戦いの予兆
第1話
戦闘から二日後。所長から呼び出しを受けたおやっさんと沢田さんと俺の三人は、所長の部屋で待機していた。
「何の話ですかね」
「尋問の結果に決まってるだろ」
「おやっさんと沢田さんが呼ばれるのはまだわかるんですが」
「お前も色々と事情を知っているからだろう」
「そうだぞ?色んなところに顔突っ込んできたツケが回って来たと思って諦めろ」
「勘弁してくれないですかね……」
そんな事を話していると、
「揃っているな」
扉が開いて所長が入って来る。自分の椅子に腰を下ろし、
「『暴徒』のトップが判明した。『S』だ」
おやっさんと沢田さんはかなり渋い顔。
「『S』って何ですか?」
「特殊作戦群だ。そんな事だとは思ったが」
「谷さんの知り合いがいるんじゃ?」
「かもしれん」
「あの沖縄戦の?」
「そうだ。空挺団よりヤバい連中だ」
「あー……そりゃヤバいですね」
「しかもSEALsの一部も加担しているらしい」
所長が更にそんな事を言う。
「何でSEALsが?」
「さぁな。特戦群と訓練でもしていた縁じゃないか?」
「どうするんですかそんなモン。この三人だけじゃ対抗なんて不可能ですよ!」
「落ち着け沢田。おそらく本隊は出てこないだろう。略奪している連中は下っ端の雑魚だ」
「つまり?」
「余程の事が無い限り上の連中は出てこないという事だ」
「部隊としては出て来なくても個として出てくる可能性はありますね」
今回いなかったのは単なるラッキーだったのか……
内戦初期沖縄戦に投入されて敵を撤退させた部隊として有名なのだが、そのせいで敵がゲリラ化して結局内戦が拡大してしまう結果になった。それは当時の特殊作戦群を指揮していた人間の無能さだと猛批判を受けた。
その件が元で特殊作戦群がクーデターを起こしたという噂すらある。もうその頃は内戦が本土まで飛び火して国内がぐちゃぐちゃになっていたので、実際どうだったかは不明なままだ。
「あなた方の伝手で連絡が取れそうなメンバーはいませんか?」
「……残念ながら特戦群には知り合いがいないっすね」
「俺が知っていた奴は皆死んだと聞いている」
「……そうですか」
しわの寄った眉間を揉む所長。話についていけない俺を見ながら、
「そういう訳で戦力を向上させなければならない。しかし量はそう簡単には増やせないから質を上げるしかない。という訳で……だ。コウはこれからおやっさん達に訓練して貰え。二人は本気でコウを鍛えて貰いたい」
「ちょ」
「わかった。店の方は休む」
「久しぶりに本気出してみるか。楽しみだなコウ!」
「勝手に決めないでもらえますかね?!その間の俺の生活をどうしてくれるんですか?!」
悲鳴混じりの俺の声に、涼しい顔の所長。
「日当は24時間警備と同じだけ出す。消耗品は現物支給だ」
「……本気ですか?」
「当たり前だ。この街のトーレスアーク乗りからも選抜して鍛えて貰う予定だ」
ダメだ。おやっさん達の顔が既に教官の顔になっている。
「谷さんも本格的に教えるのは久しぶりじゃないですか?」
「腕が鳴るな」
「……脱走しようかな」
ぼそりと独り言を呟いた瞬間両肩を二人に掴まれる。
「逃がすと思うか?」
「諦めろ」
「せめて日数くらい決めて下さいよ!!」
「なーに俺と谷さんが納得すれば終了だ。一日で終われるかもしれんぞ?」
「無理無理無理無理」
「丁度いいからお前は今から訓練な。他の奴らは明日以降からだから先輩面出来るぞ喜べ」
「いや俺にも色々準備が」
「敵が待ってくれると思うか」
粘ってみても、既に教官モードの二人は説得出来ず。追い討ちをする様に所長が、
「本来なら今日の分の日当は半日分だが、一日分出してやる。感謝しろ」
「あ"ー」
所長も面白がっているし……一体俺が何をしたっていうんだ。
「では行くか」
「まずはハイポートで1500を五分前半って所ですか」
殺す気だ。この二人は俺を殺す気だ。
明るい日差しの差すお昼前の天気が妙にうそ寒く感じた。
そして。
今日一日おやっさん達の肩慣らしに付き合わされた結果。
指一本動かせないくらいに疲弊してソファにひっくり返る俺がいる訳だ。
基礎訓練の前段階として体力測定をさせられたのだが、それだけでコレだ。明日からの訓練で地獄を見る事は確定している。
しばらく本気で動けずソファでゴロゴロしてからストレッチをする為立ち上がる。動きたくも無いが、このままでは明日身体が筋肉痛で動けなくなるだろう。そうなった時の二人の反応を想像すると……ゾッとする。
ヒィヒィ言いながら身体を動かしていると、
「初日から飛ばすわね……お父さんったら」
「殺される。死ぬ」
「冗談に思えないんだけど……」
香織が色々持ってやってきた。
「はいこれ晩ご飯と明日の朝ご飯。心配しなくても訓練中は所長持ちだって」
「ありがたすぎて泣きそうだよ」
「でしょうね……」
身体の動かし過ぎで食欲は全く無いが、食わなければ身体が持たない。
少しづつ口に入れゆっくりとよく噛んで食う。そうしないと吐きそうだ。
「最近コウって災難続きね……日頃の行いが悪かったせい?」
他人事だと思って……くっそ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます