第22話
夜襲を警戒していたものの、連中の動きは相変わらず無く、距離を置いての睨み合いは続いていた。
この戦いの主導権は連中が握っている。こちらから仕掛ける事は、罠の存在を抜きにしても出来ない。連中は街の近くに陣取っているが、こちらに向けてのアクションを一切取っていないからだ。
時間は朝十時を幾らか過ぎたくらい。
「……何を待っているんですかね?」
「さあな」
そう言った沢田だったが、この後起こるであろう事をほぼ正確に予想していた。
「まさかなぁ……」
諦め混じりの言葉を吐くが、その意味を理解出来る奴は沢田の周りには誰もいなかった。
少なくとも今この場所には。
そろそろ避難したバスが東の『自治体』の勢力圏に着く頃だ。
……避難民の動向次第でどう動くかも決まる。それを決めるのに今からそう時間は掛からない筈だ。
当たって欲しくなかった予想が当たった事を知ったのは、それから三時間程経った頃だった。
「連中が動きました!」
その声に全員タコを起動。塹壕に全機飛び込み、敵が進行してくる方向に銃を向ける。
『なんだ?あいつら』
隊員の声がスピーカーから聞こえる。
その疑問ももっともだろう。
特に警戒行動も取らずまるで散歩でもしている様にのんびり歩み寄って来て、そのまま罠の手前で止まる。
『あーあー皆さん聞こえますかー』
おちょくってやがる。
罠の手前にいるとはいえ、こちらの射程圏内には入っている。しかし、手を出す事は出来ない。隊員達に向け待機のハンドサインを機体に取らせる。
『はーい皆さーん。皆さんには今から塹壕から出て来てもらって武装解除してもらいまーす』
『何を言ってるんだ?』
『元々狂人の集まりみたいな連中だからな』
そう話す隊員達が凍った様に動きを止めたのは、『暴徒』の次の言葉を聞いてからだった。
『皆さんが武装解除してくれないとー。皆さんのご家族が亡くなりまーす。言うだけじゃ信用出来ないと思いますのでー、こちらをご覧下さーい』
連中のタコの後ろには避難民の乗っているバスが二台。銃座は銃をむしり取られた様になっている。
カメラの倍率を上げる沢田。
バスの中には顔見知りの人、人、人。
顔認識ソフトを立ち上げ、バスの人数を確認。全員知った顔で出発時と人数にも変化は無い様だ。
……今の所は。
『さぁ皆さんどーしますかー?俺達はどっちでもいいですよー?』
『沢田さん!』
『……全機待機。別命あるまで動くな。……照準は合わせとけ』
そう命令を下し、バスの観察を続ける。
運転していた隊員はそのまま運転手をさせられている。バス内に敵影は無い。周りのタコからの威嚇で命令に従っている様子だ。
『クソ!』
『どうすんすか沢田さん!』
「黙って待ってろ!!」
怒鳴る沢田。
『皆さんの踏ん切りがつかないよーなのでー、今からバスの一台を攻撃しまーす。これはそちらの判断の結果なのでー、恨むならボクたちじゃなくてそっちの指揮官を恨んで下さーい』
ゲラゲラと笑う声が聞こえてくる。
バスに向けられる銃口。
その中には子供たちを抱き締める香織ちゃんの姿が見えた。
「「「沢田さんッ!!!」」」
隊員達の怒声が聞こえた時。
ガスッ。バスに銃を向けていた『暴徒』のタコの一機が崩れ落ちる様に倒れる。
『ああ?』
不審そうな声を上げる『暴徒』の指揮官らしき男。その間にも次々に倒されていく機体。銃声が聞こえない事に焦った様子で周りを見回す敵部隊のタコ。
その隙を逃さず、二台のバスの運転手はアクセルを踏み込む。しかしタコからすればノロノロとしか動いていないようにしか見えない。
『の野郎!』
叫びながら銃をバスに向けたタコがまた一機倒れる。
ふん。おせーぞコウ。
「全機撃て!バスに当てるなよ!!」
沢田の声に固まっていた隊員達が動き出す。
バスに銃口を向けているタコはこちらに背中を向けているという事だ。精密射撃で狙い撃ちする。
背後からの攻撃に、バスの追撃を諦めて沢田達に攻撃して来る連中のタコ。
「美味しい所を持っていきやがって」
そう呟く沢田の口元は笑っていた。
◆◇◆◇◆◇
よし!間に合った!
連中が動きを止めた時にバス付近のタコは全てロックしておいた。この砲の連射速度なら動き出す前にバス周りのタコは片付けられる。
バスが動き出し、連中から距離を取れた時にはバスを狙っている奴はいなくなっていた。ナイス沢田さん!いいタイミングで連中を攻撃してくれた!
身を隠していた林の中から反応速度最大で飛び出す。機体に付けていた偽装の枝や葉っぱがボロボロ落ちていく。
息の詰まる加速の中でバスとすれ違う。
バスの中に香織の泣き顔が見えた気がした。
そうか。泣かされたか。
砲の射撃は射撃管制ソフト任せにして、手にしたCAL.50改を撃つ。この距離なら腰だめでぶっ放してもある程度当たる。
沢田さん達から見て左手側から突っ込んで行った俺。形としては半包囲の様な形だ。
……全員帰さない。
レバーとペダルを忙しく動かしながらも俺の指は小刻みに引き金を引き続けていた。
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