第15話
「なんか良くわからない世界よね?男二人でだまーって機械をカチャカチャいじってるんだから」
「香織ちゃんにゃ理解できんだろな。なぁコウ」
「あの楽しさを理解できないとは可哀想に」
「したくないわよそんなの」
手伝ってもらったお礼に沢田さんに晩飯をおごる事にして、軽く一杯やりながら飯を食う。
「やり甲斐はあるし楽しいんだがなぁ……戦力としては乗り換えの方が」
「いやいや実際問題そんな簡単にはいきませんって」
「そんなモン慣れだ慣れ」
ハムカツをつつきながらそんな話をしていると、
「直りそうなのか?」
おやっさん乱入。
「どーすかね?今回の仕事でかなりガタがきてますから。コウの奴扱いが悪いんすよ!」
「あの機体も古いと言えば古いからな」
「でしょ?俺がそう言っても言うこと聞かないんすよコウの奴は!谷さんからも言ってやって下さいよ!」
「そろそろ
「全く……谷さんはコウに甘いから」
「ほら!おやっさんもそう言ってくれるんだから直しましょうよ!」
「二人で手は足りるのか?足らなければ俺も」
ガシッ!
そう言いかけたおやっさんの肩を笑顔で鷲掴みにするおかみさん。
「あんたは店の仕事があるでしょ?」
「いや……コウの……」
「 なんか言った?」
「……なんでもない」
厨房に引きずられていくおやっさん。
おかみさん怖ぇよ……見た目はあんな細くて物腰も柔らかい感じの和風美人なのに中身は肝っ玉母ちゃんだからなぁ……
「お父さんも目を離すとアレだから」
腰に手を当てしょうがないなぁって顔をする香織。
「まぁ……今回はお前に付き合ってやるが、もうお前の操縦に二八がついていけなくなってるんだ。本気で乗り換え考えろよ?」
「……俺的には未だに機体頼りだと思っているんですが」
「二八は素直でいい機体だ。だからお前の操縦にもついていってたが、そろそろ限界だ」
そう言われても……タロスIIはアメちゃん仕様なのか妙な感じで大味だし、他の国のトーレスアークじゃ部品調達の面で不安が残る。
「二八が性に合うんですよね結局」
「噂の次世代機でもお前ならイけると思うんだが……さすがにそこまでの伝手は無いんだよなぁ」
「存在するんですか?都市伝説じゃなくて?」
「存在するのは間違いない。なんせ俺は現物を見ているから」
「はぁ?!いつ?!」
新世代機。
二八の後継機の四〇式ですら極一部に配備された程度にしか製造されていない。
そんな中、技術試験機を開発していたという噂はあったが、何ひとつ存在する証拠が見つかっていない。それがこんな身近な人が知っていたとは……
「昔だ昔。技研に出向してた時にな。」
「へー。本当だったんだ……」
「まだフレームに人工筋肉が付いた程度の代物だったがな。ベンチではそうだな……今回のお前の機体が出した最大出力が通常時の出力の八割って所か」
「……嘘でしょう」
ミッションザックを使うと通常使用時の三割程出力が上がる。だがそれは両刃の剣で、扱いが難しくなり、身体に掛かる負担が大きくなる。それの更に上の出力なんて使いこなせるものか?
「それは操縦出来ないんじゃないですか?」
「シートに仕掛けがあってな。耐圧服も専用のモノだった」
「ふーん……完成したんですか?その機体」
「多分な。ソイツを見てすぐ原隊復帰したから結果はわからんが、内戦状態になったのがそれから一年程してからだったから完成させる時間はあった筈だ」
ビールを飲み干す沢田さん。手酌でコップを満たして、
「実は内戦状態になってから技研に探しに行って見たんだがな。もぬけの殻だったよ」
「では誰かが?」
「だろうな。だが噂のままになっているって事は、まだその機体を使ってはいないんだろう。使ってれば評判になるだろ?」
「確かにそんな話は聞きませんね」
タコ話に花を咲かせていると、
「いつまで油臭い話してるのよ!」
香織が文句を付けてくる。
「んー?香織ちゃん寂しいのか?」
「そんな訳ないでしょ!もう!酔っ払い!」
べしべし沢田さんを叩く香織。
一部タコ乗りから見ると恐ろしい事をしている。無自覚にこういう事をしているからモテないんだよ。
「何よ?」
「いや何も」
「旦那を取られたからって焼きもち妬かないの香織ちゃん!」
パカーン!
アルミのお盆が沢田さんの頭に炸裂した。
沢田さんも妙な事を言うから……
テーブルに突っ伏した沢田さんをなんとも言えない目で見ていると、
「あんたもこうなりたいの?」
「俺何にもしてないだろ!」
「うるさいわね……」
「ごめんなさい病み上がりだから勘弁してくれ」
こうしていつもの平和?な夜は更けていく。
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