第2話
見慣れた建物が視界に入ってくる。
何とか無事に帰り着いたな。
瓦礫とセンサーで取り囲まれた建物が立ち並ぶ場所が見えてきて、やっとひと息つく。まずは仕事の報告からか。
建物を幾つか通り過ぎると、元はショッピングセンターだった場所に着く。複数ある入口の中で、タコが門番をしている所が目的の『出張所』だ。ここ辺りの建物や人員、タコ等の戦闘車両等の管理もしている。元々政府機関の出先機関だったのだが、政府自体が崩壊しているので、ここ周辺の自治機関の様なモノだ。
「よう!お疲れ!無事だったか!」
声を掛けてきたのは元自衛官の沢田さん。ひとことで言うと『にこやかな鬼軍曹殿』だ。
「目的地で一戦交えて帰りにもう一戦って所ですよ」
「そのタコが帰りの戦利品か」
「そろそろ俺の機体もオーバーホールなんで」
俺の機体を脇に寄せ、電源を落とす。本来なら降着させるのだが、背中の機体のせいで降着姿勢が取れない。なので突っ立たせたままハッチを開き、あちこちにある小さなステップを使って降りるしかない。
シート背部に放り込んでいたHDD(及び周辺機器)を取り出し、それを持って機体から降りる。沢田さんに軽く手を挙げ建物の中に。
通常なら案内という名の監視員がつくのだが、さすがにここの臨時職員扱いの俺はフリーパス。
俺が帰って来たのは知ってるはずなので、ノックもせずにドアを開ける。
「いつも言っているがノックくらいしろ!」
部屋の大きな机にふんぞり返っている神経質そうな男が『所長』だ。
「俺が来るのを待ち構えているんだから必要無いでしょう」
机を挟んで所長の前に立つ。
「例の『街』は壊滅ですね。生き残りと接触しましたが、どうやら中に『虫』が入り込んでいた様で、あっという間に制圧されたそうです」
「それで?その生き残りはどこに?」
ここに住み着く人を増やしたい所長。住民が増えれば生産性も戦力も増加する。そうすれば周辺の『自治体』相手にも発言力が増す。
「さあ?どこかアテがあった様で。誘ってはみたんですが」
「……無駄足だったか」
「そうなりますが、それでも金は貰いますよ?」
「約束額の二割引きだ」
「いいですよ?二度と仕事は受けないし、その辺の事情も公開しますが」
「……脅しか?」
「そちらの条件を満たした仕事をしてきたのに気に食わない結果だから払いをケチると?」
腹立たしげに手元の紙に契約通りの金額を書き込み、卓上の機械に通す。偽造不可の刻印が打たれ、現金の出来上がり。叩きつける様に俺の前に置く。
「それと……帰りに襲われました。まだルーキーっぽい感じでしたが」
「機体は?」
「俺の機体がオーバーホールなんで。HDDはお渡ししますよ」
机の前に担いだままのHDDを置く。
「おいくらで引き取って貰えます?」
ご立腹の様子の所長を背に部屋から出る。
臨時ボーナスも入った事だし……『店』でも覗いてみるか?
沢田さんに挨拶して四日ぶりの我が家へ向かう。しばらく歩いた所の元整備工場が俺の家だ。
家の防御機構が俺の姿を捉え、照準を定めるが、発砲される前にキーコードを打ち込みロック解除させる。鉄の板で作った簡素な門が自動で開く。そのまま工場に入り、背中の機体を下ろしてハンガーに吊るして置き、そうしてからお手製ベッドの前に立つ。機体の背中をベッドに向け、そのまま後退させるとラッチの噛み合う音。腕を動かしレバーを引かせると、垂直に立ったベッドがゆっくりと倒れていく。
ハッチを開き、ベッドが水平になる前にコクピットから出る。
お疲れさん。
機体の左腕を軽く叩く。そうしてベッドの診断プログラムを走らせる。明日の朝には結果が出ているはずだ。
吊るされた機体をざっとチェックするが、至近距離で爆発に巻き込まれた割にダメージは少なめだ。とはいえ装甲はまともに使える訳もなく、使うとすれば叩き出して変形を修正するか、切り取って補修に使うかしかない。
だが、中身にはダメージがほぼ無い様で、これなら細かいパーツ程度の出費で済みそうだ。
面倒臭い仕事ではあったが、終わってみれば実入りのいい仕事だった。
太陽熱のシャワーはまだ熱を保っていた。四日分の汚れを落とし、さっぱりした気分でビールを開ける。
これからどうするか……
臨時収入も入った事だし、飲みにでも行くか。冷蔵庫の中身も日持ちする物しか入っちゃいないし。その前に『店』にも寄っておくか。
年代物のV45を引っ張り出してエンジンを掛ける。走行少なめとはいえもう半世紀ほど前のバイクなんだが、まだ特に異音も無い。さすが世界の……と言われた奴だ。
さて。出物があればいいんだがな。
ギアを蹴りこみクラッチを繋ぐ。ヒュルヒュルと音を立て加速するV45。
まずは飯食うか。
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