乗っ取らねばならない。
「やる事は、多い。今の王はとても強い。
その力で、国民を押さえつけてる。もし…王が、他の誰かに倒されて、それが周知されたら、国民は一種のパニック状態、なる。だから、先に倒す」
ボクは大きく頷いた。
「よし。…作戦って、あったりする?」
「……へっぽこ…」
情けないけど、ついさっきまでただの学生ということを忘れてはならない。妙案がすぐ閃くようなら軍師でも目指しているところだ。
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