「ひこうき」
愛犬シェトのために、ぼくはフリスビーを投げる。安っぽい蛍光色で、緑色の円盤。力いっぱい投げると高くまで飛んでいく。伸び切ったフリスビーの軌道、その向こうで飛行機が飛んでいた。プロペラが頭についた、トラクタータイプのレシプロ機。翼を振って、何かを合図。ロールして背面飛行。そのまま逆さに旋回。インメルマンターン。空はいつもより青かった。
シェトがフリスビーを咥えて戻ってきた。ぼくは飛行機を見るのに夢中で、しばらくそれに気が付けなかった。シェトのすねた顔をみて申し訳なく思う。こんなに性格のいい犬は他にいないのに。ぼくはそれからも時々、飛行機の方に意識を持っていかれた。
ぼくの父親は飛行機乗りだった。墓には『パイロットここに眠る』と刻まれている。葬式には上司が来ていた、彼はパイロットではなかったけれど。
飛行機が楽しく旋回するたび、それを見るぼくの心は地上を離れていく。母は反対するだろうが、一六歳になったら空軍のテストを受けるつもりだ。
空を飛ぶことにくらべたら。地上のどんな出来事もそれほど関心を引かない。周りの大人は止めるだろうけど。ぼくの足はもう、ずっとまえから地面を離れて浮いている。あとはプロペラさえあればどこへだって飛んでいけそうだった。
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