第17話
俺が街に帰ってからしばらく噂に怯えてビクビクしていた様な街の雰囲気も、ここの所だいぶ落ち着いた様子を見せている。
所長様から新たなお仕事を押し付けられる事もなく、身体を治す事に専念出来たおかげでほぼ完治と言っていいくらいに回復した。そろそろ直した機体の本格的なテストもしておかないといけない。
という訳で、『自治体』の屋上駐車場だった所にある訓練所へ。
シャアアァァァッ!
『ターンが甘いぞ!もっとグッと突っ込んで一気に制動!メリハリをつけろ!』
戦闘訓練場にローラーの駆動音と、スピーカー越しに響く沢田さんの声。訓練している本人に言うだけならスピーカーを使わなくてもいいのだが、周りで見ている訓練生に説明するという意味もある訳だ。
離れた場所で訓練を見学していると、
『よーし!もういい!これから模擬戦を見せてやるから良く見とけ!コウ!準備してこっちにこい!』
鬼軍曹に見つかった。
今日は最初からそのつもりだったからいいんだが……機体を操作しペイント弾の入ったマガジンを銃に入れ、ボルトを引いて薬室を確認してからペイント弾の初弾を装填する。替えのペイント弾のマガジンを腰部ラッチにはめ込み準備完了。
『どうだ?中々いい仕上がりだろ?作動音も軽い様だし。感謝しろよ?』
「いい感じですよ。実戦テストはまだですが」
『よーし試してやるから覚悟しとけよ?』
「壊さない程度でお願いします」
『それはお前次第だ』
十メートル程離れて向かい合う。
『んじゃ始めるぞ!』
ローラーで接近してくる沢田さん。不規則に回避行動を取りながら近付き、俺の右手方向に大きく機体を振る。ある程度近付いて来た所で俺も機体を下げながら発砲。牽制程度のモノだが……
小刻みに機体を振りながら近接戦闘を仕掛ける沢田さん。この距離だと幾ら撃っても当たりはしない。オートでの下がりながらの回避をレバーでキャンセル。一度下がった機体を踵のピックで瞬間的に止め、前に出る。強烈な加速に息を詰めながら左腕のナックルガードを展開させ、沢田さんに真っ直ぐ突っ込む。
ピックを上手く使い俺の後ろに回り込む沢田さんだが、それは予想している。だから敢えて直線的に動いて見せた。
近接警告音がうるさい。
沢田さんが回り込んでくる瞬間前方の空いたスペースに向けダッシュ。何とか距離を取る事に成功した。即座に機体を振り向かせながらペイント弾をばら撒く。何発かは当たった様だが機動に影響の無い部分にしか当たっていない。
回避行動を取った沢田さんにこちらから近接戦闘を挑む。OHした俺の機体は沢田さんの機体よりも動きが軽い為沢田さんでも俺の機体の動きに対応出来ていない。
その隙を突いて近付く事が出来たが、動きを読まれたか牽制の射撃を受ける。回避と接近行動を合わせた様な動きで沢田さんの機体の横に回り込み、左拳のナックルガードを沢田さんの機体後方の駆動液タンクに当て、機体を止める。
「もしかして初勝利ですか?」
『馬鹿言え。良くて相打ちだな』
センサーに反応がある。上手く腕を畳んで沢田さんの銃口が俺の機体ハッチに向いている。あぁ……実戦なら俺は死ぬが沢田さんは精々機体が止まるだけか。
「初勝利はならずですね」
『まだ俺に勝とうなんざ早いわ』
お互い機体を離して訓練場の脇に止め、ハッチを開く。
「とはいえお前に当てられるとはな」
沢田さんの機体の左肩部と右脛の装甲に着いた真っ赤なペイントを二人で眺める。……よく沢田さんに当てられたな。
「これくらい動いてくれれば何とかなりますかね?」
「まぁ合格点をやろうか。しかし思ったよりもいい機動するなソイツ」
「まだまだ現役って認めてくれますか?」
「……まぁまぁだな」
若干悔しそうに沢田さんが認める。……まぁ沢田さんに認めて貰うのが目的ではないが、嬉しい事は嬉しい。
「感覚のズレはどうだ?」
「そうですね……始めの頃は少し感じましたが、だいぶ馴染みました」
「微妙なズレが命取りになりかねん。完全に馴染むまで乗り込んでこい」
そう言われて戦闘訓練場横にある操縦訓練場に移動する。訓練場の中にはあちこちに杭や障害物が設置してある。そこの中を走り回って訓練する訳だ。
今は戦闘訓練場に皆行っているからここには誰もいない。貸切状態の訓練場を走り回る。
全速で走り、飛び出た杭に手を掛けて機体をスライドさせながらカーブを立ち上がって行く。その先の廃車を飛び越え、荷重移動を使って機体を滑らせながら杭を回っていく。
しばらく走り回っている内に感覚のズレはほぼ無くなり、タイト気味に調整した操縦系が俺の操縦にしっくりくる様になった。
ここまで動けるならアレが出来るか?
ナックルガードを展開し加速。少し空いたスペースを使って走りながら降着させる!
僅かでもバランスを崩せば即転倒する降着を走行しながらするなんて普通のタコ乗りなら考えもしない。
降着しながら速度を落とし、通常地面に接地する膝関節部の代わりにに左手のナックルガードを接地させて機体にダメージが無いようにしながら停止。……何とか転倒は免れたか。
熱のこもったコクピットハッチを開くと、戦闘訓練をしていた筈の連中が皆俺を見ていた。
『機体の操縦に習熟すればああいう事も出来る様になる。まぁ普通はあんなアホな真似できゃしないんだからやるなよ!機体を壊すのがオチだ!』
沢田さん……勝手に俺を見世物にしてその言い草は酷くない?
そんな俺の頭上を鳩が西の方にパタパタと飛んで行った。
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