第16話

 一週間掛けて俺の機体が完成した。

 注文したパーツやらなんやらを持って来た加藤。俺の機体を見た瞬間、


「よくあんな状態から直したな」

「沢田さんにも手伝ってもらったからな」


 ベッドに横たわる俺の機体を見ながら、こいつ馬鹿じゃないか?という顔の加藤。


「いやいやあんだけガタがきてたんだぞ?買った方が安かったんじゃないのか?」

「値段的にはな。ただ色々手を掛けた分性能は上がってる。それ込みだとこっちの方が安かった」

「……お前がそれでいいならいいんだが。店としてもいい稼ぎになったしな」


 交換しないといけないパーツやフレームにはかなり金を掛けた。この間持ち帰ったタコからもかなりのパーツを剥ぎ取ったからその分安くはなったが……おかげで今まで貯め込んだ金が殆ど吹っ飛んでいったが……性能的には四〇式にも勝てるレベルまで上がった。

 ただまぁ……新しい機体をいじった方が安くついただろうが。


「殆ど趣味の世界だな」

「ちゃんと性能向上してるんだから無駄じゃない」


 とはいえ、古い機体に新しい技術をぶち込んだ結果問題も色々と出ているが。補強はしているがフレームに掛かる負担が大きくなっているとか。


「バランス悪いだろこんなの」

「どうかな?俺のクセに合わせてあるからそう違和感は無いが」

「まぁ……本人がいいならいいんだ俺は」


 諦め顔の加藤に、


「流通ルートの方からなんか情報無いのか?」

「幾らだ?」


 手を出す加藤に、


「パーツ言い値で買ったろ?そのくらいオマケで付けろ」

「ケチ臭い奴だな……まぁいい。確かに動きはある」

「奴ら絡みか?」

「ああ。今まで略奪で賄っていた補給物資を購入している様だ。特に目新しい物の注文はないらしいが」

「そうか……」


 物資を購入しているという事は、『今までは足りていた物資が足らなくなるもしくはなった』という事。大規模戦闘があったとの噂話は聞いていないのでこれからの備えだろう。

 きな臭くなってきたな。


「ただそれがウチの街に向かうという確証も無い。備えはしておくべきとは思うがな」

「俺が言う事でもないだろうが……情報の方は頼む」

「それが俺の商売だからな」


 店が忙しいからと加藤が帰り、久しぶりにひとりになった。

 整備ベッドを起こし、仕上がった機体を見上げる。


 コイツとも結構長い付き合いだ。まだ俺が十代後半の頃に手に入れた機体。若造が手に入れられるタコなんて廃棄処分をかろうじて免れた様なボロいモノくらいだ。それに少しづつ手を入れ、直してきた。

 俺も機体のクセに慣れ、機体も俺の操縦を学習して。そしていつしかこの機体は俺の『相棒』になった。


「そうそう手放すなんて出来ないよな」


 生きる為にこいつと今まで無理をしてきたんだ。俺が乗って無理が効く機体なんてこいつくらいだろう。


 耐圧服を着込み、機体に乗り込む。


 起動した機体を歩かせる。動きが軽すぎる様に感じるが、今までのOHで直しきれていなかった部分がまともになったせいだろう。


 沢田さんから聞いた次世代機の話からヒントを得て、シートにもある程度の荷重が掛かると作動するサスペンションを組み込んでみた。これのおかげで反応を上げても身体に掛かる負担をかなり減らす事が出来た。それでも身体に掛かる負担はスケルトンアーマー+ミッションザックの時より少し楽になった程度だろうが。


 庭先で軽く戦闘機動してみる。うん。反応がリニアになった感触。通常の装甲板装備なのにスケルトンアーマーを着けている様な軽さがある。……今の俺の身体ではこの機体を振り回せないくらいには仕上がったな。


 身体が本格的に悲鳴をあげる前に機体を建物内に入れて降着させる。ハッチを開け、痛む身体をそっと地面におろすが、やはりまだタコに乗るのは早かった様だ。歩くだけで衝撃が身体のあちこちに響く。


 苦労してベッドまでたどり着き、ゆっくりと横になるが……それだけで息が詰まる。

 痛みが鋭いモノから鈍いモノに落ち着いた所でやっと考え事が出来るくらいに頭が回り出した。


 所長は一体どういう対応をするのだろうか?

 襲撃を受けた時には他の『自治体』は当てにはならない以上街の戦力だけで対応するしかない。

 現状タコが二十機程。防衛の為の装備も虎の子の無反動砲が数基とアンチマテリアルライフルやCAL.50が十数丁程度……か?


 相手の数にも寄るだろうが、やはり心もとない戦力だ。

 ……まぁ沢田さんとおやっさんだけで十数機くらいなら相手に出来るだろうが。


「あ!乗るなって言われてたでしょ!」


 やべぇ。

 降着した機体を見てバレた様だ。咄嗟に寝たふりをするが……


「起きてるわよね?」

「……はい」


 下手な対応をすると後が恐ろしい。


「ちょっと。ちょっとだけだったから」

「それで自分が動けなくなってるじゃない!もう!バカ!」


 半泣きの顔で睨まれると弱い。


「ここの所仕上げに必死だったからその反動かもな」

「無理するなって何度言えば分かるの?!」

「……機体だけでも整備終わらせとかないと……な」

「例の噂?」

「あぁ。だから沢田さんも協力してくれたんだろ」

「……だとしても……」

「もう整備は終わったんだ。後は俺の身体を治さないとな」

「その為にもちゃんと食べてちゃんと寝る!」

「わかったわかった」


 しばらくは香織のお迎えで車椅子でお店通い……か。


 飲みに行きたかったんだがなぁ。




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 ※イメージとしてはZ2やカタナ等旧車に大金突っ込んでる感じ。性能は上がるが、単に性能を求めるだけなら新しいヤツに金掛けた方が遥かに……って事です。

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