第4話
俺達に対する追撃も無く、とりあえずは無事に朝を迎えられた。程よく崩れた民家の中で休息を取る。
「しかしあの連中は一体何だったんだ?」
俺と見張り番についた森が話し掛けてくる。
「全くわからない。あそこで俺達を襲う意味も無いし」
「本隊と狙撃手のレベルがえらく違ったよな」
「あぁ。何と言うか……自分の部隊の実力を測った様な感じだ」
「部隊員を使い捨てにしてか?」
「『暴徒』の連中ならそれくらいやってもおかしくない」
所詮はぐれ者の集まりだからな。ただそういう連中をまとめるにはそれ相応の実力が必要だ。アレが『暴徒』の連中なら、そういう実力者がいる可能性が高い。
「何にしろ相手の目的がわからないのが気持ち悪いな」
「俺達の力が上がるのが嫌なんじゃねーのか?」
「それを含めてちょっかいを出してるのかもな」
……もしかして連中も訓練中なのか?
俺達の様に。
狙撃手が教官で本隊が訓練生とすれば練度の差も納得出来る。まぁ連中はあの練度から考えるとまだ卒業試験までは行っていないだろうが。……もしくは本当の本隊は別にいるかもしれん。
「て事はこれから連中につけられる可能性もあるのか?」
「昨日の襲撃が本当に俺達を狙ったものならな」
「……」
連中も無作為に襲撃している訳では無いだろう。自分達の練度を上げるのが目的なら、ある程度力のある相手と戦う必要がある。
つまり俺達は連中の『餌』にされている様だ。
「だからと言って大人しく食われてやる義理は無い」
「まぁそうだよな」
森と二人顔を見合わせて笑い合う。
「なんだお前らキモいぞ」
「うるせーよヤマ……交代か?」
山口と酒田が交代しに来た。山口は普段森と組んでいる事が多いので仲がいい。
「センサーにも感無しで異常なし」
「了解。後は頼むな」
「おう」
さて少し休むか。
見張りを交代してひと眠りした後、もう一度見張りに立った頃、雨が降り出した。そして日が暮れ活動を開始する時にも降りやまず。本降りの中活動を開始する。
高速道路が近くを走っているのでそちらを通る事にする。見通しがいいのが問題と言えば問題なのだが……側道の方を警戒しながら進む分には大丈夫だろう。ただこの雨の中ではサーモもあまり役に立たないのが不安材料だ。
それは突然だった。
ポイントマンを務めていた森のテッパチが吹っ飛んだ。全員その場に伏せ、それから草むら等の遮蔽物に身を隠す。あの狙撃手か?!
一番近くにいた俺が森の状態を確認しに行く。
ぴくりともしない森のそばに寄って行くと、微かに呼吸音が聞こえる。どうやらテッパチを掠めた銃弾の衝撃で脳震盪を起こしているらしい。ノクトビジョンを通して確認したが出血も見られない。襟を掴んで草陰に引きずり込む。
「クソっ!奴か?!」
「……どうかな?」
「森は?!」
「脳震盪っぽいな。失神してる」
小声で情報交換。
銃声が聞こえないという事は、そう遠距離からの攻撃では無いという事だ。ポイントマンが離脱した以上二番手の俺が行くしかないか。
「周辺警戒頼む」
「了。気を付けろ」
転がったテッパチの位置から大まかに狙撃手の居場所の見当を付ける。高速を挟んで反対側の森の中辺りか。草陰を第三匍匐で奴がいると想定した辺りまで進む。
チュン。
近くを弾が飛んで来るが、草むらと柵の網に阻まれる為当たる事は無いだろう。
……過信する訳にもいかないが。
しかし、俺を狙ってくれたお陰で発砲炎がうっすら見えた。ノクトビジョンをズームすると、木陰の藪に紛れてギリースーツらしい姿がある。百五十という所か?柵の網の隙間に銃口を突っ込み固定。耳栓を耳に突っ込みズームを元に戻してサイトイン。単射でじっくりと狙う。
先に動いたのは相手の方だった。ゆっくり移動しようとしている。動いてくれたお陰で奴のギリースーツが塊として見えた。身体の中心辺りを狙って引き金を引く。
ガシャッ!
耳栓のお陰で発砲音よりも遊底の作動音の方がよく聞こえる。
八九式の発砲炎でノクトビジョンが一瞬暗くなった。
「ヒット!」
この声は宮田か?俺の銃の向きから奴を見付けたらしい。さすがリーダー。
明るさを取り戻したノクトビジョン越しに奴を見る。ひっくり返って動かない。いい所に当たってくれたか。しかし……
「やったな」
銃を網から外し、場所を変えている俺に声を掛けてくる酒田。
「いや。あれは多分奴じゃないだろう」
手際が悪すぎる。狙撃手なら見つかりそうになった時点で場所を変える。狙撃手に取って見付かるイコール『死』だ。なのに奴は反撃してきた。古株の狙撃手とは言えない悪手を選んだという事は……
「気を付けろ!まだ近くに奴がいるかもしれん!」
全員草むらから更に奥の林の中に飛び込む。
声を掛けたと同時に林に転がり込んだ俺の肩口を弾が掠める。
クソ!やっぱりいやがった!奴がいるという事は……
「周辺警戒!また追い込まれるぞ!」
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