第14話
ベッドに寝かされた俺の機体。診断プログラムも走らせてあり、診断結果が既に出ている。わざわざ家まで俺の機体を運んできてくれた沢田さんに感謝。
しかしスケルトンアーマー+ミッションザックの機体に対する負担はかなりの物だった様だ。通常タコは装甲板無しでも動かす事は出来る。だがそれはあくまで動かせるというだけだ。フレーム単体では稼働時のストレスに負けてしまい、フレームの歪みに繋がる。それを装甲板で補っている訳だが……
「酷いなこりゃ」
全身のフレームが規定内とはいえ歪み、一部は修正では対応出来ないくらい歪んでしまっている。
今回使用したスケルトンアーマーは、必要最低限の部分のみ装甲の役割を果たす代物で、残りは通常使用でギリギリ強度が持つ程度まで肉抜きし、そこに防塵用のペラペラの鉄板を貼り付けたモノだ。本来の目的は運動性のテスト時に使うモノで、実戦に使う様な事は想定されていない。
そんな装甲を使った上、更に反応を上げるミッションザックを使ったんだ。全力稼働するだけでもフレームの心配をしなければいけないのに、タコ三機との戦闘となるとダメージは相当なものになる。
「はぁ……」
そんな機体を直さなければいけない訳だ。
動けるならとっとと家に帰れ!と病院を追い出された俺。
退院はしたものの、まだあちこちガタガタな状態のままの身体。ため息のひとつも出るというモノだ。
大体今回の仕事で戦闘は想定していなかったからなぁ……
軽量化とミッションザックの反応向上でとにかく逃げまくる予定だったんだが……世の中思う様にはいかないという事か。
こないだ
痛む身体にムチを打ち、機体の総バラシに掛かる。色んな意味で涙が出る。
いつもの倍近い時間を掛けてやっと装甲板を全て剥がし追える。
あー……人工筋肉のシリンダーが何本も破裂して駆動液が漏れている。頭が痛くなってきた。
心が折れてしまったので、工具を放り投げソファに腰をおろす。それだけで全身に走る激しい痛み。
無言で悶えている俺に、
「欲求不満か?何ひとりで悶えてるんだ」
「……まだあちこち痛いんですよ」
呆れた様な顔で沢田さんが声を掛けてくる。
「まだ入院しとけばよかったろう」
「邪魔だから出てけって言われたんですよ」
「あぁ……木下なら言いそうだな」
担当医師とは知り合いらしい。
「それより俺の機体運んでもらって……ありがとうございます」
「置き場所がなかったからな。気にするな。しかし……」
俺の機体を見ながら、
「これは新しいのに替えた方がいいんじゃないか?ダメージが大き過ぎる」
「……そこまで金がないですし、愛着もあるんで」
「愛着じゃ身を守れんぞ?何なら俺の伝手を使って機体を探してもいいが」
「……考えさせて下さい」
とは言ったものの、こいつを乗り換えるつもりは無い。愛着もあるが、こいつは俺の身体の一部みたいなモノだ。他の機体に乗った事もあるが、俺の機体の運動データを入れても何か一枚薄皮越しに操縦している様な違和感があった。それ以来他の機体には乗っていない。
「……大体直してる時間があるかもわからんぞ」
「所長も言ってましたが……俺のミスですか?」
俺が戻って来たルートを辿られたのならば、それは俺の責任だ。
「いや。念の為俺が確認してみたが、見事に途中でルートが切れて先が辿れなかった。あれならお前の取ったルートを辿られた事は無いと言っていい」
「なら適当に選ばれた?……まさか『虫』が?」
連中は内部事情を探る為スパイを送る事がある。年単位で潜伏するので、単純に新入りがそうとは限らないのが嫌らしい所だ。そういう奴の事を『虫』と呼ぶ。
「かもしれんな。どっちにしろこの話については『ある』仮定で動いた方が良さそうだ」
「組んだ他の自治体は動きますかね?」
「形だけはな。本気で手を貸すつもりは無いだろうな」
「沢田さんとおやっさんがいても厳しいですか?」
「プラスお前を入れても……どうだろうな。客の数次第って所か」
「……今の俺は戦力にはなりませんよ?」
「首に縄つけても引っ張り出すから安心しろ」
「にこやかに恐ろしい事言わないで下さいよ……」
おそらく沢田さんは本気だ。
相変わらずの鬼軍曹っぷりだ。
「乗り換えの件は本気で考えとけよ?……そんな嫌な顔するなよ」
「ゔーん……」
「わかったわかった!ただ事に間に合わん時には他の機体に乗せるからな」
「了解です」
よし!言質は取った!
「どうせ今日はひまなんだ。手伝ってやるよ」
「助かります」
だいたいのタコ乗りはメカフェチの気がある。沢田さんもその例に漏れず立派なメカフェチだ。
メカフェチが二人揃うとどうなるか?
香織が晩飯を食いに来いと迎えに来るまで二人で機体の全バラするという興味の無い人には地獄の様な時間が過ぎ。
あーでもないこーでもないって言いながら好き者同士で機体をいじる。
正に天国。
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