第5話

「それは最終試作品だからフレーム強度はかなり高いらしいぞ?」


 試作品があちこち壊れてもテスト出来ないからオーバークオリティ気味に作ってあるんだろう。


 連射してみる。反動が少ない分コントロールが容易だ。三発目辺りで装甲板を貫通した。


「どうだ?」

「気に入ったかもな」

「四十五万な」

「やめた」

「おいおい」

「高い。実用レベルのテストは終わっているのか?」

「材質なんかのグレードダウンのテストに入った辺りで中止になったって聞いてる」

「それにしても高い。弾も専用だろ?」

「お前が買うなら徹甲弾仕様の弾を作ってやる」

「……ホルスター用の革と替えのバッテリー、マガジン三つ込みで三十」

「仕入れ値いくら掛かったと思ってる?四十」

「徹甲弾二百通常弾二百付けて三十五」

「……だからお前嫌いなんだよ。もうそれでいい」

「こんな変なモン俺しか買わないだろ?お得意さんにはサービスしとけよ」

「あーあーわかったわかった」


 実際には臨時ボーナスだけで購入出来たんだが……コイツこういうやり取りが好きなんだよな。なんでも『いかにも商人っぽい』からだと。


 他にも食料品やコーヒータバコ等を買い漁り、なんやかんやで百万近くが飛んで行った。何しろコーヒーやタバコなどの嗜好品は高いし、タコの部品や消耗品は更に高い。


「だいぶ在庫がハケたな。毎度!」

「後で配達しといてくれ」


 そう言い残して店を出る。今日はまだコーヒーしか胃に入れてない。飯食うか。


 行きつけの飯屋に着くやいなや、


「何で帰って来たらまずウチに顔出さないのよ!」


 とすっ飛んで来たのはこの飯屋の娘である俺と同い年の香織。バイクのエンジン音で俺と判断したらしい。


「飲みにいってたんだよ」

「ウチで飲めこのバカ!」


 ギアを入れアクセルを開けながらクラッチを繋ぎアクセルターン。逃げようとしたのだが、素早くキルスイッチを切られる。

 襟元を掴まれ、


「ぬっふっふ。せっかくのお客を逃がす訳ないでしょ?」


 コイツ無駄に身体能力高いからヤなんだよ……


「さぁ食えさぁ飲めツケを払え」


 しょうがない。ふところが暖かいうちに支払いしとくか。


「おかえり!無事だったみたいだね!」

「何とかね」


 中に入るとおカミさんが声を掛けてくる。隣でおやっさんが無言で頷く。


「日替わりでいいかい?」

「メインは何?」

「今日は塩ジャケだね。冷凍工場から買い付けてきたんだよ!」


 海の魚なんて珍しい。漁をする人がいないから滅多に食えないモノだ。おカミさんの言う通り日替わりを注文して席に座る。


「ねえねえ。今度はどこに行ってきたの?」

「働かないと怒られるぞ?」

「まだ時間早いからお客さん少ないもん」

「……北だ。もう存在しないがな」

「何で?例のアレ?」

「多分な」

「いやねぇ……こっちには来ないわよね?」

「今の所その気配は無いが……わからんぞ」

「その時は当然守ってくれるんでしょ?お願いね!」


 言いたい放題言って他の客に呼ばれて離れる香織。全く……賑やかなヤツだ。


 久しぶりに食った魚はうまかった。元々あまり魚は好きではなかったが、いざ食えないとなると食いたくなるのが人って物だ。


 食事を終え、ツケ込みの料金を支払って外に出る。バイクに跨りキーを差し込んでいる所に香織が店から出てきて俺に声を掛ける。


「しばらくはここにいるんでしょ?」

「今の所はな。所長様のご機嫌次第じゃないか?」

「沢田さんが言うにはご機嫌よろしいみたいだけど」

「軍曹殿が言うなら間違いないな」

「ふふっそうねきっと」


 二人して笑い合う。


「明日か明後日遊びに行くからねー」

「来なくていい」

「どうせ掃除もしてないんでしょ?こんな美女に掃除してもらうなんて幸せ者だと思いなさい」

「……美女?」


 蹴られた。


「ちゃんと家にいなさいよ!んじゃね!」


 バタバタと店に戻って行く香織。腐れ縁と言えばそうではあるが……元々世話焼きなのだろうきっと。

 無理やり自分を納得させてエンジンを掛ける。コイツのエンジンがイカれたら人工筋肉式のエンジンに換装しないといけないんだが……やはり昔馴染みのエンジンの方が乗ってて楽しい。


 若干しんみりしながら家に帰り着くと、門の前に荷物が放置してあった。加藤が家の警備システムにこの荷物も家の一部だと認識させているから盗まれる事は無いが……どうせなら中に入れとけよ。


 人力で何往復かする手間を嫌ってわざわざタコを出して家に運び込む。荷解きは明日だ明日。


 そう思ったが、新しい銃の事を思い出した。

 梱包を剥ぎ取ると、一番上に銃の入ったケースと五十センチ四方くらいのヌメ革。


『弾は出来たら連絡するから取りに来い』


 加藤の書き置きを丸めて投げ捨てる。


 ケースを開いて中身の銃を取り出し、マガジンを外しグリップのバッテリーも外す。


 銃の後方からピストン式のロッドが動いて装弾する訳か。ピストンは通常スライドのある位置にはまりこむ様になっている。この辺はオートマグそっくりだ。指でつまんで引っ張ると、普通の銃並の抵抗がある。装弾を確実にするためか?


 新しい玩具に夢中になって夜のふけるのにも気づかず、外が明るくなってきて慌てて眠ったのは内緒だ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る