第4話
思ったより重症だった俺のタコだが、オーバーホール自体は簡単に済んだ。と言っても脚フレームを大ハンマーでぶっ叩いて歪みを修正したりと大変なのは大変だったが。
骨格であるフレームが歪むと、その周りに設置された人工筋肉の動きが阻害されるから軽いうちに修正しておかないと実戦中にエラい事になったりする。
そんな雑な扱いで大丈夫なのかと言われそうだが、所詮は武器。精密機器程の気難しさは無い。規定内のクリアランスに収まって入れば動きに支障は出ない。
まぁフレームが延びてしまう為、あまり褒められた方法では無いが。だがフレーム修正を『店』に頼むと、程度のいい中古フレームが買えるくらいの金が掛かる。なので特殊なフレームを使っているタコ以外そんなことを頼むヤツもいない。そういう面を考えて俺はパーツ入手が割と簡単な二八式を使っている。それが終わったら持って帰ってきたタコからローラーのユニットを外し、ざっとチェックする。俺のタコのより全体的に程度がいい。異音の出ていた俺の機体のローラーユニットと丸ごと交換する。
脚部が終わったら次は腕だ。これは筋肉シリンダーのひとつひとつにテスターを当て、反応の悪い物を交換するだけ。九本中三本の交換で済んだ。
不具合部分の修理が済んだらグリスアップ。
古いグリスをクリーナーで洗い流し、新しいグリスを入れてやる。俺が使っているグリスは、とある廃工場で手に入れたテフロンの粉をモリブデン系グリスに混ぜ込んである。
コイツのおかげで手入れが大変だが、タコの動きがかなり軽くなる。その他にもベアリングを高級品に交換したりと、細々手を入れている。
グリスアップが終わったら可動部に防塵カバーを付け、装甲を装着してオーバーホール終了。何が大変かってこの装甲の付け外しが一番手間だったりする。僅かな歪みでもフレームにはストレスになるし、取り付ける時に合いが悪いと上手くハマらないし。
コーヒーとタバコでひと休みしてからタコに乗り込んでテストする。
うん。走行モードでも狂いが無くなり、全身の動きが軽くなった。本当なら稼働後毎にグリスアップした方がいいのだが、さすがに個人レベルではそんなことやってられない。
耐圧服を着ていないので、全開テストとはいかなかったが、軽く動かしただけでオーバーホールの効果は確認出来た。
タコをベッドに寝かせ、耐圧服無しでタコを動かした為に軽く痛む腹をさすりながら時間を確かめる。なんやかんやで昼はとうに過ぎ、三時に近い時間になっていた。
シャワーを浴びて油汚れを落として『店』に向かう。
「おう。色々と手に入ったぞ。まぁ見てみろ」
店主の加藤が店に入るなり声を掛けてくる。俺のふところが暖かいって事を知ってるなこれは。
無言で頷き並べられた様々な物品をチェックしていく。とりあえず駆動液のフィルターやグリス等の消耗品を確保。
「何だコレは」
そこにあったのは見た事の無い拳銃。結構大型で、自動式ではあるのだろうが……通常ならスライドのある場所にマガジンらしき物が鎮座している。見た目はオートマグかウッズマンスポーツかって所か。
「お前が好きそうだから仕入れてみた。人工筋肉式拳銃の試作品らしい」
タコに使われる人工筋肉の汎用性はかなり高い。コイツのおかげで内燃機関がほぼ絶滅(残った内燃機関は充電用に転用されたカブのエンジン程度)したくらいだ。とはいえ拳銃に使うとは……
「コイツの開発者はバカなのか?」
「発想はバカだな。だが使えるぞ」
「威力はどんなもんだ?」
「そうだな……50AEって所か」
「はあ?!」
デザートイーグルクラスって事か?しかし……
「どんな理屈だこれは」
「詳しくは知らん。人工筋肉で弾頭をはじく事で飛ばすらしい」
「……試射出来るか?」
「いいぜ。裏に行け」
銃と弾の入った箱を持ち、裏に向かう加藤。
簡易シューティングレンジに着くと、俺にも見える様に装弾し出す。
「コイツにゃ炸薬が要らない。だから弾頭だけをローディングすりゃいい。最大三十発入るが……まぁ十発も入れときゃいいか」
大人の指先くらいもある弾頭を詰めていく加藤。
「んで……だ。マガジンを装着してグリップを握れば電源のスイッチが入る。後は引き金を引くだけだ」
銃身部分を持ち、銃をこちらに差し出してくる。
握ってみるとそう握り心地は悪くない。
「グリップはバッテリーが入ってるだけだからオーダーあれば替えてやるよ」
商売熱心な事で。
威力が50AEクラスって事で、反動もそれなりのつもりで的代りの装甲板を狙って撃つ。
カシャッ。カァァン!
拍子抜けする音。炸薬を使っていない為スライドの作動音しかしない。しかし反動はそこそこある。と言っても9パラ辺りと同じくらいか?装甲板はといえば、貫通はしていないが結構歪んでいる。
「おもしれーだろ?」
「面白いが……問題があるから実用化されてないんだろ?」
「あーそりゃコストの問題と材料だな」
「?」
「使われている人工筋肉をソレに使えるレベルまで威力を落とすのが大変だったってよ。後はフレームなんかが疲労で持たなかったそうだ。だからチタン合金やら何やら使ってやっと撃てるレベルの銃が出来たとよ」
「……って事は威力は上げる事も可能なのか?」
「使っているのはサイズ的にタコの指用の物と同じだ。二八式のでも威力は上がるな」
「このダイアルは?」
グリップ底部にあるダイアルを指し示す。
「威力の調整用だ。最弱ならスタンピストルとしても使える」
「さっき威力を落とすって言わなかったか?」
「そのダイアルの最大威力をな。言ったろ?フレームが持たなかったんだって」
……面白いなコレ。
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