第23話
連中からはある程度の距離を置いての攻撃。本来の俺はこのまま連中の中に突っ込んで機動性にものを言わせて引っかき回すスタイルだが、今それをやると沢田さん達が攻撃出来なくなる。
当初の動揺からも落ち着いた様子の『暴徒』共。罠があり機体数もそこそこある沢田さんの方より俺の方を先に片付ける事にしたらしい。回避行動を取りながら接近して来るが、残念ながら俺の機体の機動性の方が高い為全く回避行動が意味を成していない。
さて。お前ら俺に係りっきりでいいのか?
下がる俺を追っている連中の背後のビル陰から激しく響く重いローラーの音。
瓦礫を弾き飛ばして出て来た機体。
重トーレスアークのアグニ改三型だ。かなりの重装甲で、CAL.50では簡単に装甲を抜けない。
『あんなドンガメとっとと片付けろ!』
そう叫ぶ敵指揮官だが……
初期加速こそそう良くは無いが、スピードの乗ったアグニは相当速い。通常は回避行動を取る際にどうしても減速せざるを得ないが、それはあくまで普通の人間が乗った時の話だ。アレに乗るのは……
銃弾がアグニに集中するが、重い機体を無駄の無い動きで振り回して軽くかわす。
『早く潰せ!』
騒ぐ指揮官機だが、そんな事を言ってるヒマがあるのか?
スピードの乗ったアグニが連中の中に突入。微妙に打点をずらして自分の勢いは殺さずに敵のタコを吹っ飛ばす。一度の突入で三機潰すか……
『おやっさーん!そいつら香織を泣かせてましたよ!』
『……殺す』
軽口を叩いたつもりが、おやっさんに火を着けてしまったらしい。
重タコでは有り得ない様なターンで再び突入して行くアグニ。あの機体でほとんど被弾していないのはもう神業と言っていいだろう。本当に片足無い人間の機動か?
俺とおやっさんに挟撃されうろたえる連中に、罠を迂回して接近していた沢田さん達も攻撃を始める。
距離を取り砲撃で敵の数を減らす俺。
機体の質量とナックルガードで敵を殴り倒すおやっさん。
二人が落としきれない機体を集団で潰して行く沢田さん達。
散々やった模擬戦で、お互いの動きは熟知している三人。わざわざ連携訓練をせずとも相手がどう動くかがわかる。
初めは数で押し切ろうとしていた『暴徒』だったが、どんどん数を減らされていく。逃げ出す機体もいるが、逃がす訳が無い。そして、情報を取るには一人残せばいい。
銃声が止んだ時には、立っている機体は俺達だけだった。例の指揮官機はわざわざ目立つペイントをしていた為、どれかはすぐわかった。俺が奴の脚を撃ち抜いて動きを止め、沢田さんが両腕を破壊してみせ、最後におやっさんが殴り倒す。
離れた場所からローラーの駆動音。
隠れていた様子の堀田さんのタコが走り去るのが見えた。まぁこの距離なら電波が届く。
俺がスイッチを押すと、堀田さんの機体の駆動液タンク辺りから煙が出たのが見えた。
駆動液の圧が落ち、ゆっくりと動きを止める機体。
避難民の見送りに行った時に仕掛けた小型の爆弾が駆動液タンクを破壊した為動けなくなった様だ。即座に沢田さんの所の隊員がハッチも開かず出られなくなっていた堀田さんを確保する。
「何とか上手くいったな」
「……俺は嫌だったんですがね。避難した人達が危険過ぎました」
「そう言うな。彼らが連行されていなければ本隊が逃げていた可能性が高かった」
「おやっさんの言う通りだぞコウ。……まぁ俺もヒヤヒヤもんだったがな」
「理解はしているんだけど……納得は」
「あの中には香織ちゃんいたからなぁ。ねぇおやっさん」
「そうだな」
「……何でおやっさんまで俺の外堀埋めに掛かってるんですか?!」
全てが終わり、三人でやいやい言っていると、隊員が堀田さんを連行して来る。おやっさんと沢田さんの顔付きが厳しい物に変わった。
「……何でバレた」
睨みつけながらそう言う堀田さん。
「鳩だ」
「……クソ」
困窮とまでは言わないとはいえ、動物性タンパク質は慢性的に足りていない。そんな中で鳩が飛び回っていれば不審に思う人間もいるという事だ。
鳩を捕獲して調べて見た所、こちらの情報を記したメモ書きが足の通信筒から見つかり、泳がせて置いたら堀田さんの所を出入りしていたと。
「所長を甘く見すぎだよお前は」
諦めた様子で大人しく連行される堀田さんの背中にそう吐き捨てる沢田さん。信頼していた部下が『虫』だったという事実はかなりのショックだっただろう。それを一切表に出さず今まで普段通りにやってこれたのは沢田さんだからだろう。
「コウ!」
振り向くと、香織が駆け寄ってくるのが見える。
「もっと早く助けなさいよ!」
胸ぐらを掴まれ揺さぶられる俺を笑って見ているおやっさんと沢田さん。
「ごめんって」
そう言うと、胸ぐらを掴んだまま俺の胸元に顔を埋める香織。なんとなくおやっさんの方から圧力を感じつつ震える香織の背中を軽く叩いてやる。
「なぁ……そういうのはおやっさんにやった方がいいんじゃないか?」
「やだ」
崩れ落ちるおやっさんを横目に見ながら香織を落ち着かせる。しばらくしたらだいぶマシになった様で顔を上げる香織。
「はぁ……ホントに怖かったんだから」
「こっちにも色々事情があってな……ホントにごめん」
「ちゃんとサポートしてくれてたんでしょ?しょうがないから許してあげる」
「あー……そろそろ離れないか?おやっさんの目が……」
「え"」
周りを見回しおやっさんを見付ける香織。今まで気付かなかったらしい。
「や"ぁー!お父さんっ!!」
飛び離れる香織。耳が真っ赤だ。落ち込むおやっさんと何やら一所懸命に言い訳している香織。沢田さんと顔を見合わせ、二人して苦笑する。
とりあえずの危機は去った。尋問で今までわからなかった事がわかるかもしれない。だが……
戦闘の緊張から解放され、連中の機体を賑やかに回収する隊員達を眺めながら、それでも何となく胸の中のモヤモヤしたものは晴れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます