第5話

俺の声に反応した全員が茂みの更に奥に飛び込む。


「周辺警戒」

「無し」

「負傷者」

「森のみ」

「サーモ」

「感なし。雨」


 皆がそれぞれ情報交換を小声で終わらせる。

の方もこちらでわかる様な動きは無い。こちらの動きを様子見しているのか場所を変える為に移動したのか……


「チッ」


合図の舌打ちをした宮田。ハンドサインで移動を指示してくる。森のきわを高速沿いに下がる様だ。それなら狙撃手の射界から身を隠せる。……が移動していなければだが。


じりじりと退却する俺達だったが、敵に動きは無い。間違いなく敵は俺達の動きを捕捉している筈なのだが……


撃たれた森も何とか意識を取り戻した様で、ゆっくりと酒田の後ろについて下がっている。


結局あの後襲撃は無かった。俺達も一度休んだ集落に戻って体勢を立て直す事にした。当然昨日の家とは違う所に皆で潜り込む。


入り込んだ家の中で皆無言で動き回る。C4を仕掛ける奴。センサーを設置する奴。俺もカメラをあちこちに仕込む。


一通り作業が終わると、全員トイレへ。

田舎の古民家と言っていい様な古い家。換気の為の細長い窓が床に接してついている。そこから一人ずつ外へ。当然だが、この家に入る前から移動ルートにはセンサを仕掛けた上直接目視されない様な場所を選んでいる。


ずるずると蛇の様に這いつくばって五軒程離れた家の残骸の中に俺以外の全員が潜り込む。全員が入り込んだのを確認して周辺警戒。三十分程監視を続けたが、肉眼でもセンサにも特に動きはなかった。俺も残骸の中に入る。


外から見ると残骸にしか見えない家だが、中に潜り込むとこの部隊員全員が横になれる程度の部屋が潰れずに残っていた。


「お疲れ」

「あぁ。どうなった?」



声を掛けてきた宮田にそう問い掛ける。


「やられっぱなしってのも腹が立つからな」


ニヤリと笑う宮田。


「まずはお前も飯食っとけ。話はそれからだ」


◇◆◇◆◇◆◇◆


次の日の昼過ぎに俺と山口が家から出る。俺は高速沿い向かって左方向で山口が右方向に進む。残りのメンバーはまだ残骸の中。


奴等も俺達と同じ立場だと仮定して。

『教官』の狙撃手は本隊の方に付いているはず。俺達の監視はそう多くないだろう。せいぜい二、三人という所。その隙を突いて逆に連中の動きを把握しようという作戦だ。


隠密性の高い人間という事で、俺と山口が選ばれた。光栄な事で涙が出そうだ。


設置されているかもしれないセンサや監視の目を意識しつつじわじわと進む。俺と反対方向に進んだ山口も同様の動きをしているらしく、もうどこにいるか視認出来ない。


慎重に進む事一時間程。本隊のいる集落方向を監視している奴を発見した。百メートル程先のやぶの中に一人。俺達には全く気付いていない様子で気を抜いている。やぶの中で時おり身じろぎしているのがここからでもわかる。こいつを逆に監視する。二時間程で交代要員がやって来て奴と合流。そして監視していた奴は休憩の為だろう。ここからゆっくり離れて行った。そうか。そっちに本隊がいる訳だ。交代した監視役を迂回して先に。


昨日襲撃を受けた時に狙撃手がいた辺りにたどり着く。確かにここからだとあのルートを取った俺達を狙いやすい。最初に森を撃った奴のいた辺りも見やすいしな。


それを踏まえて他の狙撃ポイントを探す。しばらく動き回っていると、なかなか視界も開け、身も隠しやすい場所を見付けた。ここなら俺達が進むルートを狙うのにちょうどいい。


そこから移動する事三十分。先程の場所を見通せて、俺達のルートも狙える場所を見付ける。『教官』ならここに陣取るだろう。周辺に色々とをしてから移動し、狙撃ポイント二箇所が見通せる少し離れた場所に腰を据える。

黒マジックで塗りつぶしたアルミ蒸着シートで身をくるんでから、移動しながら少しずつ集めた草木とこの辺の草木で自分を偽装。不自然に葉の裏が見えない様に気を使いながら偽装を終える。

さて。これからは我慢の時間だ。銃を据えてゆっくりと待つ。


サーモ対策の蒸着シートのおかげで寒さは余り感じない。身動きが出来ないのが大変だが……


日も落ち、そろそろ身体が悲鳴をあげ始めた頃に動きがあった。


カサリ。


草ズレの音が微かに聞こえた。呼吸すら殺して音のした方向を見る。


最初に見付けた狙撃ポイントにギリースーツの姿が見えた。こいつはおそらく『訓練生』だろう。どことなく動きがぎこちない。という事は……


いた。


やはり予想していたポイントに『教官』らしき人影がチラリと見えた。先に教官がポイントにたどり着いていたのに、俺が気付いたのは訓練生の方が先。手練という事がわかる。


しかし……


狙撃手は相手に視認されたら終わりだ。それがどんなにベテランの手練だろうと……な。


僅かに。

ほんの僅かに銃口を『教官』の方に動かして行く。万が一にも気付かれたらアウトだ。


十分程の時間を掛けて『教官』を狙える所まで銃を向ける事が出来た。『教官』はゆっくりと銃のセッティングを始めた様だ。一度視認したからこそ居場所がわかるが、わかっていても姿を見失いそうになる。


やっとの思いで向けた銃で『教官』を狙う。準備が整う前にケリを着けないと俺がヤバい。それほどの相手だ。


スナイパーライフルが必要無い程度の距離だ。ゆっくりと息を吸い、サイト越しに『教官』を捉えた。細く息を吐いていく。


何かを感じたのか、『教官』の動きが止まった。だが…もう遅い。


息を吐き切った俺が引き金を落とす方が早い。

弾ける様に倒れていく『教官』の姿がサイト越しに見えた。

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