第6話

「いつまで寝てるのよぉ!」


 蹴飛ばされて目が覚めた。昨日とは大違いの目覚めだ。


「……寝るのが遅かったんだよ」

「だからって!もうお昼よ!」

「いいじゃないか……仕事も休みだしタコの整備もあらかた終わったし……」

「人として腐っちゃうわよ!いいから起きなさい!」


 ついにはベッドから蹴り落とされる。こうなると起きない訳にもいかない。


「はい!これ飲んで目を覚ましなさい!」


 コーヒーを差し出される。

 ……この飴と鞭があるから邪険に出来ないんだ。コーヒーをひと口飲み、テーブルの上のタバコに火をつける。


「……タバコの何が美味しいのかねぇ」

「言い方がババ臭いぞ」


 コーヒーをテーブルに置いたタイミングで頭を引っぱたかれる。


「このタコどうしたの?」

「帰りに襲ってきたヤツの機体だ」

「ふーん。動くの?」

「さあ?パーツ取りのつもりで持って帰ってきたからな」

「動くならあたし専用にしようかと思ったのに」

「使うなら直してやるが高いぞ」

「タダならもらってあげてもよかったのに」


 こう見えてコイツもしっかりタコを動かす事が出来る。……と言うか無理やり教えさせられた。押しが強いタイプは苦手だ。


「買い物しといて荷解きもしてないし!」


 ぶつくさ言いながらテキパキと荷物を開き、用途別に分けていく香織。


「おカミさんのコピーみたいだな」

「それはあたしにとっては褒め言葉よ」

「嫁さんとしては良さそうなのに」

「それ以上言ったらぶち殺す」


 殺されてはたまらない。黙ってコーヒーを飲む。

 コイツこう見えて俺の物を置く癖をしっかり把握していて、後で『アレはどこだ?』

 って事がほとんどない。もう少しお淑やかさがあれば嫁さんとして引く手あまただろうに。


「これ何?変な銃ね」

「加藤のとこから買ってきた。人工筋肉で弾を飛ばす銃だと」

「へーっ。あ!それじゃ今使ってる銃もう要らないわよね?ちょうだい!」

「いいぞ。ほら」


 テーブルに放って置いた九ミリ拳銃をホルスターごと投げる。受け取った香織が妙な顔をしてこっちを見る。


「……一体どうしたの?熱でもある?」

「たまには礼もしなきゃな。弾は自分で買えよ。……まぁおやっさんが居ればこんな物使う機会は無いだろうが」


 自衛隊時代は他駐屯地にまで噂が広がっていたというおやっさんだ。片足を失って引退したとはいえ元空挺レンジャーの肩書きは伊達じゃない。


「……ありがとう。大事にするね」

「大事にするのはいいが、道具に使われるなよ」

「うん。いっつもコウはそう言ってるもんね」


 装飾品をピカピカにしているのとは訳が違う。道具は使ってこその道具だ。たまにいる『銃に傷が!』とか騒ぐ馬鹿は綺麗な銃を抱え込んで死ねばいい。

 ただ、使い倒すのと雑に扱うのは別物だ。そこの区別がついてない連中が多すぎる。


「この銃も古いのにガタがきてないもんね。手入れをちゃんとしてるから?」

「無理をさせなきゃいけない時に無理が効くようにいじってるからな」

「傷だらけだけどスムーズに動くよねコレ」

「当たり前だ。命を預ける物だぞ」

「……時々調子見てくれる?あたしの手入れが悪くないか」

「たまにならいいぞ」

「……ありがと」


 少し頬を赤くして礼を言う香織。

 ……コイツもこんな顔が出来るんだな。

 いつもこうならモテるだろうに。


 なぜかその後押し黙った香織と荷物を片付ける。

 持ってきてくれた昼飯(ちゃんと金は取られる)を二人で食い、お互い手に入れた銃を試射しようということになった。


 裏庭に作った射撃場に移動。まずは香織から撃ち始める。

 二マガジンほど撃ってから、


「気持ちいいくらい当たるね。なんだろ?相性いいのかな?」

「グリップをいじってるせいじゃないのか?合わなかったら自分で調整しとけよ?」

「なんかその必要もなさそう」


 俺より少し小さいくらいの香織。百七十ないくらいか?その体格のおかげでグリップが握りやすいのかもしれない。


 しかしコイツ出る所は出て引っ込む所は引っ込んでるグラドル体型なんだが……なぜモテない?

 ……やっぱりこの性格のせいか?


 試射はもういいとの事なので、手入れをさせてみる。オートは基本ばらし方は同じ様な物なので、少し教えただけでスライドとフレーム銃身の分解は出来る様になった。掃除をさせている間に俺も試し撃ち。


 加藤が言ったように、この銃の人工筋肉はタコの物と互換性があった為、吊るしてあるタコから外した物と交換してみた。正確な威力が知りたいので、ここに置きっぱなしの劣化した装甲板ではなく、やはり吊るしてあるタコから外した装甲板を置く。


 ガシャッ!カンッ!

 ……加藤の店で試射した時より反動と音が強くなっている。が、この程度なら問題も無かろう。ダイアルを回し、威力を最大に。


 カンカンカン!


 通常弾の一発で装甲板を貫通しかかっている。連射性も悪くない。昨夜は人工筋肉の交換と調整だけだったから、可動部のすり合わせをしっかりしてグリップをいじれば信頼性も上がるだろう。


 値切って買った銃だが、コレはいい買い物したのか?加藤に悪いことしたかな……

 


 脳裏に仏頂面をしている加藤の顔が浮かんだ。

 ……笑える。

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