子供たち

 春休み最終日の日曜、僕は去年まで同じクラスだった健一くんから呼び出された。場所は学校の裏にある溜め池。お昼を急いで食べて家を出てきたのに、まだ健一くんは来ていなかった。


「おい」


 溜め池の柵に寄りかかってかかとで土を掘り返していた僕は、その突然の声に驚いてハッとして顔を上げた。


「健一……くん?」


「どうしたんだよ。そんなに驚いた顔して」


 健一くんの周りには見慣れない顔が並んでいた。


「その人たち、誰?」


「誰だっていいだろ。なぁ?」


 何だか急にのどが渇いてきた。それに嫌な予感もする。すぐにでもここから逃げ出したい。


「それよりお前さぁ」


 そう言って健一くんは僕の首を腕で押さえつけてきた。身体が押されて後ろの柵に当たる。


「やめ……」


「うざいんだよっ」


 腕がはなされた反動で思いっきり空気を吸い込んでしまい、僕は苦しいほどに咳きこんだ。


「健一、やっちゃうの? これ」


「バーカ。そんなことしたら後でめんどーじゃん」


「じゃあどうすんだよ」


「決まってんだろ。自分で死んでもらうんだよ。この池で溺れてさ」


 耳の辺りがじんじんしてきた。何で僕がこんな目にあわなきゃならないんだ。前はあんなに仲良くしてたのに。


「お前、死ねよ」


 嫌だ。


「死ねっ」


 死にたくない!


「シーネッ! シーネッ! シーネッ! シーネッ!」


 全員が叫び出したとき、彼らの背後を通り過ぎようとするカップルが見えた。これだけ騒いでいるんだ、きっとあの人たちが助けてくれる。願いを込めて二人を視線で追っていると、男の人のほうと目が合った。それなのに、彼らは僕を無視して歩き去ってしまった。

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観点格差 混沌加速装置 @Chaos-Accelerator

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