第12話
階段を駆け登り、何とか三階まではたどり着いた。が、連中もダメージから回復したようで、階下から爆発音と共に爆風が階段を伝って俺を襲う。アイツらミサイルをぶち込みやがったな!とっとと逃げないと、下手すればビルが倒壊する。
階段から廊下を走り抜け、適当な部屋に入り、窓から下を確認する。こちら側にはタコはいない様だ。
隣のビルの屋上を狙い、ウインチのワイヤーを専用銃で打ち込む。フックが圧縮空気で飛ばされ、屋上の柵に掛かる。
すぐにガラスの割れる音でタコが寄ってくるだろう。急いでワイヤーが固定された事を確認し、ウインチの巻き取りスピードを最速にしてスイッチを入れる。
爆風で吹っ飛んだ時の様な勢いで窓から隣のビル壁に叩きつけられ、ゴリゴリと身体を擦りつけられながら屋上に上がる。
巻き取りが終わり、フックを外し屋上に上がり、上がり込んだのとは反対側まで屋上を走り、周りを見回す。
よし!ここからなら俺の機体まで行ける!再びフックをタコを隠した場所の瓦礫の山に打ち込む。固定を確認してウインチも柵に固定させる。クソ!ウインチ二基も捨てる羽目になってしまった!結構いい値段するんだが……報酬に上乗せしてやるさ。
所長の渋い顔が脳裏に浮かぶ。
張られたワイヤーに下降器を取り付け、滑り降りる。
チューン!チューン!
弾が空気を裂く音がすぐ近くでした。銃声は遅れて聞こえる。連中のタコとは少し距離があるか。瓦礫の近くでブレーキを掛け、下降器から手を離す。
二メートル程の高さから加速のついたままで飛び降りたので、着地しても勢いを殺せずに瓦礫にぶち当たる。息が出来ない身体をそれでも無理やり動かしてそばの一軒家に瓦礫をくぐって潜り込む。
瓦礫を抜けると俺の機体が和室に仰向けに鎮座している。シュールな光景だが、笑っている暇はない。ハッチを開き背嚢をコクピットに放り込んでスウェット上下を脱ぎ捨て、中に着込んだ耐圧服姿になる。
ろくに点検もせずにタコを起動。家をぶち抜き外へ出る。耐圧服の締め付けがキツいが……これは必要な事だから我慢するしかない。
外に出た瞬間左に飛び、転がる。出てきた辺りに銃弾が集中する。
機体を立て直して周辺の索敵。二機がバラけてこちらに接近中。挟み撃ちにするつもりだろう。
体勢を整え近い方のタコに向かってダッシュ。耐圧服で締め付けているにも関わらず血が偏る感覚。あっという間に敵機体に近付く。真横をすり抜ける瞬間右脚くるぶし部分のピックを地面に打ち込み、相手の背後に回り込み、勢いが付いたまま背中にぶち当たる。こちらにも衝撃があるが、奴の方は吹っ飛んでうつ伏せに倒れ込んでいる。そのまま背中から腰の駆動液タンク辺りにCAL.50をぶち込む。まずは一機。
まだもう一機のタコは俺に追い付けていない。視界に重なる感じで表示される地図上の敵機体の位置を見ながら後ろを取るためにタコを走らせる。
ガガッ!
被弾する音。クソ!ローラーを壊した奴が追い付いて来たか!
幸い装甲の厚い背部を掠めた程度の様だ。他の場所だったらヤバかった。
センサーの範囲に入って来たもう一機。動きが重いこっちを先に片付ける事にする。
モニタに表示される地図を見ながら路地を不規則な動きで走り接敵していく。あちらも俺の動きに気付いた様だ。回り込みながらもう一機のタコと連携しようとしている。
なら……
大通りに出てミッションザックを作動。ザックに入っている特殊な薬液混じりの駆動液が機体に回り、機動により上がった液温度が一気に下がる。それに伴い人工筋肉の反応が更に上がり、耐圧服で対応出来ないレベルまで反応が上がる。
全身がギシギシと悲鳴をあげる。この状態では身体が長くは持たない。正面から敵に突っ込む。
目がかすみ、耳もよく聞こえないのではっきりとはしないが……奴もこちらに向けて発砲しているが、俺の機体は何とかかわしている様だ。沢田さんやおやっさんとの模擬戦で手に入れた回避パターンが有効な様子。二人にボコられた甲斐があった。
衝突直前に機体を回り込ませながらこちらも発砲。奴の機体右腕右脚の装甲板が弾け飛び、その衝撃で転倒する。スピードを落とさず肩部ミサイルポッドから二発撃ち、もう一機を牽制しながらCAL.50で止めを刺す。あと一機!
モニタには……ミサイルの爆風が理由だろう。大きくふらつき、次弾を警戒する様に裏路地に入り込んで行く敵機体が表示される。よし!
このまま大通りを加速していく。暗くなっていく視界。どんどん残りの機体と距離を取っていく。ミッションザックからチャフとスモークを出す。これで有視界戦闘は無理だし、センサー感度もにぶくなる筈だ。
敵機体の表示がぼやけていく。各種センサーの有効範囲から外れつつある証拠だ。徐々にスピードを通常の走行モードまで落として行く。
ピピッ
ミッションザックの作動がオートカットされる。耐圧服の締め付けも通常のものに。
その瞬間何も入っていない胃の中身をメットの中にぶちまける。全身の痛みも耐えきれないレベルで襲って来る。が、今機体を止める訳にはいかない。
苦しむのも後回しだ。
メットの中に立ち込める酸っぱい臭いに再び吐く。
それでも俺の口元は歪んだ笑みを浮かべ、足はペダルをいっぱいに踏み込むのを止めずにいた。
今日も生き延びられた。
……今はそれだけでいい。
薄れた意識を痛みで繋ぎ止めながら、機体を走らせ続ける。
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