第18話
機体も仕上がり、近隣の警備程度の軽い仕事をこなしながら日々を過ごす。
俺が重症を負ってから、気付くと季節は冬に入ろうとしていた。
依然連中の動きは無い。街の空気感も普段通りに戻ってきた時にそれは始まった。
ウウゥゥゥゥウッ!!
街中にサイレンが響き渡る。戦闘訓練を受けた人間は集合せよという意味のサイレンだ。
ぱらぱらと『自治体』に向かって走る人達。俺もバイクに跨り自治体に向かう。
『自治体』の前は人でごった返していた。タコ乗りだけではなく、街の防衛班や事情を知りたい一般人までが集まり、説明を待つ。
「皆さん。『暴徒』が彼等の基地から出撃したとの連絡がありました。数はおよそ三十機のトーレスアークと装甲車が四両」
所長の説明が始まる。結構な大部隊だな。
「こちらの方に向かって来ているのは確認されましたが、この街が目標となっているかはまだわかりません。しかしここが襲われる可能性も非常に高いと私は判断します。よって皆さんに防衛行動の発令を致します」
要は『戦争始まりそうだから皆で戦いましょうね』という事だ。尚これには強制力があり、参加を拒否した場合拘束もありうる。しかも他の住人達から村十分にされ街から追い出される可能性が高い。
自分達の住む街を守ろうとしない訳だから当然と言えば当然か。
当たり前だが非戦闘員(老人や子供)は除外され、護衛と共に避難する事になる。
「奇襲するには距離があります。この街を襲うと想定して到着は三日程掛かると思われます。情報が入り次第順次連絡しますので指示に従って下さい。それでは準備を宜しく御願いします」
散っていく街の住人達。が、タコ乗りは皆残っている。非常事態の際にはタコ乗りは『自治体』の指揮下に入る事が義務付けられている為だ。
「今回の敵は我々よりも数が多い。馬鹿正直に真正面から当たる必要もない。連中がやってくるまでに罠を張る」
タコには意外と罠が有効だ。地雷やワイヤーを使った物、何なら落とし穴程度のモノでも結構バランスを崩し動きが止まる。そして動きの止まった軽装甲のタコは的にしかならない。
「分隊に分かれてそれぞれ罠の設置を開始してくれ」
所長の号令でタコ乗り達が自分の機体を取りにそれぞれの家に戻って行く。
俺も……とバイクに跨った所に沢田さんから声が掛かる。
「コウ!ちょっとこっちこい」
……
バイクを走らせながら、先程聞いた沢田さんからの話を
沢田さんの話が事実なら、他の『自治体』が襲撃を持ちこたえる事が出来なかったのもわかる。事実で無い事を祈るしか無いが……
自分の機体に乗って罠作りに精を出す。この街の全タコが参加した突貫工事だったが、とりあえず連中が侵攻してくる方向には罠を張り終える事が出来た。これなら街を囲む様に罠を張る事が何とか出来そうだ。
土にまみれた機体で我が家に帰り着くと、ベッド代わりのソファに香織が黙って座っていた。
「どうした?暗いぞ」
「……大丈夫と思ってたのに」
「こればっかりは相手がいる事だからな」
「やっとコウの身体も治った所だったのに……」
「治るまで待ってくれたと思えば」
「そんな訳ないでしょ!」
「そう思わないとやってられんって事だ」
ソファを香織に占領されているので仕方なくテーブルに腰を下ろす。行儀悪いがしょうがない。
「ねぇ……大丈夫なのかな?」
「備えも始めたし戦力もまとまっているから大丈夫だろ?」
「ホントに?」
「甘く考える訳にはいかないが」
「あたしここに残っちゃダメかな?」
「駄目だ。どうしてもって言うならおやっさんとおかみさんを説得してからだ」
「それ絶対無理じゃないの……」
「諦めろ。それにお前にも仕事があるだろ?」
避難組の護衛はタコだけじゃない。車両に据え付けた銃を撃つ人間も必要だ。訓練を受けた香織にはその仕事がまわって来るだろう。
「俺達は街を守るからお前はみんなを守ってくれよ?」
「……わかった。でもあたし達が帰って来る時ちゃんと出迎えてね!」
「……生きてたらな」
「約束だからね!」
「わかったわかった」
生返事を香織に返す。正直今香織を構ってやる余裕は無い。なんとなくそれを察したのか香織も無言で座り込むばかり。
「おい!いるか?」
何故か加藤がやって来た。
「何だ?今特に用は無いぞ」
「いいモンが手に入ったんだよ!お前くらいしか使い道見つけられん様なモンだけどな」
「要らん。そんなモノ実戦で使えるもんか」
「そう言うなよ!とにかく一回見てみろって!店に行くぞ!」
無理やり引っ張られる。
「香織ちゃんちょっとコウ借りてくよ!」
無言の香織を置いて外へ。
「何だよ急に」
「……いやな?煮詰まった感じの香織ちゃんがコウん家に入って行くのが見えたからな?アレは一人にしといた方がいいと思って」
加藤GJ。
「それに面白いモンってのもホントだぞ?」
「……一体何だソレは」
「見てのお楽しみって所だ!」
……このクソ忙しい時にどいつもこいつも。
全く……
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