第13話
「ホントにもう!無茶ばっかりして!」
……現在絶賛説教モードの香織。俺はベッドの上から動けない為逃げられない。
あの後落ち着いてから一度機体を止め、耐え切れずに痛み止めを飲んだのだが……
生身での立ち回りに加え、タコ戦のダメージのせいで帰投中に気を失ったらしい。その前に入力しておいたナビのオート走行モードのおかげでここまでは帰り着いたらしいのだが、街に入った所でナビも切れ、街外れで機体をつっ立たせたまま棒立ちになっていたそうだ。帰り着いた時間が真夜中だったのも災いして、俺の機体が発見され、機体から降ろされ病院に運び込まれたのは朝方だったとの事。
そのまま入院になり、所長経由で香織の所に連絡が行き、現在に至る。
ちなみに気が付いたのは街に着いてから二日後。
今はと言うと、目が覚め最初に見た香織の顔になにか気が抜け、再び気を失った事を繰り返し責められている所だ。
「どうせあたしの顔見て『あぁ地獄に落ちたんだ……』とか思ったんでしょ!」
近い。
実は『あぁ天国に来ちまったか……』と思ったのだが、気の迷いだったのだろうきっと。
香織に内緒で墓場まで持って行く話がまた増えた。
診断の結果は全身の打撲に加え、肋骨骨折が三か所、鎖骨と左上腕部にヒビが入って内臓にも結構なダメージがあるとの事。耐圧服には基本プロテクタは入っていないから、この程度の怪我で済んだのはラッキーだったと思うしかない。
横になっているとアバラが半端なく痛むので、介護ベッドで上半身をある程度起こしている。痛みはだいぶ楽になるが、寝返りも打てはしない。昔の漫画やらなんやらで「くっ!アバラが二三本イッたか?」とかあったが、あれはきっとアバラを折った事がない奴が書いたに違いない。何しろ呼吸をするだけで死ぬほど痛い。
コンコン
ノックの音の後に扉が開き、何と所長殿降臨。どういう風の吹き回しだ?
「具合の方はどうだ?」
「そうすぐ良くなる訳が無いでしょう」
「お前ならもう治っていてもおかしくないと思ったのだが」
「見舞いに来たのかけなしに来たのか」
「それだけ言えれば事情聴取しても大丈夫だな。ちなみにけなしに来た」
「ひでぇ」
「申し訳無いがそういう訳だから席を外してくれるかな?香織君」
「わかりました。お灸をたーっぷり据えてやって下さい」
「了解した」
するな。
香織が病室から出て行き、
「どう見る?」
「難問が山積みですね。基地攻略にしろ捕虜の件にしろ……」
「ふむ」
「最大の問題は誰がアイツらをあれだけの規模でまとめているか……って事でしょう」
大隊規模の人数……それも略奪を嬉嬉としてやる連中だ。そんな連中をあれだけ規律立ってまとめる事の難しさは想像がつく。圧倒的な暴力かカリスマ性か……あるいはその両方か。
「想定される人物は幾人か上がっているが、特定には至っていない。その辺の情報を期待していたのだが」
「あの状況じゃ沢田さんやおやっさんでも無理でしょうそんなの」
「だから今お前を責めていないだろう」
「じゃあその目は何ですか?」
「個人的な感想だ」
「ほー。経費を楽しみにしていて下さい」
「全て認めるとは言っていない」
「怪我人に対して冷たいですね。しかもそちらの発注した仕事でこうなったのに」
「昔から怪我と弁当は……と言うだろう?」
しばらく揉めた結果今回は経費と入院費は自治体持ちという事でケリがついた。それだけ俺の持ち帰った情報は価値があった様だ。
しかし所長殿が折れたとは……若干後が怖い。
「しかし攻めるとしても時間が問題では?」
「準備に時間を掛ければ相手にも時間を与える事になる。拙速を選べば基地の防御力が問題となる……か」
「しかも今回のルートはもう使えないから力押しで行くか新たなルートを探すか」
「両方とも難しいが、多少力押しの方がマシかも知れんな」
「どちらにしろ俺はしばらく動けないからこの件からは外れますね」
「ふん」
鼻息で返事するな。
所長が椅子から立ち上がり、
「また必要なら話を聞きに来る。早急に身体を治せ」
「トカゲじゃあるまいし。そんな特殊能力は持っていませんよ」
「それでも……だ。今回の件でここに矛先が向く可能性もある」
「その兆候が?」
「無いとは言えん。とにかく早く治せ」
一応遠回りして
「至らぬ点はあるが、今回のお前の仕事は及第点をやる。次の仕事を楽しみにしておけ」
そう言い残して病室から出ていく所長。要件は済んだらしい。……まだ身体が癒えていない俺に次の仕事を振るとは……さすが所長殿。
「ちゃんと叱られた?」
「……何で期待通りの仕事をして来て叱られる必要があるんだ?」
所長と入れ替わりで入ってくる香織。
一難去ってまた一難と言う言葉が頭に浮かぶ。
「こんな大怪我してるじゃない」
「生きて帰って来ただけマシだ」
窓の外をぼんやり眺めながらそう言う。鳩が飛んでるな。鳩なんか見つけられると捕まえられて食われてしまうから最近はかなり珍しい。
「もう!ああ言えばこう言う!」
「頭までやられていない証拠だろ?少し寝る」
「そうやって逃げる!」
「……まだキツいんだよ」
「……もう」
さすがに病人相手にはそこまで強くは出て来ないか。と言っても充分過ぎるくらい当たりは強いが。
力を抜き、目を閉じる。そっとタオルケットを掛けてくれる所はさすが世話焼き。
逃げる方便で寝ると言ったのだが、やはりまだ本調子では無い為、すぐに眠気が来る。
ぼんやりと眠りに入る瞬間。
そっと髪をかきあげてくる優しい手の感触を感じた気がした。
「おやすみ」
こんな優しい声の主が香織の訳が無い。
きっと夢なんだろう。
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