鉄錆と青空
コンロッド
『黄昏』の中で
第1話
ギャァーッ!
コアレスモータの異音が酷い。さっきの仕事で痛めた様だ。走行モードから歩行モードに切り替える。
スピードを落とし、停止する前に歩き始める。切り替え機構はダメージ無しか。
ガスッ。ガスッ。脚が地を噛む音と衝撃。身体が揺さぶられ、胃にくる。ナビとリンクしての自動歩行なんだが……徐々に左にズレていく。腕の動きも多少重いし、そろそろオーバーホールしないとダメか?面倒臭い。
ビーッ!
生理的に不快にさせる警告音。反射的にレバーを左に倒し、両足ペダルを外にひねりながら踏み込む。しゃがみこみながら左に飛ぶ機体。空きビルに突っ込む格好だが、文句言う人間もどうせいやしない。さっきまで俺が居た辺りを銃弾が抉ぐる。銃声はほんの少し遅れて聞こえた。
抉れた路面の傷と角度から相手の大体の場所を特定。そこから自分ならどう動くか考え、予想出来る現在地辺りにCAL.50をばらまく。その間ほんの1〜2秒。
hit!
その辺りを撃たれたらそっち方向に逃げるしか無いよな。
裏をかけるほどの腕は無い様だ。そいつが出てくると予想していた所にロックしておいた肩のミサイルポットから二発ぶち込む。後方爆風でビルの中がぐちゃぐちゃになり、ホコリで一時的に視界がさえぎられるが、サーモにカメラを切り替えておいた為問題は無い。直撃は出来なかったが、爆発に巻き込まれたそいつはビルの壁に叩き付けられた。機体もあれじゃ動かないだろうし、そもそもシェイクされた中身がどうなっているかの想像もつく。
いつでも飛び出せる体勢を取ったまましばらく様子を見るが、周辺に動きは無い様だ。センサーにも感は無い。
のそのそとビルからホコリまみれの機体を出し、ピクリともしない敵機体に近付いていく。前面ハッチをこじ開けてみると、やはりコクピットで耐えられる限界を超えていたらしく、固定された身体と、あらぬ方向を向いたヘルメット。
腕を伸ばし、敵機体のハードディスクを周辺機器ごとむしり取る。何かしら情報は取れるだろう。ハッチを開けてコクピットの中に。シート背部のわずかなスペースに放り込む。
……こいつを囮に他の敵が襲ってくる可能性もあったが、何も動きが無いという事でその可能性も消えた。とはいえ遠距離からの監視等も無いとは言えない。その辺も頭の片隅に置きつつ機体漁りを続ける。
一通りコクピット内を調べ、もう特にめぼしい物が無い様なので、律儀にシートに鎮座している死体を掴みだし、路上に置く。
墓のひとつも掘ってやるのが人というモノなのだろうが……あいにく殺し合いした相手に敬意を抱くほど暇では無い。
空になった敵機体を背中のラッチに固定。背中合わせの格好で引きずって行く。一見重そうだが、敵機体の足裏には走行用のタイヤを出してあるからそう抵抗は無い。
ちょうどいいから俺の機体の養分になって貰おう。最悪二個一になるかもしれんが。
多少駆動液の温度が上がっているが、まぁこの程度なら問題ない。警戒しつつのんびりと帰るか。
『人類の黄昏』
誰が言い出したか……いつの間にか定着している今の世界の有様を表現する言葉。言い得て妙だとは思うが、そんな詩的な世界でもなかろう。
今回使われた銃や戦車、そして『トーレスアーク』などの武器。終いにはBC兵器も使われ、核以外何でもありの泥沼の末、ほぼ世界人口は半減どころか精々二割残ったかどうか……
誰が悪いか、未だにガチャガチャやり合っている連中もいるが、今更原因の追及なぞ何の役にも立たない。
世界は変わってしまったんだ。
命があるならそこで生きるしか無い。
機体の駆動音だけをBGMに、ほんの何年か前には人で賑わっていただろう街の中を進む。
『黄昏』か。この先深い夜が待っているって事だ。だとしてもそう簡単に絶望して死を選ぶほどお子ちゃまでもない。生きている以上皆自分の居場所でもがくだけだ。
そんな中でもコイツのおかげで少しはマシな暮らしが出来ている事に感謝すべきだろうな。なぁ相棒。
コントロールレバーをポンと叩く。
『無駄な事を考えるな』と言わんばかりに機体がふらつく。
「家」に帰り着くまでまだしばらくは掛かる。お迎えは期待出来ないから自分で歩くしかない。どうせ答えの出ない考えだ。
索敵の為に頭の中を空にし、周りを見るともなくぼんやりと眺める。
歩行モードで揺れる視界。
死にたく無ければ殺すしかない。
そんな想いが頭の中で浮かんで消えた。
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