第7話

ズンッ。


タコの重い足音が近付いて来る。潜入偵察の時にも生身でタコを相手にしたが、あの時とは状況も装備も違う。かなり厳しい状況下でどうやって生き残るか……


大体いくら威力があるとはいえ所詮拳銃。遠距離からの狙撃では多少ダメージを与える事が出来る程度だろう。足止め出来るくらいの損傷を与える為にはある程度肉薄する必要がある。しかし鎧代わりの耐圧服もウインチ等の特殊装備も無い以上「知恵と勇気」なんてに頼らざるを得ない。


とりあえずスモークとチャフが効いている内に物陰を選び、近くのタコに狙いを定めて移動する。今の所は俺を見付けた訳では無さそうで、足音を響かせながら哨戒行動をとるタコ。そいつの進行ルートを予想して先回りし、家と瓦礫の間に身を隠す。ここならまだセンサーが阻害されているだろう。念の為アルミシートで身体を覆い、タコを待つ。


重い足音が近付いて来た。

パッと見普通に歩いているタコだが、良く見ると全身のカメラとセンサーがタコ周辺を全てカバーする様に動いているのが判る。訓練生を支援する教官レベルという所か。

だが、スモークとチャフが撒き散らされた中で隠れた人ひとりを発見するのはかなり厳しいだろう。俺が隠れている辺りは完全にセンサーが死んでいる筈だ。


そう思っていた俺だったが、敵は想像以上にシビアだった。


センサーが効かないと見るや、人が隠れそうな場所を銃撃し始めた。細かく指切りしながら人が居そうな所に二〜三発ずつ弾を撃ち込みながら進んで来る。


このままでは間違いなく撃たれる。あわてながらも慎重に移動する。


こちらに進んで来るタコを迂回する形で後ろに回り込む。他のタコの足音も近くでする為余り大きくは迂回出来ない。瓦礫の隙間を這いずって通り抜け、ブロック塀を遮蔽物として使いながらタコに近付いて行く。

これでセンサーが生きてたら……と考えると嫌な汗が出てくる。幸いまだセンサーは死んでいる様で、目標のタコはカメラ主体の動きをとりながら進んでいる。が、そろそろセンサーも生き返る頃だ。のんびりしている暇はない。


ある程度距離を詰めた所で、タコの背後へ走り出す。音響センサーに捕まった様で、こちらに振り向こうとするタコ。だが、この距離なら俺の方が早い!


何十メートルかの距離でブロック塀の角を遮蔽物として使ってニーリング。例によって腰の駆動液タンクを狙い四発撃ち込む。何発かはタンクを貫通した様で、タコの動きが若干鈍くなった。だが、完全に動きが止まるまで多少時間が掛かる。撃ち終えてすぐに路地裏を全力で走る。背後ではCAL.50の腹に響く銃声が響いているが、俺の方には弾が飛んではいない様子。


おそらく擱座したタコの所に他のタコも集まって来るだろう。タコに追われれば生身の人間などひとたまりもない。とにかく後先考えずに走って逃げる。……一応伊藤達が撤退した方とは別方向に走るくらいの考えはあるが。


ここから先はセンサーも生き返った本気のタコを相手にしなければいけない。足止めだけなら逃げ回って時々弾を撃ち込んでやればいいだろうが……相手を本気にさせてしまうとこっちの命が危ない。さてどうするか。


タコの駆動音が遠くに聞こえるくらいの所まで離れた所でひと息つく。中々上がった息が落ち着かない。意識してゆっくり大きく呼吸して呼吸を落ち着かせる。


しばらくすると、身体に取られていた酸素が脳に回り出した様で、物事を考える余裕が出てきた。


とにかく今の俺のやることは、伊藤達が逃げる時間を稼ぐ事だ。その為にはタコを引っ掻き回す必要がある。しかし、機動性で生身の俺がタコには勝てるはずも無い。

となると……


手持ちの武装は例の拳銃とC4が二つ……か。


擱座したタコのいる辺りを大きく迂回して他のタコに接近する。


遠目にしゃがみ込んで動かないタコが見えた。やはり残ったタコがハッチをこじ開けているのが確認出来る。……一機?


ドンッ!

銃声と共に俺の隠れている場所の頭上の壁に大穴が開き、壁の欠片と埃が舞う。そのままの体勢からタコの射線に直交する様にダッシュ。もう一機が哨戒していた様だ。この距離で狙って来るという事はセンサーが復活した証拠だ。ローラーの駆動音がしないという事は不意打ちを警戒して距離をとってくるつもりか?それならこっちとしても都合がいい。


虎の子のC4の一つを崩れかけの家の外壁と瓦礫の間に仕掛ける。遠くに聞こえる歩行音からすると、今はアクティブセンサーの有効範囲外の筈だ。再びアルミシートを身体に巻き付け、C4を仕掛けた辺りを見通せる場所を探す。少し離れた所にある半壊した平屋が都合良さそうだ。屋根に登り、傾いたソーラーパネルの陰に身体をねじ込んで様子を伺っていると、足音と共にタコが近付いて来るのが見えた。


さっきのタコとは違い、全周をカメラに収める様な動きはしていない。パッと見自然に歩いている様に見えるが、全身のセンサーが音や熱、金属反応等を拾っている筈だ。


歩くタコが仕掛けをした辺りに差し掛かった。スイッチを押す。


ドンッ!


C4が起爆。瓦礫が吹き飛び、もうもうと埃が舞う。……が、タコはダメージを負う前に緊急回避で後ろに下がってほぼ無傷。


。ならこの後は……


埃まみれのタコが周囲を警戒して動きが止まる。こちらからはタコの左半身が見える。


フルオートで銃を撃つ。ソーラーパネルの基礎に銃身を載せ、上から左手で銃を押さえ込んで反動を殺す。


完全に反動を殺せない為弾が多少バラついているが、ほぼ全てタコのハッチ付近に着弾している。


ひと弾倉を撃ち尽くした時にはタコの動きは止まっていた。ハッチを貫通した弾にパイロットがやられたのだろう。中途半端な姿勢のまま固まったタコを見ながら弾倉を交換。

残ったタコの動く音はしない。パネルから這い出して周辺警戒していた時。今まで隠れていたパネル周辺が吹き飛ぶ。CAL.50の音はわずかに遅れて聞こえた。転がる様に屋根から落ちる。


落ちる瞬間雨樋を掴んで姿勢を整えた為、下の瓦礫に身体を打ち付ける事は避けられたが、不安定な場所に落ちたせいで右膝を強打した。


ヤバい。これではまともに動けない。まだ距離はありそうだが……残ったタコが近付く音が聞こえて来た。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る