第8話
痛む足を引きずりながら移動する。ただでさえ機動力ではタコには勝てないというのに、足を痛めるなんて最悪だ。幸い骨までダメージは無さそうだ。固定してしまえば多少はマシになるだろう。
……固定するヒマがあればだが。
急速に近付いて来るタコの音。逃げる暇があるかどうか……
とにかく考えるのは後回しだ。痛みは我慢している内にアドレナリンでごまかせる。
タコが通れない様な家と家の間の生垣をくぐり抜け、どうにかタコの駆動音から距離を取る事が出来た。
潰れた家のガレージに身を隠し、ガムテープで膝周りを締め付ける様に固定する。多少可動域が制限されたが、動き自体はだいぶ楽になった。
さて。これからはかなり面倒臭い事になるだろう。残ったタコだけでなく、最初に擱座したタコのパイロットも俺の捜索に加わって来る筈だ。そして俺がタコに対抗出来る武器を持っている事もバレた。
どんどん不利になって来ている訳だが、それでもタコ三機をまともに相手するより遥かにマシだと思おう。
そんな甘い考えの俺に冷水を浴びせるかの様にすぐ隣の家に銃弾が撃ち込まれる。時間を稼げたのもほんのわずかだったらしい。
距離をとっての銃撃だった為、相手に目視されてはいない様子だ。銃撃の方向から相手の位置を想定し、擱座したタコの位置も考えて移動して行く。おそらくまだ擱座したパイロットはこちら方面には到着していない。しかし……放置しておけば挟み撃ちにあう可能性が高い。
重い銃声が響いている内になりふり構わず足を引きずりながら走る。射撃中ならセンサーも自機の音や銃から出る熱でほとんど役に立たない。動くなら今しかない。
位置的にパイロットがいる方に追い込もうという意図が見えた為、多少距離をとってから大回りしてタコのいる方に戻る。
物陰から銃声のする方を見てみると、一歩ずつ移動しながら射撃中のタコが目視出来た。先程俺がいた辺りを集中的に狙っている……が。
若干狙点が高い。どうやら俺を殺すつもりは無いらしい。だからと言って安心出来る筈も無い。捕まれば拷問で情報を吐かされた挙句なぶり者にされるだけだ。
銃撃が止んだのを機に再び移動を始める。射撃を止めたからと言ってすぐにセンサーが使える訳では無い。が、その猶予もそう長くは無いはずだ。
しばらく移動を続けて、文字通り潰れたコンビニの裏手で休息を取る。
タコを二機潰した事で、足止めには成功したと言っていい。残りの敵もムキになって俺を追って来ている。おかげで俺がヤバいんだが。
カラッ。
少し離れた辺りで石か何かが転がる音。このコンビニ表側の方向だ。すぐに想定していた逃走経路へ息を殺して進みながら耳を澄ます。タコの駆動音が遠くに聞こえる中、わずかに靴底で砂がこすれる音。パイロットがやって来た様だ。それもただのパイロットではなく、レンジャークラスの動きだ。今の俺ではまともに相手をするにはちと厳しい……か?
コンビニ裏手の駐車場を内心焦りながら突っ切り、かろうじて形を保っているアパートの階段を匍匐前進で登る。古い鉄板の階段を登る音が気になったが、タコの駆動音で誤魔化せた……筈だ。
安アパートの二階廊下からコンビニを覗く。
やはりパイロットに追われていた様だ。耐圧服姿の男がゆっくりと陰に身を隠しながら進んでいる。が、まさか俺が逃げ場の無いこんな所に隠れているとは思っていない様子で、高所を全く警戒していない。
ありがたくいただこう。
そう思って銃を向けた時、アパートの壁やベニヤ製のドアが激しく砕け散る。クソ!センサーがもう使える様になったのか!パイロットは囮だったのか?!
建物が砕ける中を必死に這いずり廊下の奥へ。行き止まりの廊下の手すりを掴んで飛び降りる。隣の家の境のブロック塀をまともな方の足で蹴り、庭に転がり込む。痛む足の事なぞ考えている余裕は無い。家の隙間を通って逃げ回る。
固定した膝の痛みが酷くなってきた。このままでは間違いなく詰む。
さっきまで遠くに聞こえていたタコの駆動音だったが、ローラーの音と共に急速に近付いて来た。
背後からパイロットが撃ち込んで来る銃弾から逃げ回っているうちに、開けた場所に出てしまった。目だけで逃げ場を探すが、行動に移る前に轟音と共にタコが目の前に現れた。
チェック……か。
それでもタコに銃を向けるが、
「その妙な銃を捨てろ」
背後からパイロットが声を掛けて来る。
無言でゆっくりと拳銃を地面に置き、両手を上げて後ろに下がる。
テープを巻いた足に衝撃と同時に激しい痛みが走り、立っていられず地面に転がる。
「俺のタコを潰してくれやがって。下手すりゃ降格されちまうじゃねぇか!」
転がった俺にパイロットの蹴りが容赦なく降ってくる。急所はカバーしているが、それに気付いた奴は膝周りを蹴りやがった。
『止めろ。殺しちゃ降格じゃ済まんぞ』
タコから声を掛けられて渋々という感じで蹴るのを止めるパイロット。
急所はカバーしたとはいえ、あばら骨辺りヒビでも入ったか、激痛が走って呼吸が苦しい。足に至っては痛みを通り越して熱い。
「お前には色々と唄って貰わないとな」
ハッチの開く音がして、中から男がそう声を掛けながら顔を出す。
今だ。あれならタコはすぐには動かせない。
のたうち回りながら左手袖口のナイフを掴む。
ボシュッ!
タコの開いたハッチが吹き飛び、中の男ごと炎に包まれる。
予想外の出来事にパイロットは棒立ちになっていた。俺も驚いたが、元々殺るつもりだった為突然の事からも立ち直るのも俺の方が早かった。
身体中の激痛を息を詰めてごまかし、パイロットの方へ転がり、飛び上がる様に立ち上がって喉元にナイフを振るう。
銃でカバーしようとしたパイロットだったが、突然タコがやられた衝撃からはまだ立ち直れていなかったらしい。わずかな差だったが、俺の方が早かった。ナイフを振り切り、再び転がって距離を取る。
「あ…あぁ」
声にならない声を上げ、噴水の様に血を吹き出し倒れ込むパイロット。
『何勝手に殺されそうになってるんだ!訓練を一からやり直すか!?』
離れた所から響くスピーカー越しの声。
……助けてもらったのはありがたいんだが。
そりゃないよ沢田さん。
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